表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖竜王のサガ  作者: whisky
冒険の始まり
5/200

戦闘

天井を支えているらしい巨大な石柱が何本か見えたが、その先端は暗闇の中に消えていた。

地面は磨き上げられた葺石で覆われ、壁も少々崩れた箇所があるものの、緻密な彫刻を施された石板がはめ込まれており、ここが重要な場所であったことは容易に想像できた。


進んで行くとやがて、端まで光が届かない程の幅を持つ大階段が現れた。

10段ほど登るにつれ、奥の方に一層荘厳な雰囲気を醸し出す、大きな霊廟のような建物が現れる。

「どうする?ハリー、中に入っても大丈夫だと思うか?」

考えるより先に行動することが多いダニエルだが、流石に躊躇したようだった。

「先に進む道を探す必要はあるんだ。入ってみるしかないだろう。」


三人は、注意深く周囲を確認しながら、建物の内部に足を踏み入れた。

奥には巨大な祭壇が鎮座しており、その周囲を立派な衣装や武装を身に纏った姿に表現されたドワーフの彫像が囲んでいた。

手前の方には、側面に戦闘の様子や祈りを捧げる様子、聴衆を前に演説する様子などの彫刻が施された石棺が、数十は並んでいるだろうか。

ほとんどの石棺の蓋の上には、生前の被葬者の姿を模したと思われる立体的なレリーフが施されている。


「こいつは棺桶だよな。小さいけど子供用かなあ。」

「いや、恐らくドワーフのものだろう。装飾の見事さから見ても、被葬者は高貴な身分だったに違いない。」

コンティニュアルライトの魔法は既に効果が切れており、カンテラをかざしながら棺桶を調べるダニエルに眉をしかめていたシンシアだったが、石棺の蓋をあけようとするのを見て思わずたしなめる。

