EX.生徒会長、長井和久の転落日誌。前
筆が遅いのは自覚していますが、このペースだとタイトル回収まで年単位掛かってしまうので予定を変更して一気に会長編を数話にまとめます。
本来は各章に主人公達が行ったサバイバル技術の失敗例的な、そんな感じのを描くつもりだったんですがね……
避難生活一日目。
避難するときに日記帳も一緒に持ってきて良かった! おかげで日課が続けられる。
災害時に、以前のルーティンを行うことは精神衛生上良いってのをTVで見た気がする。こんな事態が起きても、平然とメモを取ってる生徒もいるんだ。日記くらい許されるはずさ。
今日の出来事は、きっと人生の中でもトップクラスに最悪な事ばかりだ。
繁華街の大爆発、ゾンビ、先生の死。
最悪の事態だったが、なんとか落ち着いてきたと言える。
我ながら今日の演説は素晴らしかった。一般生徒どもの人気を一気に掻っ攫ってやった。災い転じて福となすとはまさにこの事!
しかし数人興味がなさそうに聞いていたやつがいたな。次はもっと力強く攻めればいけるか?
生徒会長特権で、教師達と同様にプライベートが確保された個室で眠る事が出来るらしい。どうせ一週間もすれば救助は来るはずだ。日本の自衛隊は凄いからな。
深夜に何か物音がするので裏口からこっそりと覗いてみると、問題児の山田がゾンビを殴り殺していた。
覗きがバレてしまったが、僕の話術が通用したのか、やけに素直に話を聞いてくれた。教師にも停学上等といった態度を取っているとの噂だが、僕の記憶違いか? しかし……
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避難生活三日目。
この二日間検証して分かった事がある。
どうやら僕には催眠術の様な技術が身に付いたらしい。
いつからかは分からないけど、きっとあの爆発の後からだ。
催眠といっても命令すれば絶対服従というわけではなく、会話によってやらせたい事を自発的に行う様に誘導しなければならない。
条件の一つに、僕への信頼度が関係している気がする。僕への信頼が厚いほど、誘導難易度の高い行動もさせられるはずだ。
更に、殺せ、盗め、殴れ、など犯罪行為をさせようとすると、催眠誘導が解け始めてしまう様だ。
ただ、“盗め”に関しては、不良生徒の誘導に成功した。恐らくは本人の倫理観を準拠に判断していると思われる。
扱いが難しいが、この不思議な力は反則と言っても過言じゃない。これを上手く使えば僕はこの学校で王になれる!
僕は生徒会長程度に収まって良い器じゃない。
僕が名実共に王になるには、もっと生徒達に信頼されなければならない。
その為にはまず僕の手足となる生徒会のメンバーを集めて……やる事がたくさんあるぞ。
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五日目。
この数日は停電や断水など、トラブルが山ほどあったが僕はピンチをチャンスに変えられる男だ。
生徒どもが無様にパニクってる時に少し頼りがいのある様に聞こえる事を言えばすぐ「流石です会長」と言ってくれる。
この力のお陰でもあるが、きっと僕が昔から築いてきた信頼が今を生んでいるんだ。何かに縋るしか能のないウジ虫共と訳が違う。
生徒会員集めは順調で、あと一人加入すれば生徒会完全復活と言える。それも明日のための仕込みが終わればすぐ集まるはずだ。
それにしても我ながらとても素晴らしい計画を思いついたものだ。
一、全員が寝静まった深夜に、山田と共に体育倉庫からチョコ菓子を回収。
(山田は少し交渉しただけで簡単に仲間になってくれた)
二、生徒会メンバーに決行日時の連絡。
彼らは当日に暴動の火種を大きくさせる重要な役だ。直接会って話すのは流石に怪しまれる危険があるので連絡する方法には少し悩まされた。
だがお陰で完璧な方法を思いつけた。まさか圏外でもメッセージを送れるとは誰も思わないだろう。※1
三、決行時刻に山田が扇動して暴動を起こし、生徒会メンバーが気付かれない様にサクラをして騒ぎを大きくする。
四、教師連中では収拾が付かなくなったタイミングで僕が登場。華麗な話術で騒ぎを収める事で、指導者に相応しいのは僕だと生徒共に認識させる。
山田の演技力は少し不安だが、問題はない。
なぜなら民衆は結果しか見ていないからだ。
「終わりよければすべてよし」という言葉がある様に、誰も過程なんて気にしていない。
“僕が騒ぎを収めた”という結果さえあれば、僕の力も合わさって多少適当に行っても問題はないはずだ。
それよりも問題なのは朝倉直希だ。
奴は先生がゾンビに殺されてもパニックに陥らずに生き残る手段を考えていた。
それに僕の誘導演説の力が効いていない気がする。奴は常に後ろの方でぼんやりと見ているだけで、僕のために拍手している姿を見た事がない。
更にあろう事か僕が生徒会に誘ったというのにアイツは、あいつは断りやがった!
