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聖竜王のサガ  作者: whisky
冒険の始まり
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謎の声

三人は松明をかざし、盾を構えるヘンリーを先頭に、シンシアを挟んでダニーが殿という順で進んだ。しばらく進むと、空洞が大きく広がり、更に奥に向かっていくつかの洞窟が続いているようだった。


「ハリー、どっちに進む?」

「先に誰かが通った痕跡がないか、調べてみよう。」

しばらく探索すると、1本の太い洞窟に向かう何本かの轍の跡が見つかったが、中にはかなりの重量がある荷を積んでいたと思われる、深く地面を穿ったものもあった。


「やったぜ!奴らに違いないな。しかし、女の子を乗せていたにしても、めり込み過ぎだなあ。」

「足跡も結構残っているから、盗賊団ってこともありそうだな。」

「応援を呼んだ方が良いのではなくって?」ヘンリーの分析を聞いたシンシアが心配そうに言った。

「弱気になるなよ。盗賊の10人や20人くらい、俺の魔法で吹っ飛ばしてやるぜ!」ダニエルが杖を振り回しながら威勢よく叫ぶ。


一方でヘンリーは腕組みしたまま、轍の先にある洞窟を見やりながら黙考する。

盗賊や傭兵くずれ相手なら容易く切り伏せる自信もあるが、数の暴力には太刀打ちできない。二人を守りつつ複数の敵と戦うのは不可能だ。


シンシアの言うとおりに応援を呼ぶべきかと弱気になったのも、実は洞窟に足を踏み入れて以来、例えようの無い不安感を感じていたせいもあろうか。

が、威勢の良いダニーの台詞に後押しされたように言った。

「その意気や良し!これからはいつ敵と遭遇するか知れないから、声や物音を立てずに慎重に進もう。」


それから30分程、三人は互いに口を利くことも殆ど無く黙々と進んだ。轍の跡が残っているので迷うことは無かったが、ヘンリーの不安感は徐々に強さを増し、頭の中で何かが唸っているようだ。


「ハリー、大丈夫?辛そうよ。」

立ち止まってしまったヘンリーの顔をシンシアが心配そうに覗き込んだ刹那、ヘンリーの頭に重々しい不思議な声が響いた。

“ハリー、そなたの名はハリーと言うのか。”


ぎょっとしたヘンリーは、あわてて周囲を見回した。

「ハリー!どうしたの?」

「おい!大丈夫か?」ダニーはヘンリーの両肩を掴んで、顔を覗き込みながら問いかけた。


“ハリー、驚かせて申し訳ない。だが、どうか恐れないで欲しい。我には、そなたの助けが必要なのだ。”

「お前は誰だ!どこにいる!姿を現せ!」

ヘンリーはダニーの手を振り払うと、松明を投げ捨て、剣を抜き放って叫んだ。


驚いた二人も松明をかざして周囲を必死で見回すが、おかしな様子は何もみつからなかった。

「おい、ハリー。何もいやしないぜ。騎士になろうってのに、意外と臆病なんだな。」

「いや、変な声が聞こえるんだ。お前たちには何も聞こえないのか?」

「何も聞こえないわ。ずっと先頭に立っていたから、緊張して疲れてしまったのよ。少し休みましょう。」


そのとき、また声が響いた。

“ハリー、どうか落ち着いて聞いて欲しい。我は何日も助けを呼び続けてきた。我の思念を受け取れる者が現れるとは思えなかったが、そうせざるを得なかった。

多くの者の運命が係っておったからだ。

そして天の助けか、そなたが現れた。もう時間が無い。そなたが唯一の希望だ。”


「おい!何のことだ?何を言っているのか理解できん!」

ヘンリーは剣を振り回しながら素早く周囲を見回して声の主の姿を求めた。

「危ねえ!」

ダニーはシンシアの腕を掴むと、剣が届かない場所まで素早く飛びのいた。


“ハリー、今は遠くから念話で語りかけておる。そして我の声は、そなた以外には聞こえておらぬ。我に語り掛けたいのであれば、声を出す必要は無い。そなたが少し強く頭の中で念ずれば、通じるであろう。”


「よし、わかった。」

ヘンリーはそう口に出した後、大きく深呼吸をした。それから強く頭で念じて相手に対して語りかけた。

“お前は誰だ!官・姓名を名乗れ!”

