2.もし世界の終わる音が聞こえた場合
誤字脱字の報告、批判批評お待ちしております。
「大丈夫か? えーっと確か……比嘉さん」
(一体俺は何をやっているんだ?)
俺は彼女――比嘉さんに持っていたタオルを差し出しつつ、自分の選択を少し後悔していた。
何故俺は何のメリットも無いのに彼女を助けてしまったんだ? 間違いなくあのタッ君とやらに目をつけられただろうに。
はぁ。
しかし、やってしまったものは仕方ない、か。
俺は彼女が恐る恐るタオルに手を伸ばしているのを見ながらそう自問自答した。
比嘉 千春。
印象が薄いが俺の記憶が正しければ、同じクラスの子だ。
地味だが、胸の辺りまで伸びた綺麗な黒髪と、赤いフレームの眼鏡が印象に残っている。
「あ、あの、ありがとう、ございます……」
比嘉さんの声は、非常ベルの音でほとんどが掻き消される程にか細く、タオルを受け取る手も震えていた。よほど怖い思いをしたんだろう。
それでも、目に涙を溜めつつもこちらに向けてくるぎこちない笑顔を見ると、ふと俺は自分の選択は間違ってなかったんだろうと。そう感じた。
しかし、何故比嘉さんは放課後に女子トイレでイジメを受けていたのだろうか?
確かに普段はクラスでも物静かで、いつも一人で本を読んでいた。だけど話しかけられた時はキチンと応答していたし、イジメの標的になる様な行動もしていなかったはずだ。
その時、外から複数人の足音と声が聞こえた。
そんな事を考える暇はどうやら無い様だった。
俺はタオルで顔を拭っている彼女の腕を掴み立ち上がらせた。
「ちょ、何を……」
「ゴメン比嘉さん、でもここで先生に見つかるのはマズイ。一旦逃げよう」
声の大きさからして、走ればまだ見られないはずだ。
俺は比嘉さんを連れて駆け出した。
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四階、一年五組教室内
「よし、ここまで来れば見つからないはずだ」
トイレから飛び出した俺たちは全速力で廊下を走り、反対側の階段から上階に上がった。
学校自体から出ることも考えたが、下駄箱に行くには必ず一階の職員室前を通らなければならない。
二年の階層で非常ベルが鳴っている以上、こんな時刻まで残っている二年生の俺たちが見つかるとまず間違いなく犯人扱いされてしまう。
そのため、一旦意識の向かない一年の階層でほとぼりが冷めるのを待つ事にした。
「はぁ……はぁ……」
大した距離を走ったわけでは無いが、比嘉さんは華奢な見た目通りの体力なのか苦しそうに肩で息をしていた。
可哀想なので、水筒のお茶を、ついでに今着ている制服がずぶ濡れなので体育用のジャージも手渡した。
男のジャージは嫌だったのか、比嘉さんは少し微妙な表情をしていたが、肌寒い気温もありしぶしぶ着替える事にした様だ。
そんなこんなで、彼女も落ち着いてきたのか、先程の経緯を説明してくれた。
どうやら始まりは数日前、風紀委員である彼女は昼休みに職務である花壇の水やりをしていた。
その時偶然、タッ君もとい山田 達也と、彼女に水を掛けた女たちが体育倉庫の裏へ入っていくのが見えたそうだ。
不審に思った比嘉さんはこっそりと後をつけてみた所、そこで山田たちはタバコを吸っていたらしい。
真面目な彼女はその日の放課後に先生へ報告。
翌日には持ち物検査であえなく没収。
寛容にも停学にならず三人とも厳重注意と反省文で済んだらしいのだが、どこから漏れたのか比嘉さんの通報がバレて現在に至る。
「なので全部私が悪いんです。私が先生に言ったせいで朝倉さんまで巻き込んでしまって……ゴメンなさい」
彼女は深々と頭を下げて俺に謝罪してきた。
「いや、気にしなくて良い。俺の自業自得だし、結果的には実践も出来た。むしろ感謝したいくら――
薄暗くなってきたはずの部屋が不意に明るくなったのを感じて、俺は咄嗟に窓から飛び退いた。
ドォォォォォォォォン!
身体の芯まで響く様な衝撃波が校舎に、いや街中を通過する。
次の瞬間、窓ガラスが全て弾け、ポカンとしていた彼女の足元まで飛び散る。
「な、何が……」
大きな爆発による衝撃波。
俺は即座に立ち上がり、身体の確認を行う。飛び退いたのが功を奏し、ガラス片で怪我を負う事は無かった。
振り返り窓の方を見ると、繁華街の方に大きな爆炎が上がっていた――