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5.もし安全が確保され、避難場所で食事が配給されたら

投稿遅くてごめん

 (比嘉)たちが着いた頃には、既に大体の生徒が集まっていました。

 なんだか、毎回遅れている気がします。


 舞台の上で体育館全体を見渡している長井生徒会長は、ほとんどの生徒が集まったのを確認してから、ゆっくりと話し始めた。


「集まってくれてありがとう

 さて、早速だけどみんなもさっきから考えてたと思う、今日のご飯の話をしたい」


 長井会長は先生方に指示を出して、大きな段ボール箱を五つ私たちの前に持ってきて開封した。


 箱の中には、乾パンと大きく書かれた缶と、水入りペットボトルが入っていました。


 校長先生は箱から乾パンとペットボトルを一つずつ取り出し、私たちに見せました。


「皆さんも見たことがあると思いますが、これが乾パンです。缶の中には乾燥したビスケットと、氷砂糖が入っています。こっちは見ての通り水です。

 長い間置かれていたようですが、消費期限は二年後と書かれているので安心してください。


 これらを一人につき、一つずつ配ります。救助が来るまでは、コレが毎日の食事になります」


 校長が言い終わったと同時、周りの生徒たちがザワザワと騒ぎ始めました。


 えー! アタシハンバーグが良いのに〜

   ンな量で足りる訳無いだろ! もっと食わせろよ!

 そーだそーだ! 育ち盛り舐めんな!

  せっかく頑張ってバリケード作るの手伝ったのにこれは無いだろ

   今日は家で焼肉だったのに……


 既に怒号とも言えるほどの声たちは、一秒毎にどんどん大きくなっていきます。

 少食気味な私にとっては丁度いいくらいの量だけど、確かに運動部の人たちには物足りない気がする。それに毎食乾パンなんてすぐ飽きるのが容易に想像できる。


 先生方は生徒を落ち着かせようとしますが、むしろ逆効果の様で、なんで食料をもっと用意しなかったのだと怒りの対象が徐々に校長や先生たちに向かいます。


 校長先生はそわそわと居心地の悪そうな態度で特に何もしていません。

 ついには「帰りたい」と泣き出す人まで現れました。


 「静かに!」


 一際大きな声が体育館中に響きました。

 それに面食らってか、途端に辺りは静かになりました。

 声の主である長井会長は、お立ち台の上から生徒たちを見渡すと再び喋り始めました。


「みんな驚かせてすまない。確かに量が少ないのももっともな意見だ。乾パンだけなのも味気ないだろうね。


 だけど落ち着いて考えて欲しい。食べ物は無限にある訳じゃないんだ。

 実は体育館にある倉庫には、全校生徒、およそ五百人の一日分しか入っていなかった。


 さて、今いるのはおよそ百人。そこの茶髪の君、この人数だと何日食べていけると思う?」


 長井会長は最前列にいた茶髪の人を指差して問いかけました。

 指差された彼……あれは、山田……さんたちだ。

 私に酷いことをしたとはいえ、彼らも無事避難できていたようで安心しました。


 助からなければよかったのに……

 なんて、一瞬でも湧き出てしまった感情を抑え込みながら――


「あーっと……百人が五百人分だから……五日分もあるのか?」


「正解! だけど、五日分()じゃない。

 五日分しか(・・)ないんだ。

 救助はいつくるかは分からない。多分、最低(・・)でも一週間はこないと思う。


 だから、頼む! 辛い気持ちは分かる。僕だって家に帰りたい。家族に会いたい。たくさんご飯を食べたい!


 だけど今は、今だけはみんな我慢をしてほしい!