“我は誰にも仕えておらぬ。そなたが知らぬ某王国の王族としか、今は語れぬ。我や我が王国の名をそなたに告げたところで、そなたが理解することは敵わぬ。”

“俺が知らない王国だなどと、それこそ怪しいものだ。名乗りもできない者を信じることができようか。”

“そなたの申すことにも一理ある。では名乗ることとしよう・・・”

次の瞬間、ヘンリーの頭には例えようが無い混沌とした叫びと何色もの光が入り乱れて爆発した。音と光は次第に大きくそして強まり、ついには白熱化して突然消えた。



「どうしたんだ!しっかりしろ!」

「ハリー!ハリー!」

ヘンリーが我に戻ると地面に横たわっており、間近には心配そうに覗き込むダニーとシンシアの顔があった。

「気を失ってしまったのか・・・」

「何かに取り付かれたみたいに返事もしなくなったと思ったら、急に頭を押さえて倒れるし、本当にどうしちまったんだよ。」

「大丈夫なの?気分はどう?」


ヘンリーは頭を振りながら上体を起こすと言った。

「ああ、もう大丈夫だ。少し眩暈がするが・・・」

「いったい、どうしちまったんだ。説明してくれよ!」

半ば心配、半ば怒った表情でダニーが言った。

「そうだな。おそらく俺自身、半分も理解できていないのかもしれないが。」

ヘンリーは自分自身の混乱を整理するかのようにゆっくり語りだした。


「さっき変な声が聞こえると言ったよな。だが、お前達には聞こえていなかった・・・

声の主によると念話というものだそうで、俺にだけ聞こえ、俺が念じた内容も相手には伝わっていた。そいつは俺に助けを求めてきたのだが、正体も分からぬ相手に迂闊に返事はできない。名乗るように言ったところ、某王国の王族としか言わぬので重ねて問うと、突然轟音と光の嵐に襲われたんだ。」


「攻撃してきたということか?」

流石にダニエルも真剣な表情で問う。

「いや、たぶん彼らの言葉で名乗りを上げたのだろう。何となく人ではないような雰囲気を感じていたからな。」

“人ではない“という言葉に二人は押し黙った。突然直面した想定外の状況に、どのように対応してよいのか思いつかない。強大な敵が現れたのではないか、という漫然とした不安が沸き起こってくるのを止めようがなかったのだ。


やがてシンシアがハリーの目をみつめながら言った。

「ねえ、ハリー。助けてあげるんでしょう?」

ダニーが驚いて跳び上がった。

「おい、ちょっと待て。よく考えてから決めないと。敵の罠ってこともあるんだぜ?」

「そうだな。だが邪悪な雰囲気は感じなかった。とは言うものの、ダニーが言うとおり決断するには情報が少なすぎる。」

「それでは、もう一度“念話”だったかしら?で呼びかけてみたら?」

「そうだな。やってみよう。」


ヘンリーは目を閉じると意識を集中させた。そして心の中で呼びかけてみると、すぐに応答があった。

”ハリー、恐れることなく再び接触を持ってくれたことに感謝する。”

”先ほどの音と光の塊があなたの名か?”

”そうだ。既にそなたも察しておろうが、我は人間ではない。だが人間を害する存在でもない。機会が訪れれば我々について語ることもあろうが、今は許して欲しい。”


“私に助力を乞うておられたが、危機に瀕しておられるのか?”

”如何にも。不覚にも邪悪なる者共によって囚われの身となり、間もなく黒魔術の生贄とされることだろう。”

“囚われの身・・・ もしや人間の娘も一緒に囚われておりませぬか?”

