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41.もし最悪の敵に遭遇してしまった場合

連続更新6話目です。百万、億が一最新話から飛んできてる場合はご注意下さい。


『255ページ 最悪の敵。


 もし貴方がモンスターやゾンビ、その他自然現象に反した怪物などに出会い、本書の指南通りに行動しても対処出来ず、また、弱点や何らかの状況を好転させる手段すら得られなかった場合


 その場合・・・


 そのばあいは___




 

 ――ここから先は何も書かれていない。』





 

 立ち上がって血塗れの右手をタオルで拭っていると、遠くからエンジン音が聞こえて来た。


「第二陣ってか? どうりで昨日来た時より人数がちょっと少ない気がしてたんだ。どうするよナオ?」


 現状、この市役所近辺の道は全て瓦礫で塞がれている。

 徒歩ならなんとかよじ登れるだろうが、バイクで接近するのは無理だろう。


 ならば登って来たところをボウガンで狙い撃つか? もう既に一人殺してしまった以上、ここからは何人()ろうが問題はない。


 あるいは総長の死体や捕まえた“八咫烏”を使ってもいい。


「ん? この音は……地響きのような、なんでしょうか?」


 比嘉さんに言われて耳を澄ませると、けたたましいエンジン音に混じって、確かに地響きの様な音が断続的に聞こえる。

 それがどんどんと大きく、こちらに近づいて来る。


「これは……どうやらあまり時間がない様だ、直希クン」


 宵櫻さんは少し焦った様な顔をして、俺の眼を見つめる。


「いいかい、よく聞くんだ。

 どんな手段を使ってもいい、この場を()()()()()みせるんだ。キミが私の“期待通り”なら出来るはずだよ」


 彼女から目が離せない事に気付いたが、あの“頭が融ける”様な感覚はしなかった。


「もし生き残れたなら、特別になんだってしてあげよう。

 私はキミが思うより万能でね、私の特技を活かしてキミの役に立って見せよう。

 やろうと思えば一緒に世界を救う事も、滅ぼす事だって出来るかもね。

 

 なんなら身体を使って欲を満たす事だって許可してもいい」


「な、何を――」


 その時、道を封鎖していた瓦礫が文字通り()()()()()


「キミには“期待”しているよ」


 その言葉を最後に、宵櫻さんの気配が消えた。

 振り返っても、もうどこにも見当たらなかった。


「ヒャッハー! 総長、ちゃんと連れて来やしたぜ!」


 砂埃から飛び出して来たのは三台のバイク。そしてその背後から現れたのは――


 ――一体のゾンビだった。


 ボサボサの長髪に、三メートル近い身長。体格は巨漢の一言。一見太っているだけの様に思えるが、よく見れば脂肪の下には分厚い金属の様な筋肉があるのが分かる。

 ゾンビではないとも思ったが、特有の血走った瞳と血に濡れた口で一目で人ではないと分かる。

 それと何故か裸で(まわ)しだけを身に付けている。力士……なのか?


「ま、まさか――馬胴苑 導(バドウエン シルベ)⁉︎ そんな……」


「千春、アレなんなのか知ってるのか⁈」

 

「はい、彼は桂琴市出身の力士です。本名は工 夕介(タクミ ユウスケ)。二十歳九ヶ月という相撲界の中でも最年少で横綱へ昇格し、昨年四十一歳九ヶ月で引退するまでの間、彼の背中に土を付けた者はいません。他にも数々の伝説を残し、まさに最強、まさに伝説の横綱です。それがまさかゾンビになってしまうなんて……」


「そ、そうか……」


 比嘉さんの口から妙に早口であのゾンビ――“横綱”について説明してくれた。

 聞き取れない部分があったが、どうやら並の力士ではないらしいのは分かった。


「総長、どこに行って――総長!」


 バイカーたちは俺の足元に転がっていた総長の死体を目にし、一瞬立ち止まってしまう。

 

 だが、それがいけなかった。

 今までは一定の距離を保っていたのだろうが一瞬静止した事で“横綱”の接近を許してしまい、目にも止まらぬ速さで近くにいた一人の頭をぶん殴った。


「ぁ――」


 圧倒的な速度で繰り出された掌は瞬時にバイカーの首をへし折って地面へ倒し、そのまま一歩進んでその頭を踏み潰した。


「GYAAAAAAAAAA‼︎!」


 振動を感じるほどに激しい叫び声をあげる。

 そのあまりに大きな声量に、俺たちは思わず手で耳を塞ぐ。


 それは残りのバイカーたちも同様で、至近距離で聞いてしまったからか、バイクから転倒して二人とも耳を抑えて動けなくなっていた。


 “横綱”はそれを見ていた俺たちを一瞥すると、足元にいるバイカーの頭の前で腰を落とし、膝に手を置いて片足を上げる。

 

 相撲にはあまり詳しくなかったが、その動作が完璧なフォームの四股(シコ)なのが分かった。


 パァン!