 教師や生徒会長という立場からの命令ではなく、同じ仲間としてのお願いだ!」


 静寂。先程と打って変わり、誰も何も喋ることなく沈黙が少しだけ続きます。


 パチ、パチ


 何処かから小さく、だけど確実に拍手の音が聞こえてきます。

 それに続いて他の人も拍手を始め、その波は大きくなり、やがてほとんどの生徒が拍手喝采。館内が拍手の音で包まれました。


 私も釣られて拍手を続けます。長井会長は照れ臭そうにぺこぺこと頭を下げていました。


 やっぱり彼は素晴らしい。ゾンビらが入らないよう、即座にバリケード建設を指示する判断力。

 先生でも止められなかった怒号を簡単に止めてしまうカリスマ性。

 そして、バラバラで挫けそうだったみんなの心をまとめ上げる統率力。

 生徒会選挙の時に、彼に投票して良かったと心から思う。


 拍手を続けつつ、ふいに隣を見ると、そこにいた朝倉さんだけは拍手をせず、じっと会長を見つめていました――






 拍手が一通り鳴り止んだ後、校長先生の説明通り乾パンと水。それから毛布と最低限の日用品セットが各自配られました。


 その後解散になると思いましたが、見張りの人員を決めるという話になりました。


 見張り――バリケードはあるものの、万が一ゾンビたちが侵入してこないとも限らないので、夜間二階から玄関口を見張る人が必要です。


 会長は立候補する者がいないか確認しましたが、学校や部活で既に疲労しているのに、バリケードの作成や先ほどの騒ぎで皆かなり疲れています。


 それにようやく状況が落ち着き、緊張の糸が切れていて、この時点で私も含めたほとんどの人が眠たくなっていました。


 ダメ押しで、私はほとんど見えませんでしたが、ゾンビたちの一部は襲われて亡くなられた先生の遺体が元となっています。

 顔見知りがゾンビとなって血塗れている姿なんて誰も見たくはありません。


 当然ながら誰も手を挙げようとしません。それを見た会長は次の案を出そうとしましたが――


 ――朝倉さんが一人、手を挙げました。


 唯一見張りに立候補した彼でしたが、流石にたった一人ではずっと見張ってはいれません。


 そこで朝倉さんは、突然私を相方に、代わりばんこに見張りをすると言い始めました。


 私も眠かったので断ろうと思いましたが、助けて貰った恩があるので、断りきれず引き受けることになりました。


 それを見ていた山田……さんと、その取り巻きは私と朝倉さんがデキてるんじゃないか。

 と、私たちの顔を見てイライラした様子で下らない事を言ってきました。


 朝倉さんとはまともに話したのは今日が初めてでそういったやましい関係ではないと、ハッキリ言い返そうと思いましたが、彼に止められ何も言えませんでした。


 最終的に、朝倉さんが、消灯時刻に決まった二十三時から四時までの前半。

 私がそこから七時までの後半を担当することに決まり、ようやく生徒一同は解散となりました。


 私はある程度乾いた制服に着替え、体操着のジャージを朝倉さんに返そうと……考えましたが、さっきまで着ていたものを男の人に渡すのは少し嫌だったので。少し肌寒いこともありブレザーの中にそのまま着ておくことにしました。


 その後に食べた乾パンは、空腹というスパイスが効いてか、予想以上に美味しく感じました。







 ――深夜一時五十二分。


 疲れ切った人々は眠りにつき、照明を落とした体育館内は、闇が覆い、月明かりと今もなお燃えている桂琴町の炎のみが静かに辺りを照らしていました。

 ゾンビたちも、私たちを諦めたのか扉を叩くのをやめ、非常に静かでした。



 コツン、コツン


 そんな中、私はふと目を覚ます。

 予定では四時前まで寝ていたはずだったのに、随分と早く起きてしまいました。


 コツン、コツン


 うっすらと、規則的な音が聞こえて来る。


 コツン、コツン


 最初はゆっくりだけど、徐々に音の間隔は狭まり最後には消える。しばらくするとまた最初から聞こえて来る。


 聞いた事がある気がする。軽い物……球体? が落ちる音。ピンポン球かな?


 起き上がり、見渡す。裸眼なのでボヤけた視界だけど、周りに誰もいない。

 見張りのために二階で寝ているので当然の事だ。


 あれ? 誰もいない?


 見張りをしているはずの朝倉さんが見当たりません。

 慌ててメガネを掛けて立ち上がり、注意深く確認すると、無事だった窓の一つが少し開いているのに気づく。


 ゆっくりと近づいて、覗いてみると、そこには屋根の上からゾンビに向かってピンポン球を投げている朝倉さんがいました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 叫ぶな拍手するな、デカイ音を立てるなよ バリケード叩いてるゾンビがいる時点で意味ないのかもしれないけども
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