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16.もし目的地を決める場合

『16ページ 二章:移動ルートの重要性。


 どのような災害の場合でも移動経路の計画、選択はとても重要な事項となる。

 目的地までの距離、到着予定時刻はもちろんの事。

 長距離の移動では休憩ポイントや補給箇所、安全な寝床、複数人の場合はぐれた際の合流地点などは最低限決めておかなくてはならない。


 万が一の時の計画を立てない、身体の負担を考慮しない極端な計画をしてしまうと必ず道中に問題が生じ。

 遅れ、負傷、最悪の場合は命に関わる事態が発生する危険がある――』






「――さん? 聞こえてますか?」


 比嘉さんに呼びかけられて俺の意識は現在へと戻る。


 今後の事を考え過ぎて、はるか未来の出来事を幻視していた気がする。内容はもう思い出せもしないが。


「ああ、ゴメン。ちょっと考え事をしてて」


「これからの事を聞きたかったんですけど、本当に大丈夫ですか? 体育館で山田さんに殴られていた時に血が見えましたが、どこか悪いところが――」


 比嘉さんは俺を気遣った様子を見せ、もう少し休みましょうか。と提案してくる。


「いや、あれは唇を少し切っただけだから大丈夫だよ」


「なら良いんですが……」


 実際は殴られた所がまだ痛むし、特に膝蹴りを食らった時に、腹部を庇った左腕は少し腫れている。

 今のところ動作に支障は無いが、出来るだけ早く処置がしたい。


 しかし、比嘉さんがそれを知れば、俺に負担を掛けないように今後の行動で無理をしかねない。彼女はそういうタイプだ。


「さて、休憩も十分とったし比嘉さんの言う通り今後の事について決めようか」


 俺は立ち上がって元気な姿をアピールする。


 比嘉さんは俺の態度に少し不信感を持っていたみたいだが、何とか誤魔化せたようだ。


「それでなんだけど、比嘉さんはどうしたい?」


「私、ですか?」


「ああ、比嘉さんが学校を追い出されたのは、俺の所為みたいなものだからね。

 だから比嘉さんがどこに行きたいか決めて欲しい。

 俺は必ず、君をそこまで連れて行く」


 彼女は俺の言葉を受け、少しの間俯いて考え始める。

 彼女の性格からして、俺の提案を断ろうか悩んでいるのだろうか?


 それは分からないが、十分な長考を終えた様で、彼女は顔を上げて俺に言った。


「私は――私は、お母さんに、家族に会いたい。です……」


 比嘉さんの言葉はどんどんと小さくなっていき、最後の方は聞き取るのも難しい位だった。


「了解、確か比嘉さんの家族が避難したのは市役所だったよね。ここからだと大体――」


「ま、待って下さい! 市役所までは遠いですし、危ないと思うのでやっぱりやめて、おきます……」


 彼女は市役所まで移動するリスクを考え、自分の気持ちを押し殺して取り消そうとする。


 しかし。

「家族に会いたいんでしょ。ならそこに行くべきだ。

 それに少しクサい言い方だけど、俺たちはもう仲間じゃないか」


「仲、間……」


「そう、この終わりはじめた世界を生き抜く仲間だ。俺は仲間がやりたい事を尊重したい」


 俺はその辺に都合よく転がっていたちょうどいいサイズの枝を拾い上げ、地面の砂に簡易的な地図を書き始める。

 

 爆発が起きた桂琴(ケイキン)町の繁華街を中心に学校は南側、目的地の市役所は、北側に位置している。

 偶然にも、地図的にはどちらも直線上にあるので非常に分かりやすい。


 しかし、繁華街から避難してきた者達の情報によると、中央付近では建物が倒壊して通行が難しく、また、ゾンビも大量に残っているらしい。

 最短ルートでまっすぐ突っ切るのはあまりに危険。


 なので中心部を避け、回り込んで行くつもりだが、東側にはここよりも更に人口の多くて栄えている区がある。

 ゾンビどもがこちらの区に流れてきている可能性がある以上、あまり得策とは言えない。


 なので残った西側。住宅街ルートなら、他ルートよりかは外にいるゾンビは少ないだろうし、何よりも俺の家がある。

 そこで装備を整える事が出来れば、今後の生存率はグッと上がるだろう。

 

 俺が移動計画を説明するが、比嘉さんはまだ完全に納得できていない様だった。


「確かにこのルートなら安全に移動出来るかもしれません。

 ですが長距離の移動はやはり危険です。無理をしなくても私は大丈夫ですから」


 確かに、この距離を徒歩で移動するには少し距離がある。

 平和な状態ならまだしも、危険を回避しながら進めば一日では済まないかもしれない。


 彼女の言う通りやめておいた方が賢明かも知れない。

 だけど、そう言う彼女の顔は、少しだけ悲しそうに見えた。


「どういう選択をしても、必ず安全だなんて事はありえない。

 それに無理なんてしていないよ。どっちにしろ、一度他の避難所の状況も知っておきたかったんだ」


「……分かりました。朝倉さんがそこまで言ってくれるのなら、私は市役所に行きたいです。

 連れて行って、もらえますか?」


 比嘉さんは俺の言葉にようやく納得してくれた様だった。


「もちろんだ」


 目的地は桂琴市役所。

 まずは俺の家を目指し、俺たちは公園を出たのだった。

書き溜めが少し出来たんでしばらくは毎日投稿です。

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