29.もし神社に泊まる場合
恥ずかしながら帰ってまいりました。
執筆自体久々過ぎて、ただでさえ低い文章能力が更に落ちてるかもしれません。
「やっと来たか。ったく、こっちはもう半年くらい待ってたんだけど」
石段を登り切ると、アキは待ちくたびれた様子でそばにあったベンチに腰掛けていた。
「せいぜい数分程度だろ。一緒に行動するんだからペースは遅い方に合わせてくれよ」
「へいへい。かわりに先客が居ないか確認しておいたし別に良いだろ?」
どうやら神社にはまだゾンビや避難してきた人は来ていないらしい。
これは実に幸運だ。
「はぁ……はぁ……やっと、休めるんですね
……」
比嘉さんはだいぶ消耗しているようで、息を切らしながらバックパックを降ろしてアキの隣に座り込んだ。
俺は自分のバックパックからペットボトルを取り出して彼女に差し出した。
「お疲れ様。一気に飲みたいだろうけど、少しずつ口に含むんだ」
彼女はペットボトルを受け取り、俺が言った通りゆっくりと水を飲み始めた。
道中、何度か休憩を挟むように言ったが「大丈夫です」と言って歩き続けた。恐らく俺たちに負担を掛けないようにと思ったんだろう。
おかげで日没には間に合ったが、サバイバルにおいて無理は禁物だ。後で休息の重要性を教えないとな。
しばらくして、比嘉さんの息が整うのを待ってから俺たちは拝殿で参拝をした。
手と口を清め、二礼二拍手一礼。この辺りは説明する必要も無いだろう。
(今晩、こちらに宿泊させていただきます。ご迷惑をお掛け致しますが、どうかお許しください)
そう強く念じる。ここまでやればこれから行う行為を神様も見逃してくれるだろう。別に神なんて信じちゃいないが、祈る事で少しでも状況が良くなるなら、いくらでも祈ってみせる。
「さて、今日の寝床はここだ」
参拝後、俺たちは拝殿から少し離れた所にある二階建ての木造の建物に向かった。
「ここって御守りを買う所ですよね?」
「ああ、ここは社務所と言って神職や巫女の待機場として使われているんだ。知り合いの話じゃ中に寝具とかもあるらしい」
そう言って俺は扉を開けようとして――。
ガチャガチャ。
「やっぱり鍵が掛かってる」
当然ながら入口は施錠されていた。
「え? 鍵を持ってないんですか?」
「まぁ所詮は知り合いに過ぎないからね。でも、まぁ、入る方法はある。アキ、頼む」
「了解」
アキは自分のバックパックからバールの様な物を取り出すと、扉の隙間に差し込み、力任せに押し込んだ。
元々の馬鹿力に加えて、スキルで強化された膂力によって扉はバキバキと音を立ててこじ開けられた。
「さ、アタシも少し疲れてきたんだ。さっさと入ろうぜ」
「だな」
「あの、流石に不法侵入はマズいのでは?……」
比嘉さんは平然と違法行為を行う俺たちに制止を求める。
「確かにこれは器物破損だし不法侵入だ。だがこの世界で生き残るには手段を選んでられないんだ」
「ですが……」
「これから先、こういった事は何度でもやる。今のうちに慣れておくんだ」
「わかり……ました」
善人気質の比嘉さんにとって、無人とはいえ他人の住居に押し入る行為は、とても辛いだろう。
だが、生き残るためには時に法を無視する必要がある。
もちろん、それは何をしても許されるという事ではない。
どこまでが良くて、何がいけないのか。
俺はまだ答えを出せていなかった。
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「にしても千春、メチャクチャ肌キレイだよなぁ」
「んっ……そう、ですか? 私より藤宮さんの方が――ちょ、そこはっ!」
「なんつーか、モチモチしてる。つーのかな。触り心地が良くていつまでも触ってられるな。胸もデカいし柄にもなく嫉妬しそう」
「私も、藤宮さんのスッとした腹筋とか、うらやましいですっ。実は、さ、最近少しお腹周りが……あの、さっきから触り方がやらしいんっ、です、けど」
「へぇ、アタシは普通に千春の身体を拭いてあげてるだけなんだけどなぁ。おかしいなぁ」
「ちょっと、いい加減にっ!」
(こっちに丸聞こえなんだが……)
社務所に侵入した俺たちは、二階の住居スペースで簡易的な食事を取り、明日に備えてすぐに休む事にした。
幸いにも部屋数があったので、男女別れる事になったのだが、なにやら隣の部屋が騒がしい。
話の内容からタオルで身体を拭いているのだろうが、もう少し静かに出来ないものか。
そんな事を考えながら、俺はバックパックの中身を改めて確認する。
本来なら、比嘉さんを家族がいるらしい市役所へと送り届けた後、家に戻る予定だった。
無駄に多くの荷物を背負って移動するのは悪手なので、今回必要最低限の荷物だけで準備していたのだが、まさかこのタイミングで家が、備蓄が使い物にならなくなるとは想定していなかった。
(これじゃあ、ただのサバイバリストだな)
家に置いていた道具もそうだが、問題は食糧だ。
現在、予備も含め一人当たり三日分の食料と水しかない。
市役所まではここから徒歩で半日程だが、そこで食糧を補給出来ると期待しない方が良いだろう。
(やはり切り札に頼るしかないか……出来れば使いたくないんだが)
俺は乾パンの缶を弄びながら考える。
この乾パンは、学校から追放される時に長井会長からせめてもの情けとして渡された物だ。
侵入者――実際はアキだったが――を倒す為に武器として使った後、特に食べるでも保管するでもなく、なんとなく自室に置いてあった。
避難時にもそのまま置いていったので、他の荷物同様潰れたり破損していると思っていたが、マンション跡捜索の結果、偶然にもほぼ無傷で瓦礫の中に埋もれていたのを発見した時は驚いた。
本来は嵩張るので持って行くつもりは無かったが、記念というか、お守り代わりにバックパックに入れておこうと思う。
こういったジンクスも、意外とバカにならない物だからな。
「もう寝るか」
切り札を出すかどうかを決めるのはもっと後でも問題ないだろう。
そう結論付け、荷物をまとめて俺はLEDランタンの電源を落とした。
次回投稿は5/3までを予定しています。
追記:想定より忙しかったのと体調が良くないので5/10までにさせて下さいください。




