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聖竜王のサガ  作者: whisky
冒険の始まり
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罠と魔法

三人は早速、救出に向け出発した。

声の主によると、このまま広い洞窟に沿って轍を辿って行けば幽閉場所にたどり着けるが、邪悪な者共が途中に強力な罠を設置している可能性が高く、現在の三人の力で切り抜けることは不可能だろうと思われた。

それ以外に敵の手下共が抜け道に使っている細い洞窟があるはずだということで、そちらを探そうということとなった。


「狭くなるから一列で、俺・シンシア・ダニーの順で進もう。何か出るかも知れないから、十分注意をしていくぞ。」

「今頃言うのもなんだけどな・・・」

ばつの悪そうな口調でダニエルが話し出した・

「さっきの念話だが、親父の魔法辞典に記述がある精霊魔法に似ているんだ。」

「どんな魔法なんだ?」

「遠話という名前だったが、効果や使用法はハリーの話と符合している。ただ、精霊魔法ということは妖精族や魔物が得意とするものだし、思念をエネルギーとして相手に打ち出す感じらしくて、特に遠距離ともなると、かなりの精神エネルギーが必要なんだそうだ。」


「そんな大事なこと、どうして今頃言うのよ!」

シンシアに責められたダニエルが、頭を掻きながら言い訳する。

「いやあ、弱虫シンシアが怖がって帰りたいなんて言い出すと、冒険がおじゃんになるだろ?アッ、イテテ。」

突然シンシアに頬をつねられ、ダニエルは思わず悲鳴をあげた。

「でも不思議ね。どうしてハリーだけが念話を使うことができるのかしら?」

「俺にもわからない。ただ、向こうの力が強大なことは感じたから、おそらく何かと補ってくれたんだろうと思う。」


しばらく進むと、地面が敷石で舗装され、壁や天井も装飾した石板で覆われるようになった。

殺風景な石造りのエイボン城どころか、ヘンリーから見れば十分華麗な聖ロンデリアン修道院でさえ比較にならない壮麗さを感じるものだった。


「素晴らしい彫刻ね。」

すっかり感動した様子のシンシアが、あちらこちら見回しながら呟く。

「こいつが噂の“呪われたドワーフの王国”のようだな。

ひょっとするとこの先に、幻のドワーフの宝があるかもしれないぞ!」

「そいつは凄い!でも誰も成功しなかったというのが気になるな。

まさか俺達も全滅ということはないだろうな。」


シンシア同様、見たこともない荘厳な建築様式に圧倒される二人だったが、ドワーフの宝を手にすることができるのではという期待と、命がけになるのではないかという不安などが入り混じって興奮が隠せない。

「いやよ!脅かさないで!でも注意が必要なのは確かね。」

夢見ごちの気分から一気に現実に引き戻されたシンシアが怒ったように言う。


やがて直角に曲がっていて、先が見通せない箇所にやってきた。

ヘンリーは他の二人をその場に留めると、左手にカンテラを掲げ、右手に剣を握り締めて向こう側に飛び出した。

「うわっ!」

ヘンリーの叫びを聞いた二人も続いて飛び出したが、危うくぶつかりそうになって急停止する。


と同時に、その先に横たわる屍が視界に飛び込んできて、思わず息を呑む。

「何なんだ、これは・・・」

「どうやら宝探しに挑んだ冒険者が、誰も戻らなかったという話は本当らしいな。見ろ、埃のつもり具合からすると、かなり古いものらしいぞ。」

少しでも奥に光が届くように、カンテラを高くかざしながらヘンリーが言った。

三人の光源を合わせると10メートル以上奥まで見通せるようになったが、かなり悲惨な状況であることが伺え、シンシアは思わず目を背けた。


最も手前には槍に貫かれて既にミイラ化した屍が横たわっており、その少し先には中央に落とし穴が口を開けている。更に先には左の壁にもたれて座っているような形で1体、そして落下した天井石に押しつぶされた者もあった。


「遺骸をそのままにするなんて、見せしめかしら?」

「いや、どうやら罠が作動して殺されたようだな。天井板は落ちたまま、落とし穴の床板も開いたままのようだから、おそらく王国滅亡後に訪れた冒険者達だろう。これだけ厳重に警戒していたとなると、この奥には何か重要な施設があるのかもしれない。」


