11.もしチートの一片を目撃した場合
誤字脱字報告ありがとうございます!
遅ればせながら誤字脱字+矛盾している所を修正させて頂きました。
それにしても最初にご連絡をいただいた時は修正めんどくさいなぁ……などと思っていたのですが、どうやらこちら側はワンクリックで修正できるみたいですね。本当に助かりました!
感想に関しても、気が向いた時に読ませて頂いてます。
これからも色々とガバガバかとは思いますが、プレサバをよろしくお願いします。
「ぼ、ぼ、僕はヤツらと戦うなんて絶対無理ですからね!?」
翌日の正午。
予定通り探索隊は体育館裏のドアから出発したのだが、十歩も歩かないうちに理科教師の斉藤 貴文先生が突然喚き始めた。
「せ、先生静かに! 声で気づかれちゃいますって!」
「そうっすよ、初日に二階で見てましたけどアイツら意外に足速いんでマズイっす」
「んだんだ、見つかったらヤンべぇよ」
サッカー部の内海、和泉、安川が帰ろうとしている先生を制止していた。
「別に来た奴から順にぶっ殺していけばいいだろ。とりま得物取りに行くわ」
山田はやけに落ち着いた様子で、倉庫に武器を探しに向かった。
先生を落ち着かせるのはあの三人組に任せて俺も倉庫へ向う。
倉庫内では、先に入っていた山田が何本かバット持って振り心地を比べていた。
「ま、これでいいか」
全てのバットを振り終えた後、最終的に最初に持っていた物に決めた様で、他のものを乱雑に置いて出口――俺の方へ来る。
そこで初めて俺の存在に気付いたようで、未成年でありながらも酒とタバコで僅かに焼けた声で話しかけてきた。
「おう朝倉。早く得物選べや、俺は眠いから早く帰って寝てぇからよ」
「ああ、分かった……」
「あの日の事を忘れた訳じゃねぇが、状況が状況だからな。ま、水に流して仲良くやろうや」
山田はそれだけ言ってポンと俺の肩を叩くと、それ以上は何も言わずに出て行った。
全く信用出来ないな。
そう言いかけたがなんとか抑える。
ああいう手合いが水に流して仲良くする。なんて到底思えない。
山田への警戒を強めつつ、俺は立て掛けてあったシャベルの握り心地を確かめるのだった。
――――――――――――――――――――
十五分後、校門前。
あの後、遅れてきた三人組と先生は山田と同じくバットを持ったが、非力な先生はバットを持つだけで額に汗を滲ませていた。
当然ながら全員から戦力外通告を出され、先生を中心に警護しながら進むと事となった。
そして現在は食糧を回収する前に、これ以上校内のゾンビを増やさないために開いたままの校門を閉じようとしていた。
奴らにはよじ登る知能がないので、一度閉じさえすれば侵入される心配はない。
問題は、その校門の目の前に居座ってる三体のゾンビをどうするか、だが……
俺たちはしばらくの間少し離れた木陰で観察するが、一向に動く気配がない。
ボールでの陽動を試したが、何らかの習性があるのか、釣られても警戒が解けると元の位置に戻ってしまう。
どうしたものかと全員で話し合っていると、痺れを切らしたのか山田が突然
「めんどくせぇ、要は全員片付ければいいって事だろ」
などと言って木陰から飛び出した。
何やってんだアイツ?!
呆気に取られて止めるのが遅れたせいで、ゾンビは走る山田に気が付いてしまった。
「クソッ! みんな追いかけるぞ!」
いくら山田が喧嘩慣れしてようが、興奮して身体能力の上がったゾンビを三体同時は無謀だ。
俺たちは援護に向かおうとするが――
山田達也は向かってくるゾンビを前にしても一切躊躇せずに走り続ける。そして後一歩でお互い手が届く距離になった瞬間、正面に大きく跳んだ――
彼は勢いを殺さず、なんと人と同じ高さ――二メートル近く上に跳び上がり、ゾンビの顔面を踏みつけ、それを踏み台にもう一度跳躍。
向かってくる三体のゾンビを上方向に回避し、その背後に着地。
ヤツらが着地音を聞き取るよりも速く、振り向きざまに無防備な後頭部にバットをフルスイング。
あまりに速すぎるスイングは最早視認できず――パァンッ! 最後尾のゾンビの頭部がくの字にヘコむ音で、ようやくバットを振ったのだと認識出来た。
遅れて一体のゾンビが振り返るも、その遅れは致命的で、一切の反撃すら許さず、一体目と同じ末路を辿った。
最後に残ったのは顔面を踏みつけられたゾンビだ。
ヤツは他二体が稼いだ数瞬を使って、体勢を整え山田に喰らいつかんと手を伸ばす。
しかし、その手は山田ではなく地面を掴んだ。
ケンカキック。
或いはヤクザキックとも呼ばれる足を正面に勢いよく伸ばすだけのシンプルな蹴り技。
だが、人間だった頃よりも身体能力は数段上がっているはずなのにも関わらず、腹に蹴りを打ち込んだだけで一メートルもゾンビは吹き飛ばされ、前のめりに倒れ込む。
そして起き上がる隙も与えられず、容赦無くその後頭部を思い切り踏みつける。
数メートル離れた俺たちがいる場所も、ほんの少し揺れた――気がする程の勢いで行われたストンピングは、ヤツを本当の死体に変えるには十分だった。
「……す、スゲェェェェ!」
ようやく山田に追いついたが、あまりに一方的な戦いに圧倒された俺たちは、一年の内海が興奮のあまり叫ぶまで何も発することが出来なかった。
「マジカッケーッ! なんなんすか今の戦闘マジでヤバかったっすよ山田センパイ!」
「なんかゾンビどもが現れてから、妙に調子が良くてな。行ける気がしたんだ」
「マジパネぇよ山田センパイ! 今度オレにもやり方教えてほしいっす」
内海がキラキラとした眼で山田を見つめる。
初めて尊敬に値する人間を見つけたという感情が、表情から丸分かりだった。
山田はそんな内海を見て気を良くしたのか、舎弟になれば教えてやるよ。などと調子の良い事を言っている。
そんな中、斉藤先生は待ったを掛ける。
「い、いやいやいや、どうなってるんですか山田君!? さっきの動きは普通できませんよ!」
俺からしてもおかしいと思うのは同意見だ。
確かに、垂直跳びで二メートル近く跳んだという記録もある※1 が、人の顔という極めて不安定なものを踏み台にもう一度ジャンプするなんて、相当な難易度だろう。
それに……
最後に倒されたゾンビの頭部を見ると、後頭部は大きく陥没していて、大量の血と脳の一部らしき物が飛び出していた。
音を置き去りにする程の速度でバットを振り抜く事が出来る膂力や、頭蓋骨すら容易に踏み抜く脚力。並の高校生……いや、一般人には到底出来ない芸当だ。
だが、それ以上に俺は、ここまで効率的に容赦無くゾンビを殺せた山田に感心していた。
こいつの力があれば、校内のゾンビを一掃する難易度はグッと下がる。
しかし、こいつの性格上、ヘタに調子付くと何をしでかすか分からない。行動には注意しておこう。
「先生、山田の事は一旦置いといて先に校門を閉めましょう」
俺の言葉で、いまだ開きっぱなしの門を思い出した一行は、大慌てで校門を閉じる。電子ロックは停電で使えないので、あらかじめ持ってきていたチェーンで完全に封鎖しておく。
ちなみに山田の事は体育館に戻ってからという事になった。
※1.2016年にエヴァン・アンガー氏がボックスジャンプで約161cmの跳躍に成功した例に基づく。




