英雄と怪物と私
アフリカの果てに喜望峰と名付けた王は私と正反対だ。
航海の満身創痍の末にただの岩にたどり着いた時、私なら絶望し後悔する。
喜望も絶望も風の流れの終点だというのに、どうして違う岬になるのか。
ドンキホーテは騎士になりたがった狂人だった。
彼は狂わざるを得なかった。それほど騎士になりたかったのだ。
狂行の果てに最期、彼は騎士の輝きを得た。
私とは正反対だ。狂行の果てに虚無を得たのだから。
そして最期すらもう信じることはできない。
イラン神話には魔物にされた王がいる。
悪霊に魅入られ、魔物にされた。
彼は人脳を食べた。人間に戻れると嘘をつかれて。
毎日毎日。安らぎを得るために。
しかし他の道はあっただろうか。
誰だって怪物でいたいわけじゃないのだ。
人間に戻るなという人は、怪物を肯定するわけじゃない。彼らは怪物を否定する。
怪物は戻れない。あぶれたら死ね。生きるな。
そういう英雄が彼を倒した。
憐れな怪物。私は彼の側だ。怪物は同情できる。