~閑話~ パロディ、パクリ、オマージュ
ここは喫茶店『カサブランカ』
柱から机、イス、食器の柄に至るまでウォールナット調で統一された店内。客は男女のカップル……ではまだない、常連が一組だけ。
美しい女性と一人の少年は、近くの小さな映画館で見てきた映画の感想を、いつもこの喫茶店で語らうのだ。
今日は『竜とそばかすの姫』についての意見を交わし、一段落ついた頃のようでーーーーー
「タヌキ顔かぁ……」
「まだ気にしてるの……いいじゃん、ウマ面とか言われるより」
「ウマ面ならいいじゃん、サラ・ジェシカ・パーカーの顔になれるなら私はなりたい」
(それはサラ・ジェシカ・パーカーにも失礼なんじゃ……)
彼女は少しふてくされたように窓の外を見ている。少年はこの場を流れる沈黙が気まずくて、会話の糸口を探していたがーーーー
「でもさ……さっきも話したけど、パクリとかオマージュって、定義があいまいだよね」
「……!」
彼女は少し興味をそそられたのか、頬杖をついたまま視線を少しだけ少年に向ける。
「うん、曖昧。究極的な話をすれば、全部パクリであり、全部オリジナルとも言えるもの」
「また随分極論だなぁ」
女は少し笑みを浮かべて振り返る。
「結局は読者の裁量だからね。例えば少し前に『呪術回戦』というジャンプのマンガで、炎上騒ぎがあったでしょう?」
少年は安堵した。うまく話題を反らせたようだ。
「あぁ、前に教えてくれたよね」
「作者の芥見下々は、伊藤潤二のうずまきというタイトルと同名の技を、モチーフとなるイラストを用いて使った事で世間から叩かれてしまった」
「ダメでしょあれは。パクリでしょ」
「ううん、定義的にはあれはオマージュ」
「えぇ!? マジで!? 全く同じなんだぜ? 『うずまき』という技の名前は、タイトルそのまんまだし」
「逆に言えば技の名前をうずまきにする事で、分かる人には『あぁ、伊藤潤二のうずまきのオマージュだな』って、分かるようにはなっているもの。モチーフが使われるシチュエーションも違う」
「えぇっ……そうなの!?」
「例えばあれで技の名前が『うずまき』じゃなければ私も"パクリ"派だったかな」
「でもさ……なんか……なんていうかさぁ……」
「そう、モヤモヤ感は残るよね。そこは私も同感。これには理由が二つあると思う」
「何それ。なんだか勿体ぶるなァ……」
「ふふふ……では一つ目。『うずまき』と『呪術回戦』では、読者層が被らないこと」
「……??」
「伊藤潤二を読んだことは?」
「え? いや、そりゃあ………」
少年は少し考えたのち、観念したように両手を軽くあげる。
「ハァ……無いよ、読んだことはない」
「正直でよろしい。では、読んだことのないキミが、伊藤潤二に抱くイメージは?」
「何となくホラーの……ちょっと文学的で、高尚な漫画家って感じ?」
「そう! そこが問題なの。呪術の読者の大多数がオマージュされた元ネタを知らなければ、今回のように炎上してしまう」
「なるほど……」
「HUNTER×HUNTER的な描写はこれまでもあったけど、別に炎上はしなかったでしょう?それは、オマージュの在り方として正しいから」
「ちなみに、もう一つは?」
「読者がオマージュに気付かない場合、それで作者の評価が上がるような重要なシーンでは使わない事」
「……!」
「『パクリ』であったとしても、気付かなければ評価を上げ、指摘を受けても『オマージュです』といえば良いもの」
「後出しジャンケンだな!」
「オマージュもパロディも、究極は"パクリ"の言い訳でしかないのよ。許すかどうかを決めるのはオリジナルの作者と、そして読者。許された作品だけが『オマージュ』や『パロディ』という免罪符を貰えるの」
「なるほどなぁ……」
「以前、ドラえもんの映画を見た時にも、ここで話したでしょう?」
「あぁ……うん。『のび太の新恐竜』だろ?」
「あの話には、作者のドラえもんへの深い愛とオマージュが散りばめられているの。よく思い出してみて?」
「いや……結局この話、宣伝かよ!!」