 

 熟し過ぎたトマトの様にあっけなく、男の頭は破裂音と共に()()()

 俺たちは“横綱”からは何メートルも離れているというのに、確かに地面の振動を感じた。


「食わないで殺すのか⁉︎」


 それはこれまでに遭遇したゾンビとは一線を画す行動だった。


 次に“横綱”はもう一人のバイカーに視線を向けるが、彼は既に近くの掩体に身を隠していた。

 転倒した際に足を負傷したのだろう。這った後と、血痕が痛々しい。


 俺たちもターゲットにされない様、すぐに隠れようとするが“横綱”は予想外の行動に出た。

 普通のゾンビなら、ターゲットが視界から外れた場合その場で辺りを見回す警戒状態に移行する。

 

 だが、なんと奴は血痕を辿って真っ直ぐバイカーが隠れる掩体に向かい始めたのだ。

 

 そのままバイカーが隠れている掩体を覗き込むと、腰を抜かしたバイカーの頭を片手で掴み上げて首を噛み切った。

 最早ゾンビとしても復活できないほどにドンドンと身体を食べ進める“横綱”。


 偶然……ではない。

 俺は、この世界のゾンビ共は知性のないモンスターというよりかは、()()――ロボットに近いものだと認識していた。


 決められた行動しか取らず、捕食もしなければ新陳代謝もない。

 ターゲットのみを狙うが、執着もしない。


 だが、“横綱”は明確に殺害と捕食を行い、規定されていないはずの四股の様な行動を見せた。

 ……間違いなく、知性を持っている。


「朝倉さんっ!」


「ナオ!」


 二人の呼ぶ声に、俺は――――















 









 


「市役所を守るぞ!」


 震える手で、ボウガンを構えた。



 

――――――――――――――――――――



 

 “横綱”は明確な知性を持っている。

 でなければ瓦礫を破壊する事も、噛み付かずに人を殺す事も、見失ったターゲットを追い続ける事もしない。


 しかし知性があるとはいっても対話が通じるとは到底思えない。

 あの時ヤツは確実に俺たちを認識した。

 捕食と殺害の判断基準は不明だが、仮に俺たちが()()()()逃げ隠れても、その計り知れない膂力で城壁ごと破壊して追ってくる可能性が十分にあり得る。


(ここで仕留めるしかないッ――!)


 外にいた人たちは全員城壁の中に逃げ込めたみたいで、城門のバスが音もなくゆっくりと動いて閉ざされる。“横綱”に気付かれない様に後ろで押しているんだろう。


 これで逃げ場はなくなった。

 俺は何度か深呼吸を繰り返すと、ホイッスルを口に咥え、全力で吹いた。


 ピィィィィィィィィィィッ!


 吹いてる自分でもうるさいと感じる程の笛の音は、確かに“横綱”の注意を引いた。


「かかって来い、デブ野郎!」


 俺の挑発が効いたのかもしれない。

 “横綱”はバイカーの頭蓋骨を割って脳を啜っていたが、それを投げ捨てて俺の方へ()()()()


「ゾンビが走るんじゃねぇ!」


 俺は悪態を吐く。

 だがこんな予想外、既に想定済みだ。

 ボウガンの先は動揺でブレる事はない。

 真っ直ぐに“横綱”の頭を狙い、そして……撃つ。


 吸い込まれる様に矢は“横綱”の眉間に迫り――ヤツの左腕に突き刺さる。


「嘘だろ⁉︎」


 最初から狙いが読まれていたのか、反射神経で腕を合わせたのかは分からないが、その勢いを止める事なくこちらへ迫ってくる。


「っ――!」


 ボウガンを捨てて咄嗟に横へ飛ぶ。


 間一髪“横綱”のぶちかましを回避すると、ヤツは急に止まる事が出来ず走り続け、目の前の倒壊したビルの柱にぶつかった。


 激しい衝撃音とともに柱は粉々に砕け、発生した砂埃から無傷の“横綱”が現れる。


「GYA? GUUUUUUAAA!」


 ヤツは俺を見ると、まるで「何故生きている?」と言った表情をすると、次の瞬間には激しく怒り出す。


「こっちだウスノロヤローっ!」


 ヤツの死角、上空からアキが現れる。

 その手にはピッケルが握られており、頭頂部目掛けて全力で振り下ろす。


「――GA!」


 だが寸前、ヤツはアキに気付き回避行動をとった。

 

 ピッケルは頭部ではなく、異常に発達した僧帽筋に食い込む。

 だがヤツはピッケルのダメージをものともせず、次の瞬間にはアキに向かって両腕を伸ばした。


「しまッ――」


 空中では回避する事も叶わず。

 彼女はそのしなやかな胴体を、常識外れの膂力を持ったその手で握られてしまう。


「クソっ! 離せ、離せってば!」


 アキはたまらずピッケルを手放すが、“横綱”は嗜虐的な笑みを浮かべ、力を込める。


 


「ああああああぁぁあああああぁああ!」

 

 彼女の喉からは聞いた事もない悲鳴、絶叫が俺の耳を叩く。


「アキっっ!」


 一体どれほどの負荷が掛かっているのだろうか。アキは喉が壊れてしまいそうな程叫びながら、四肢をメチャクチャに動かしている。


 ――一刻の猶予もない。


 俺は落としたボウガンを拾い上げ、火事場の馬鹿力か、普段の半分以下の速度で弦を引き上げる。

 矢をつがえ、即座に引き金を引こうとした瞬間――


 ――ヤツは俺を見た。

 どんな知覚能力を持っているのか、ボウガンで狙われているのを察知した“横綱”は、アキを放り捨て柱の一部をもぎ取ると、それを俺に向かって投げつけた。


 マズいっ、避けられない!


「ナ、オ……」







 




 ……気が付けば、俺はうつ伏せに倒れていた。

 ボウガンはどこかへ飛んでいったのか、見当たらない。


「ゔっ……」


 起きあがろうとしたが、右腕が激しく痛む。

 プロテクターのおかげか折れてはいなかったが、肩が外れてしまいろくに動かせない。


「アキッ……アキィ……!」


 彼女の名を叫ぶが、返事は返ってこない。

 何度も呼んでいると、“横綱”が俺の目の前までやって来た。


「GYAAAAAAAAAA!」


「お前は呼んでねぇよ……この、化物が――!」


 視界がボヤける。頭も打ってしまった様で、流れ出た血が視界を奪う。

 ……意識は、今にも闇に消えてしまいそうで。


 “横綱”は俺の頭を掴み、自身の顔と同じ高さまで持ち上げる。

 このまま頭を握り潰されるのか、骨の一片まで喰われるのか……。

 

 アキは生きているのかさえ分からない。

 比嘉さんは無事だろうか?

 宵櫻さんは、なんて言ってたんだっけ……?


 逆転の一手も、秘策も……ない。どこで選択肢を間違えた?

 詰み。チェックメイト。終焉。

 

 どうでもいい、もう諦めた方が楽かもしれない。

 そう思い、俺は目を閉じ――


 

 そして目を開く。

 どんな状況だろうが決して諦めてはならない。

 どれだけ辛く絶望的でも、それでも生き残る方法を考え、模索し続ける。

 

 何故なら俺は――



「――プレッパーだから」














「全く――キミには期待していたんだけどねぇ」

 

 ……最期の瞬間。誰かの声が聴こえた気がした。





 第二章、完。

 

 やりたい事が色々とあるので、しばらく今作の更新はお休みです。

「いつも更新休んでるだろ、いい加減にしろ!」ってツッコミは勘弁してください(汗)

 

 小説の勉強もTODO(やる事)リストに入ってるので、次に更新する際はそれはもうとてつもなく進化した文章を読んでいただけるかと思います。マジパねぇっスよ……たぶん。

  

 誤字脱字報告や感想いつもありがとうございます。更新止まってる時も時々覗いてるので、気が向いたらやってくれるとありがたいです。

 もし私を罵倒をしたい場合は、Twitterのリプにでも飛ばしてくれたらすぐに届きます。



 

 ちなみに『プレッパー・サバイバー』の主人公が“朝倉 直希”から変わる事はありません。

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― 新着の感想 ―
[一言]  おっ、一気に更新されてると思ったら、主人公が殺されそうで驚きました。  この作品好きなので楽しみに待ってはいますが、当分更新される予定はないようで残念です。  しかし気長に待つつもりでもい…
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