「おいおい、まだ罠が残ってるんじゃないのか?」

珍しくダニエルが不安そうに尋ねる。

「これだけ作動しているから、ほとんど残っていないだろう。残っていたとしても数百年は経っているだろうから、壊れているのではないかな?」


ヘンリーは背負っていた盾を左手に持つと体の正面に構え、一歩毎に足元や周囲を慎重に確かめながら進み出した。しかし、落とし穴を避けようと右端に寄ったとき、踏み出した右足にガクンという衝撃を感じる。

前方から石弓の発射音と近づく矢音が聞こえ、盾を持つ手に大きな衝撃を感じた。盾を調べてみると、中央付近に石弓の矢が半ば貫通した状態で突き立っている。


「おっと、まだ罠が残っていたみたいだ。流石ドワーフ製だなあ、数百年経ってもちゃんと作動するなんて。状態が良ければ完全に貫通して、大怪我していただろうなあ。」

などと呑気に話すヘンリーに向かって、シンシアが叫んだ。

「ハリー!もう危ないわ。戻って来て!」

「いや、もう少しで扉があるみたいだ。先に進んでみる。」


ヘンリーは右側の壁に沿って進み、やがて蝶番が壊れて斜めになっている扉の前に立った。

「扉の向こう側は大きな空間のようだ。ダニー、シンシアをカバーしながら落とし穴までは中央、そこからは右端を進んで来い。そこなら罠にはかからないはずだが、注意して進めよ。」

「これでも無いよりはマシだな。」

ダニーはそうつぶやきながら足元の遺骸の一つから古びた盾を拾うと、シンシアを後ろに庇いながら注意深く進み出した。


「しかし命がかかっていると思うと、緊張するなあ。これぞ冒険の醍醐味というか・・・ シンシアはやけに落ち着いていたけど、怖くなかったのか?」

ようやくヘンリーの元に辿り着いたダニエルが、額の汗を拭いながら尋ねる。

「神様のご加護を信じていましたから。」

すまし顔で答えたシンシアに、少しムッとしたダニエルが思わず皮肉を言ってしまう。

「これだから坊さんは怖いね。神様が一緒なら何だって平気ってか。」

「神様を冒涜するなど、許しませんよ!」

「へん!やれるもんなら、天罰でも何でも当ててみな!」


「おい、二人ともその辺でやめておけ。扉の向こうも用心が必要なようだ。」

外れかかった扉の向こうを覗いていたヘンリーが、気が緩みがちの二人に注意を促す。

扉の向こう側には巨大な空間が広がっているようで、カンテラの明かり程度では何があるのか皆目検討がつかなかった。



「ちょっと待て。俺が魔法で照らしてみる。」

ダニーはそう言いながら進み出ると、リュックから小袋を一つ取り出して薄緑色にぼんやり光る光苔の粉を一つまみ、魔法の杖の先端に塗りつけた。そのまま杖を扉の隙間から外に向かってかざしながら、魔法「コンティニュアル・ライト」の詠唱を始めた。

杖の光は序々に強まり、詠唱が終わる頃には半径15メートル程度の範囲が照らされるようになっていた。


「これがダニーの魔法か・・・ 凄いもんだ。初めて見たぞ」

思わずヘンリーが驚きの感情を漏らす。

シンシアの魔法は、将来旅に出るときに備えた練習と称して武術の訓練時にバトルソングを聞かされたり、傷にヒールをかけられたり、何度も体験していたが、魔導士の魔法を見たのは初めてだった。



魔法は、術の発動方法、使用するエネルギーの種類や増幅方法等の差異により、化学魔法・生体魔法・精霊魔法の3体系に分別される。


ダニーが得意とする化学魔法は、黒魔法や攻撃魔法とも呼ばれ、化学変化や物理変化に伴って発生するエネルギーを、魔道師の精神エネルギーを触媒としてアストラル界から引き出した同種のエネルギーで増幅するものである。


