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テネット 二回目

ブックマーク3件目頂きました!ありがとうございます!!










柱から机、イス、食器の柄に至るまでウォールナット調で統一された店内。窓から差し込む陽の光。アンティークなタイプライター、柱時計、古びた地球儀、蓄音機。良く分からない英語の分厚い本。


ここはカフェ・カサブランカ―――――

レジ裏で老眼鏡をかけ英字新聞を読んでいる小柄な男性は、この店のマスターだ。伸びた白髪を、大雑把に撫でつけている。



カランカラン・・



古びたドアベルが乾いた音を立て、一組の男女が入ってきた。


「いらっしゃい」


「こんにちは。マスター、アイスコーヒー2つね」


「アイスコーヒーね」


高校生くらいの少年と、彼より少し年上の社会人と思しき女性。

少年は着崩したオーバーサイズの制服にパーカー、赤いハイカットのスニーカー。


女性の方は首元の空いた白いカットソー、ベロア地のキャメルのロングスカート、40デニールのタイツにヒールの高い黒のショートブーツ。艶やかな黒髪を後ろで束ねている。落ち着いた所作と表情は、その整った顔つきよりもう少しだけ大人びた雰囲気を放っていた。


二人はいつも決まって、奥の角の席に座る。


そして二人は、つい先ほど映画館で見てきた映画について話すのだ――――





「いやぁ……二回目も面白かったなぁ! 何なら二回目のが面白かった!」


「さすがに、一回目よりは余裕を持って見れるようになったね」


「冒頭のオペラ会場のシーンの音楽、めちゃくちゃカッコイイよね!」


「ルトヴィグ・ゴランソン。今回からノーランと一緒に仕事をしてるみたい。バットマン三部作のハンス・ジマーも良かったけど、負けず劣らずで……」


「……知らないや。誰?」


「スウェーデン出身の音楽家」


「……その"スウェーデン"って、そんなに重要?」


「あら。あの『SMiLE.dk』を生んだ国よ? ダンレボで一番有名な曲の『バタフライ』!」


「……?」


「え……知らないの? あの"アイアイア~"の『バタフライ』だよ?」


「あぁ!! 『アイアイア~か!」


「そう、アイアイア~よ!」


「………」


「………」


「「アイア…」」

「お待たせ」


そこに、マスターがやってきた。左手に持った盆の上には、砂糖と氷が入ったカップが二つ。興味深い事に、この店のアイスコーヒーは絶対に砂糖が入ってくる。


少年は初めの頃、子ども扱いされているのではと勘繰ったものだったが、これがこの店の流儀なのだそうだ。

マスターがカップを二人の前に置いてコーヒーを注ぐと、氷がパキパキと子気味良い音を立て、亀裂をブラウンに染めてゆく。


「ありがとうございます」


「ごゆっくり」


そう言うと、マスターはまたゆっくりと歩いてレジ裏に戻り、英字新聞を読み始める。


女はアイスコーヒーをストローで一吸いすると、虚ろな目で氷をストローで回し始める。


「なんか、変に盛り上がっちゃったな………話題を戻そう」


「そうだね。。」


「あれから色々な映画サイトがこぞってテネットの考察を載せたからね。今この場で展開についての細かい話をしてもしょうがないと思うの」


「まぁね」


「という訳で、今日は私がニールの魅力を語ります!」


そう言って、女は嬉しそうに両手を合わせてみせる。


「彼が印象的なのは、やっぱり初登場シーン。ダイエットコークを勝手に注文するニールに対して、好みを当たられた主人公は『ソーダ水だ』と嘘をつく」


「インドでのシーンね」


「ここでニールが"嬉しそうに"『ウソだ』と言うところに、ニールのいじらしさが感じられるよね。ニールにとっての過去、主人公にとっての未来で、二人は仲が良かった事を感じさせる」


「一度目の鑑賞じゃ気付かなかったけど、逆行で過去に行くためには実際と同じ時間が必要。つまり10年遡ろうと思ったら、10年逆行を続けなければならない」


「そう。恐らく一人ではないだろうけど……10年軟禁状態だからね。彼の旅がいかに孤独で困難だったかと思うと、ニールにとってのあのシーンは"再会"だから、実はすごく泣けるシーンだと分かる」


「最後のシーンも、色々来るものがあるよね。ニールがカギを開ける為に戻ってゆくシーン」


「そうね。ニールはカギを開けた時に殺されてしまう」


「あのシーン……ニールは自分が死ぬ事を知っていたと思う?」


「私はね、知らなかったと思う」


「え? マジで? 知ってるでしょ! あれは」


「ネットの考察サイトなんかを見ると、"知ってた派"の方が多いよね。知ってて死地に向かう方が、やっぱりカッコイイし」


「じゃあどうして"知らない派"なワケ?」


「理由は二つ。一つはテネットという組織の標語となっている『無知であることが最大の武器』」


「……!」


「この映画は"運命は変えられない"という、珍しい設定が前提になっている。であれば十数年逆行した挙句確実に死ぬ任務に、彼が素直に首を縦に振るとは思えない。恐らく他にもテネットの組織で同様のジレンマがあったはず。だからこそ『無知こそ武器』という言葉を生み出したんじゃないかな」


「でも『起きた事は仕方がない』っていうセリフもあったぜ? 最後のシーンでニールは『素晴らしい友情の終わりだ』とも言うし」


「そうね。だから"知ってた派"も別に否定はしない。けれども、その割にニールは悲壮感なく去ってゆく。『終わり』という表現も、アルゴリズムの管理の都合上、あの場面の後二人は会う事が出来ない」


「うーん……じゃあ二つ目は?」


「うん……」


少しだけ、彼女の表情が曇る。映画の内容―――というより、何か他の事を考えているように見えた。


「死んでしまう大切な人に、その事を告げず送り出すのって、とても切ないと思わない? 自分が死ぬと分かって旅立つ物語よりも」


女はそう言って、アイスコーヒーを飲み干した。彼女の表情はいつになく寂しそうだった。


「うん……そんな考え方もあるんだな」


「そうよ……そんな考え方もあるの」


少年は彼女の素性をあまり知らなかったが、映画のキャラクター達の境遇に自分と重なるところでもあったのだろうか。


ただ、それが"死ぬ側""送る側"なのか、それは少年には知る由も無かった。




















ご覧いただきありがとうございました。

次回は鬼滅の刃を見に行こうと考えています。面白いのは間違いないと思うので、少しでも普通と違った切り口で描ければと思います。



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