”人間も近くの洞窟に囚われておるようじゃ。但し何人かは既に生贄とされておるが。”

“感謝いたします。あなたをお助けすることを約定いたせば、人間が囚われている場所をお教えいただけましょうや?”

”無論じゃ。”

“では、仲間の者と相談して参ります。しばしお待ちを。”



精神集中を解いたヘンリーは目を開け、二人を交互に見つめながら語りだした。

「声の主は邪悪な者共によって幽閉され、黒魔術の生贄にされようとしているそうだ。更に、人間達も近くに幽閉されていて、何人かは既に生贄にされてしまったらしい。声の主は、自分達を救出してくれるなら、人間の幽閉場所を教えると言っている。」


「たぶん幽閉されている人間達ってのに、俺達が探しているアリスも入っているんだろうな。でもハリー、そいつは本当に信用して大丈夫なのか?まさか誘拐犯自身でした、なんてオチがついてんじゃないのか?」

ダニエルの意見ももっともだ。正体不明の人外の者より、確実に存在するであろう誘拐犯である方が現実的だろう。


だが、とヘンリーは続ける。

「うーん、上手く説明できないのだが、伝わってくる感じでは信頼できる相手だと思える・・・」


「念話なんて魔術、かなり高位の魔道師でないと使えないのではなくて?そんな実力者を捕らえることができる邪悪な者共なんて、私達が太刀打ちできるとは思えないわ。やはり城に戻って助けを呼びましょう!」

折角の大冒険が中断しそうな危機に、ダニーがあわてて割って入った。

「おいおい、今から城に戻ったりしたら、アリス達が生贄にされちまって手遅れになってしまうぞ?それに騎士なら、助けるべきご婦人を見捨てて行くことなんてできないよな、ハリー?」


「なんだ、結局ダニーは賛成なのか。」

ヘンリーが苦笑しながら言った。

「賛成っていうか、まあ、あれだ、そうそう“乗りかかった船“ってやつだな。それに救出を成功させて、親父を見返してやりたいとも思うし。」


それを聞いたヘンリーは笑顔でダニエルとうなずき合うと、シンシアの方に向き直った。

「シンシア、君の意見はもっともだ。一方で事は急を要していて、城に助勢を求める余裕は無いとも思える。我々の歯が立つ相手ではないのかも知れないが、敵わないからと言って見捨てることは騎士道が許さない。だが君には何の義務も責任も無い。どうか危険を冒さず、町に戻って救援を呼んできて欲しい。」


「ハリー。私にだけ帰れなんて、そんな悲しいことを言わないで!それに救援を呼んできても、アリスを救えなかったら何にもならないわ。私も一緒に行かせて!」

必死で訴えるシンシアの様子を見て、ダニエルは真顔に戻って言った。

「ハリー、シンシアも連れて行こう。三人はいつだって一緒だったじゃないか。大丈夫、俺が命に替えても護ってやるぜ!」

「ありがとう、ダニー!」


ヘンリーは大きく息をつくと言った。

「二人の決意のほどは分かった。では声の主にこちらの決定を伝えよう。」

そして再び目を閉じ、精神を集中させて呼びかけた。


”こちらの結論を伝えたい。応じられよ。”

”ハリー、貴重な時間を我のために費やしてくれたことに感謝する。そなたたちの選択が我の希望を砕くものであったとしても、決して恨みはすまい。”

“私達はあなたの要請に応じ、あなたの救出に尽力することを約します。但し、我々の目的はあくまでも拉致された友人達を救出することであり、その目的の妨げにならない限りですが。”

”感謝する。そなた達が信ずる神の加護があらんことを!”

”どういたしまして。さて、急がないといけないようですし、早速道案内をお願いしたい。それと道すがら、あなた方を幽閉した邪悪な者共について詳しくお教えいただけませんか?”


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