30.もしゾンビのいる世界で移動する場合
再びお久しぶりです。連続更新1話目になります。
翌日。
俺たちは十分に日が昇ってから、宿にしていた社務所を出る事になった。
明るい方が敵の接近に気付きやすいから――というのもあるが、実際はアキの奴が大寝坊をやらかしたと言うのが真実だ。
石段前のベンチで待っていると、何食わぬ顔でアキが歩いてきた。
「やっと来たか。はぁ……これで何度目の遅刻だ? 五ヶ月位待った気分だ」
「せいぜい数分程度だろ。誤差だって!」
彼女は悪びれる様子もなくそう言った。
自分が待たせるのは平気でやる割に、他人が一秒でも遅れると、烈火の如く怒り出す。
俺は何度もその悪癖を治そうとはしたが、これはきっと不治の病だろう。
「誤差にしちゃ長過ぎるだろ……もういい、さっさと出発しよう」
そして、俺たちは市役所に向かって歩き始め――
「で、どういうルートで市役所まで行くんだ?」
アキの一言で俺は一歩目から躓く事となった。
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「家から神社への道中に説明したはずだけど?」
「わりぃわりぃ、そんな昔の話覚えてないわ。もう一回説明してくれ」
「あの、実は私も歩くのに必死であんまり……」
比嘉さんは申し訳なさそうに呟く。
「ひ、比嘉さんもか……分かった。だけどそこまで時間がある訳じゃないから、移動しながら説明しよう」
俺は不安な気持ちに包まれながら、移動ルートについて振り返る。
そもそも今回の目的は、比嘉さんの家族が居るという桂琴市役所まで彼女を送り届ける事だ。
この近辺で最初にゾンビが発生した(であろう)繁華街を中心に、市役所はまっすぐ北側に位置している。
反対方向にある学校から追放された俺と比嘉さんは、人口の多い東側を避け、俺の家がある西側の地区を通って神社までやってきた訳だ。
当初の予定では、このまま住宅街を北東に進めば数時間で目的地に着くはずだが、地震の影響で建物が倒壊したり、道路が塞がれたりで街の地図情報とは大きく異なっている可能性が非常に高い。
そこで考えたのは、アキが避難していた駅の線路を通るというルートだ。
線路なら災害の影響を受けづらく、その路線なら神社からそこまで離れておらず、尚且つ市役所のかなり近くまで直通で移動出来る。
そんな訳で周囲を警戒しつつも二人に説明を終える頃には、線路の前に到着していた。
「よし、一人ずつ登っていくぜ。まずはアタシから……っと」
アキが率先してフェンスを乗り越えて線路に侵入する。※1
続いて俺と比嘉さんも線路に入った。
「足下に気を付けて」
足下は石が敷かれていて少々歩きづらいが、フェンスのおかげでゾンビとの戦闘を避ける事が出来る。
転ばない様に少しペースを落として進む事にしよう。日没に間に合うといいが……。
※1.許可なく線路上に侵入するのは鉄道営業法違反となります。
また、平常時に該当行為を行うと威力業務妨害等の、様々な罪に問われる恐れがあります。
災害時でも決して個人の裁量で線路に降りる事はせず、駅員の指示に従って下さい。