あの時は怒りを抑えるのに必死だった。あと少しでもあの場にいたら世間体など気にせず殴っていたかもしれない。
とにかくアイツには警戒しなければならない。
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六日目。
乱雑に朝倉に対する罵詈雑言のみが書かれている。
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七日目。
山田は何をやってる!
あのクソ朝倉にゾンビをけし掛けてぶっ殺す計画だっただろ。
何が「あいつのナリなら正面に一体ぶつければ十分」だ!!
平然と切り抜けてるじゃないか!
ぬけぬけと報告しやがってあの馬鹿が……。
まぁ良いさ、一日休んで少しは気が休まった。
朝倉の知識と技術は役に立つ、今は感情を抑えて奴を有効活用しよう。
何を企んでいようが、僕の力には敵うまい。
校内が安全になるまでは精々使ってやるさ。
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四十一日目。
やったぞ!
ついに怪しい朝倉を排除出来た!
本当は処刑したかったが、そこまでやってしまうと流石に誘導が解けてしまう恐れがあったため出来なかったのが残念だが、今日だけで僕の力が通じない相手を全員排除出来たんだ。全く最高の一日だった。
一昨日、内海から呼び出されて脅迫された時は肝が冷えた。まさかあんな奴が、相手のスキルを調べるスキル――キモいオタクの生徒が言うには《鑑定》だったか――を隠し持っているとは思わなかった。
だが内海はとんでもない馬鹿だった。
せっせと何日も掛けて手に入れた証拠を使って要求してきたのが、自身と山田の待遇を良くする事だった。
思わずその場で吹き出してしまった。
山田を呼び出して僕らの関係を説明すれば、喜んで僕の犬となってくれた。
奴によると僕の能力は、概ね考察通りだったが、意志の強い人間には効かないという弱点がある事が発覚した。
どおりで朝倉に効かないわけだと、納得がいった。
そして日中に全員のスキルの詳細を調べさせ、内海は用済みになったので深夜に呼び出して山田を使って殺害し、証拠も全て処分。
朝倉は申告通りスキルを持っていない。
それさえ分かれば十分だったので、殺す前に奴の飲み物に睡眠剤を混ぜて、班は全員僕の息がかかった者にして、念のために生徒会に校舎内の巡回もさせた。
あとは計画通り朝倉を殺人犯に仕立て上げ、ついでに僕のスキルが効いていなかった比嘉という女もまとめて犯人にしてやった。
めちゃくちゃな理屈で女を巻き添えにされた時のアイツの顔ときたら、思い出しただけでも笑えてくる。
流石に一部の生徒が違和感を覚えてしまったので、あんなおふざけは二度としない様にしないといけない。
とにかく、教師連中は僕に逆らえない。一般生徒どもも僕が理想の指導者だと信じて疑わない。
邪魔な奴らは全員排除出来た。
コレでようやく、僕がこの学校の王様だ。
※1.一部のアプリでは、圏外状態でも近距離間でのメッセージなどの送受信が可能。
有名なものを例にあげると、iPhoneのair drop機能など。