「ちょっと、ダニー。止めなさい!」


「いいじゃないか、何が入っているのか興味あるぜ。お宝があるかも。」

「駄目よ!死者の眠りを妨げてはいけないわ!」

シンシアの叱責も、ダニエルの欲と興味を吹き消すことはできなかった。

しかし豪華な装飾が施された蓋は重く、ダニエル一人では動きそうもなかった。

「ちぇっ!残念だなあ。」

しかし、幸運の女神が再び微笑みかけたようだ。

「おい、ダニー。あっちを見てみろ。」

ヘンリーが指差す方を見ると、蓋が開いた石棺がいくつか見える。


「やったぜ!」

ダニーはその内の一つに駆け寄ると中を覗き込んだ。

そこにはドワーフらしき、がっちりした体躯であったろうと想像できる、甲冑を着込んだ遺骸が横たわっていた。

不思議なことに石棺の底には、半透明のヘドロ状のものが溜まっている。


覗き込んだダニエルは、異臭に思わず顔をそむけて叫ぶ。

「うぇー!このドロドロは何だ?腐った肉でも残ってるのか?」

シンシアが積もった塵をはたくと、甲冑や装飾品は本来の輝きを取り戻した。

死者への鎮魂の思いも、初めて見る素晴らしい品々への興味が勝ったようだ。

「流石はドワーフね。どれも素晴らしい細工だわ。」



「みんな!俺たちの目的を忘れるな・・・。」

浮かれる二人を引き締めようとしたヘンリーが言い終わらない内に、シンシアの悲鳴が霊廟内に響いた。

「動いたわ!」

先ほどの石棺の隣に並んでいた少し粗末な石棺を覗き込んでいたシンシアには、そこに葬られているドワーフの手が動いたように思えたのだ。


「そんな馬鹿な。こいつらみんな骸骨かミイラだぜ?ネズミでもいたんじゃないのか?よく見てみろよ、動くはずなんてないさ。」

呆れたような声でダニエルに注意されたシンシアは、気のせいだと思い直した。

「そうだったのかしら・・・ そうよね、骸骨が動くはずないわよね。」

「おーい、冗談言ってないでこれを見てみろよ。伝説に登場するミスリルの武具じゃないかな?錆もせず光り輝いているぞ。凄いな!」

ヘンリーも、伝説にしか登場しない希少金属の武具を目の当たりにして、興奮しているようだ。


ダニーに馬鹿にされたのが応えたのか、シンシアは少しふくれっ面をしながらヘンリーの方に2・3歩歩みだした刹那、金属が石に当たったような音を聞いて思わず振り返った。

そして、今度こそ正真正銘、悲鳴を上げるべき状況であることを認識した。

先ほど動いたように思えた骸骨が、握った斧を杖にして身を起こそうとしていたのだ。


「キャーッ!」

驚いて振り返ったヘンリーとダニーも、シンシアが見つめる“モノ”に気がつくと、思わず息を呑んで立ち尽くした。

「何の呪いだ?死骸が動き出すなんて。」

ヘンリーが思わずつぶやいた。

よく見ると骨格の周囲を、棺桶の底に溜まっていた半透明のヘドロが、まるで筋肉のように覆っていた。


「シンシア、逃げろ!早くこっちに来るんだ!」

ダニーの叫び声で我に返ったシンシアが、転がるように逃げてきたのと入れ替わって、剣と盾を構えたヘンリーが前に出る。


「手厚く葬られているからには、名だたる戦士だったのだろう。骸骨とは言え、手合わせできるなら望外のことだ。」

今や骸骨の戦士は、眠っていた石棺をまたぎ出ようとしていた。

護衛の兵士なのだろうか、チェインメイルに兜を身に着け、武器はバトルアックスという標準的な装備だ。

希少金属製ではないのか、防具も武器も錆ついているように見える。


ヘンリーは盾を前面で構え、右手に持つ剣をグルグル回してリズムを取りながら、慎重に間合いを計っていく。

石棺が障害物となる状況は、小柄なドワーフにとって有利に働くだろう。

ヘンリーは自由に戦える、開けた場所に移動しながらドワーフを誘導する。

一方、骸骨の戦士もバトルアックスを胸元で構えてゆっくりと近づいてきたが、ヘンリーの間合いに入る寸前で、突然体を低く落として足元に飛び込んできた。


ヘンリーは、鋭く足を払おうとするバトルアックスに剣を合わせて受け流すと、すぐさま盾を腰のあたりにあてて体当たりを試みた。

ドワーフもバトルアックスを盾のように構えて踏みとどまり、二人は密着して押し合う。

ヘンリーは盾越しに上から相手の首筋に剣を突き刺そうと試みるが、骸骨剣士は後方に飛び退って回避した。


しかし次の瞬間、バトルアックスを中段横手に構えつつ、突進してくる。

身長に差があるため、相手が胸から下を狙ってくることを冷静に感じ取ったヘンリーは、攻撃を盾と剣で受け流しながらチャンスを探った。

突然、錆びて痛んでいたのか、ヘンリーの剣と打ち合ったバトルアックスの刃が大きく割れ、相手の体が流れた。

勢い余った骸骨剣士がたたらを踏んだ隙を逃さず、ヘンリーが踏み込みざま鋭く剣を横に払う。

切り離されたドワーフの頭が転がり落ち、続いて体もその場に崩れ落ちた。

同時に、遺骸を覆っていた粘体スライムが、液状に戻って流れ出す。


「やったな、ハリー!」

駆け寄って来たダニエルと抱き合いながら、ヘンリーは初めての実戦に勝利した高揚感に包まれていた。

しかし次の瞬間、周囲の石棺より次々と同じような骸骨が立ち上がるのを見て、二人は恐怖に凍りついた。


「神様、そんな・・・」

思わずシンシアも絶望のつぶやきを漏らして肩を落とす。

そんなシンシアを元気づけようとするかのように、ヘンリーは勇気を奮い起こして叫ぶ。

「大丈夫だ。俺が守ってやる!二人共、俺の後ろに下がるんだ。ダニー、シンシアを頼むぞ!」


骸骨戦士ドワーフを観察していたダニエルが叫ぶ。

「ハリー!奴らの正体はフレッシュゴーレムだ!ぶっ倒す方法は、骸骨に取り付いた粘体スライムの中心核を破壊するか、焼き尽くすかだ!」

どうやら先ほどの骸骨戦士ゴーレムは、運よく中心核を破壊できたのだろう。

「ダニー、中心核はどこにあるんだ?」

「知らねえ!すまん!」

「ダニー、あなたスライムを焼くことができる呪文は使えるの?」

「んー、ファイアボールなら焼けそうだな。そうか、生物だから焼けば死ぬよな。」



立ち向かってくるフレッシュゴーレムは5体で、先ほどの1体とは異なって明らかに上質そうに輝く甲冑を身に纏っており、これも鉄とは明らかに異なる輝きを放つバトルアックスや剣をかざしながら、ゆっくりと迫ってくる。

一斉に攻撃されれば、ヘンリー一人で後ろの二人を守りきることは到底不可能だろう。

「ここでは包囲されてしまうから不利だ。一旦先ほどの通路まで戻って体制を立て直そう。わかったか?」

「ええ!」

「了解した、司令官殿。」


二人の威勢の良い返事を確認したヘンリーが号令する。

「走るぞ!」

三人は松明やランタンを拾うと、元の狭い通路に向かって全力で走った。

振り返ると、5体のフレッシュゴーレムもゆっくりとこちらに向かって来るのが見える。


そのときヘンリーの脳裏に、今までとは異なった雰囲気がする念話が響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