番外編 香水 その2
「メロディと『ドールチェアーンド~』のフレーズが耳に残るのは、皆異論はないと思うけど」
「耳に残るだけさ。単純なコード進行。要は"売れ線"さ」
「『香水』の歌詞については、ちゃんと聞いてみた?」
「フラれけれどヨリを戻したい、女々しい男の話だろ?」
「ううん、違うよ」
「えっ?」
女は周りを見渡し、外に人がいない事を確かめると、スマホの画面に指を走らせ、流れていた曲をはじめに戻す。
「……!」
そして彼女は歌い出した。囁くように、とても綺麗な声で―――――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜中に いきなりさ いつ空いてるのってライン
君とはもう三年くらい会ってないのにどうしたの
あの頃 僕達はさなんでもできる気がした
二人で海に行ってはたくさん写真撮ったね
でも見てよ今の僕を
クズになった僕を
人を傷つけてまた泣かせても
何も感じ取れなくてさ
別に君を求めてないけど
横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナの
その香水のせいだよ
今更君に会ってさ
僕は何を言ったらいい
かわいくなったね
口先でしか言えないよ
どうしたの、いきなりさあ
タバコなんかくわえだして
悲しくないよ悲しくないよ
君が変わっただけだから
でもみてよ今の僕を
空っぽの僕を
人に嘘ついて軽蔑されて
涙ひとつもでなくてさ
別に君を求めてないけど
横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナの
その香水のせいだよ
別に君をまた好きになる
ことなんてありえないけど
君のドルチェ&ガッバーナの
香水が思い出させる
何もなくても
楽しかった頃に
戻りたいとかは思わないけど
君の目を見ると思う
別に君を求めてないけど
横にいられると思い出す
君のドルチェ&ガッバーナの
その香水のせいだよ
別に君をまた好きになる
くらい君は素敵な人だよ
でもまた同じことの繰り返してって
僕がふられるんだ
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歌い終わった彼女はブランコからひらりと降りて、少年の方へ振り返る。
「どう? なかなかでしょ」
「う……うん……!」
少年はゴクリと息をのむ。夕焼けを背に歌う彼女の姿は、彼の目にはっきりと焼き付けられていた。
「曲の解釈なんて、正解はないけどさ。私はこの"僕"は、ヨリを戻そうとはしてないと思うの。むしろ、戻せないと悟っている」
「え……?」
「『あの頃 僕達はさなんでもできる気がした。二人で海に行ってはたくさん写真撮ったね』
付き合っていた頃の"僕"と"君"はとても純粋で、そして若かった。でも"僕"は別れてから人を傷つけて何も感じ取れない、クズなオトナになってしまった。そんな時、"君"から3年ぶりに連絡が来る」
「………」
「多分だけど……"僕"は"君"に対して、『何でもできる気がしてたあの頃』を求めて会ったのだと思う。
でも、そこにはキレイで魅力的になったけど、タバコを咥えるようにもなった彼女がいた。彼女もまたオトナになってしまって………"僕"が思い描いたあの頃の"君"は、もうそこにはいなかった」
「………」
「そしてそれは"君"もきっと同じだったんだと思う。彼女から連絡してきた訳だしね。二人はもう過去のようには戻れず、楽しかったあの頃に思いを馳せる事しか出来ない。思い出しても虚しいだけの楽しかった日々を、香水の香りが思い出させる。だから『香水のせい』なんじゃないかな」
「……ふぅん……」
「この曲はね、そんな哀しい歌だと思う。シンプルで分かりやすい言葉だけれど、胸を打つよ。だから、私はこの曲が好き」
「う……ん……」
「自分を肯定するために、他の何かを貶める人は多くいる。ヒットしたメジャーな曲=薄っぺらいと勝手なレッテルを貼るなんて、つまらない生き方だよ。香水も良い、デッドマンズ・ギャラクシー・デイズも良い。それで良いと思わない?」
「……かった」
「?」
「分かったよ。とりあえず、この曲をバカにすんのはやめる。………AKBの事も」
「ふふ……君のそういう素直なトコ、好きだな」
「またそうやって子供扱いする……いい曲かもしれないけどさぁ! 一発屋である事には変わりないぜ?」
「あら、一発当てるのは偉大でしょ。当たらない人が大半なんだから。それに、一発屋が二発目を当てられないとは限らない」
そう言って、彼女は優先のイヤホンを取り出して片方を耳につけると、もう片方を少年に差し出す。
「はい」
「えっあっ……!?」
「良かったらさ………一緒に二発目、聞いてみようよ」
https://youtu.be/-KvuKErBbss