科学魔法の発動は、

①素材を使って化学反応または物理反応を起こし、

ルーンを結んだり呪文スペルを唱えることによって精神を集中し、

③増幅した精神エネルギーを呼び水としてアストラル界から反応と同種のエネルギーを引き出し、呪具(杖・ルーンスタッフやマジックワンド、マジックリングなど)に蓄積して一気に打ち出す。

という手順で行う。


但し最高位の術師ともなれば、素材・詠唱・呪具をほとんど必要としない。

イモータル・クラスともなれば、アストラル界から自在にエネルギーを引き出すことができるという。


精神エネルギーを操り、アストラル界とコンタクトできる適正が無いと魔道師にはなれない。例え才能があっても、高位の魔道師による訓練を受けなければ術を身に付けることは、非常に困難である。また術毎に触媒・呪文が異なり、エネルギーの集中方法も異なるため、個々の魔道師に得手不得手が存在する。同じ魔道師であっても魔法毎に習熟レベルが異なることも多い。


一方シンシアが操るものは生体魔法、俗に言うところの白魔法・治癒魔法である。

術者の精神エネルギーを媒介としてアストラル界から同種のエネルギーを引き出すのは、科学魔法と類似する。

だが、基本的に素材を使用せず、術者はルーン呪文スペル詠唱で生体エネルギーとアストラル界から引き出したエネルギーを練り上げ、自らの肉体から、もしくは呪具に蓄積させてから、直接対象となる相手に放射する。


傷や病気の治療に使われることが多いが、使い方によっては逆の効果をもたらす。

①気分の高揚や消沈、恐怖を植え付けたり取り除いたりといった精神への作用。

②細胞の活性化による破壊された組織の再生や、遺伝子レベルの変異をもたらすことによる癌化・老化などの促進や抑止、体内の病原体の駆逐といった肉体への作用。

③一時的な筋力・持久力の上昇や下降など、生体活動のリズムにかかわる事象に影響を与える、神経系に対する作用。

といった系統があるが、やはり得手不得手が存在し、複数の系統を使える者は少ない。


術の性質からか神官に広まっており、各宗派・教団は修道者に対し教義に適合するタイプの呪文を習得させるよう、組織的に教育を施している。

生体魔道師のうち、不死や生命練成、死者蘇生やなど、禁忌とされる領域に踏み込んだ者は、特に死霊魔道師ネクロマンサーと呼ばれるが、せいぜい老化の遅延や生霊ゾンビ化を行う程度で、イモータルと呼ばれる存在を除いて不死や死者蘇生が行われた事実は報告されていない。


最後の一つは精霊魔法で、術者が精霊と交信し、その力を発動させる魔法である。と言われているが、実態は触媒などを使わなくとも、術者がイメージすることにより直接アストラル界からエネルギーを引き出す術式だ。


このタイプの術者は人間には少なく、精神力に優れたエルフやドワーフなど妖精族や、ドラゴン族や巨人族といった高い知性を持つ魔物に多い。術に利用される精霊は、大気・水・大地・火の4つのエレメンタルに属すると言われるが、これは術者が暴風・雷・洪水・地震・噴火といった自然現象のイメージを用いることが多いからである。


術者はルーンを結んだり(踊りや儀式であることも多い)、呪文スペルを詠唱したり、歌を歌いながらトランス状態に入るなど、独自の方法でイメージを練り上げ、イメージどおりのエネルギーを引き出す。

術者がエネルギーの引き出しに失敗したり、途中で精神エネルギーが尽きて制御を失ったりした場合、術は暴走することもあるので危険である。


ちなみに、どの魔法においても発動させる際に使用する呪具は、蓄積するエネルギーに耐えうる強度や性能を必要とするため、術者のレベルに応じて入手の困難度や価格は飛躍的に上昇する。



ダニエルは、珍しく自分に対して素直な称賛の声を上げたヘンリーに向かって、意外と落ち着いた声で答えた。

「魔道師の掟で、人前でむやみに使うことは禁止されているんでね。でもお前を驚かすことができるなんて少し良い気分だな。おっと、そんなことより、早く入ってみようぜ。術の効果は長く続かないからな。」


壊れた扉をどかすと、三人は警戒をしつつも広間に足を踏み入れた。


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