35.もし感謝される場合
連続更新2話目です。
比嘉さんと宵櫻さんが行った後、特にやる事もなかった俺たちは市役所の中を軽く見て回る事にした。
半分閉まったシャッターを潜り、フロントに入ると避難してきた人々の荷物や寝袋で乱雑としていた。
足の踏み場がないとまではいかないが、何度か物を踏みそうになりながら奥へと進む。
……あの子たちは一体誰だ?
……新しく避難して来たのか? このタイミングで来るなんて……。
……あのジャケット……まさかアイツらのスパイだったりして。
「チッ、ムカつくやつらだな」
アキはギチギチと音が鳴る位に拳を握りしめていた。
「アキ、頼むから何もしないでくれよ」
「――分かってる」
ここに来てから、アキは露骨にイラついていた。
確かに市役所の中は陰気くさく、どんよりとした空気が漂っている。
なにやら警戒する様にこちらを睨みつける男や、コソコソと盗み見て話す人、そそくさとその場を離れる者もいた。
ちなみにだが、アキは陰口を言われるのが非常に嫌いらしく、中学の頃にアキを嫌っていた上級生を気絶するまで殴り倒したりしている。
子供の喧嘩という事や、俺が色々と動いたおかげでお咎めなしで済んだが、それ以降も何かある度に“プッチン”してしまうのを俺がなだめなければならなかった。
言っても聞かないアキを拘束する為に武術を学びはじめたのはその頃だったか?
今では多少落ち着いたのか、俺が言えば手が出る事はないのでなんとかなっているが、ストレスが溜まりやすいこの状況はあまり良くない。
何かで発散させないといつ爆発を起こすか分からないな。
非日常におけるストレスの解消方法は様々であり、人によって異なるがアキの場合は――
「ほら、ジャーキー食べるか?」
「食べるっ!」
――割と単純だ。
そうして、しばらくの間市役所内を散策していると、突然外でバスのクラクションが鳴り響いた。
「くそッ、今日も来やがったのか――すぐにシャッターを閉めて女子供はもっと奥に行くんだッ!」
こちらを睨んでいた男は立ち上がると、周りの人に指示をだして急いで外に出て行った。
状況が気になる俺たちもそれについて行った。
――――――――――――――――――――
外に出ると、遠くから騒がしいエンジンの音がいくつも聞こえてきた。
入り口のシャッターが閉まり、先に外へ出てきた男たちは石で出来た槍の様なものを持って、城門の前に集まっていた。
「あ、朝倉さんっ!」
比嘉さんともう一人、見知らぬ女性がこちらに近付いて来た。
「貴方が朝倉君ね。
私は比嘉 暁美。千春を――娘をここまで連れて来てくれてありがとう」
そう言った女性――比嘉さんの母親、暁美さんは、俺に深々と頭を下げた。
「事情は全て千春から聞かせて貰ったわ。貴方には感謝しても仕切れない。今は難しいけど、後で改めてお礼をさせて欲しいわ」
「えっと……」
暁美さんは俺の手を握り、倒れそうなほど頭を下げていた。
ここまで感謝されるとは思っていなかった俺は少し困惑気味に頭を上げる様にお願いした。
「やぁやぁ、既にお揃いみたいだねぇ」
いつのまにか宵櫻さんが俺のすぐ隣にいた。
声を掛けられるまで全く気が付かなかった。それは俺以外も同様で、暁美さん以外は宵櫻さんの登場に少なからず驚いていた。
「宵櫻さん、貴女にも千春の事以外に返せていない恩が沢山あるわ。一体どう返せばいいのかしら?」
「私が好きにやっただけさ。別に対価は必要ないよ」
「そうは言っても――」
暁美さんの言葉を、コホン。とわざとらしい咳払いで遮る宵櫻さん。
「それより今は急を要する案件があるだろう?」
「……ええ、そうね。二人とも、私に出来ることなら何でもするから考えておいてね」
そう言って暁美さんは城門の方へ向かった。
「それで……一体何が起こってるんですか?」
イマイチ状況が掴めていない俺は宵櫻さんに質問した。
「ここは少し危ないか……よし、あっちで状況を見ながら説明しよう。ほら早く」
俺たちは言われるがまま、宵櫻さんと見張り台に登った。




