表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

千種、玉を誘拐せんとする





「おい、その巫女は賀茂神社の玉か?」


 と男たちのかしららしき者が言った。色鮮やかな派手な直垂ひたたれを着て、刀を差しているが、清潔感はまったくない。その下品に、にやけた顔を見て、吉永よしながは嫌になった。


―― 絶対にたま様には近づけたくないな……


「だとしたら何だ」

「ちょっと顔を貸してもらおうか。玉だけでいい。その他はいらん。とっとと帰れ」


たま様を渡す訳ないだろう。一体誰の差金さしがねだい? ま、見当はついているんだがね」

「ほう、誰だ?」


「そうだな……、んー、博打好きの淫乱じゃないかい?」

「ぶ、無礼な!! 千種ちぐさ様のことを、ば、博打好きの淫乱と言ったか!」


「はっはっはっはっ、そうか、そうか、博打好きの淫乱と言うのは、千種のことなのか、なるほどねぇ、なるほど…」


 男たちはざわつき、その頭は「はっ」と思い、顔を紅潮させて言った。


「くっ、ゆ、許さん! おい! お前ら、こ、こいつらを痛めつけてやれ」


 男たちは両手を広げて近づいて来た。千代は大声で叫んだ。


「強盗じゃあ!! 助けてたもー!! 強盗じゃあ!!」


 京に帰る人々は、集団に取り囲まれた巫女たちを見て不審に思っていたが、千代の声を聞き、ある者は南に、ある者は北の上賀茂神社の方に駆けて行った。


「ええい、くそっ、早いとこやっちまえ!」


 男たちは襲いかかって来た。玉の背後を靖頼やすよりが守り、正面を吉永よしながが守る。


 後ろから真っ先に玉に近づこうとする男がいた。だが、靖頼が棍をブンッと横に振ると、男はゴンと音をたてて、遠くの草叢にまで吹っ飛んだ。靖頼は、棍をくるっと回し、その勢いで、その後ろに続く三人の男の腕を、ゴンゴンゴンと打ち付けた。男たちは腕を抱えて倒れ込んだ。


「木の棒だからって甘く見ない方がいいぜ。重いかしの棒だ」


 と吉永が言った時には、彼もまた数人を倒していた。


「す、すごいのじゃ! 三条も、大友もかっこ良いのじゃ!」と千代。


 玉は千代を抱えて、心配そうに戦いを見守っていた。男たちは刀を抜いて構える。今度は油断せず、じりじりと詰め寄って来た。しかし吉永よしなが靖頼やすよりにより、一人二人と倒されて行く。


「頑張れ、頑張るのじゃ。ほれ、玉姉様も応援するのじゃ」

「千代、三条様と大友様のお心を乱してはいけません」


「何でなのじゃ、玉姉様のために戦っておるのじゃ。三条、頑張れ、頑張るのじゃ」

「ええ、任せておいてください」


「大友、頑張れ、全員やっつけたら、玉姉様のご褒美が待っておるぞ」

「はっ! はいいいぃ!! ぎゃ、ぎゃんばりましゅっ!」

「千代!」


 靖頼やすよりの顔は、沸騰したように真っ赤になった。そしてものすごい速さで、敵の中に突っ込んで行き、鬼のように男たちを倒していった。


「お、おい、靖頼! あんまりたま様から離れすぎるな!」


 と吉永が言った時、河原の草むらに隠れていた男が飛び出て来て、玉を襲った。


「玉姉様! 危ない!」


 千代は、玉をドンと後ろに押して、男の前に立ち塞がった。男は千代を「邪魔だ」と言って、殴りつける。さらに倒れた千代の腹に、足がめり込むほどの、蹴りを入れた。


「千代!」


 玉は千代を救おうと男に向かう。吉永も靖頼もそれに気づき、男たち数人を相手に戦いながら、千代の許へ行こうとした。しかし、男たちも考え、その前に吉永と靖頼を、前後左右から囲んだ。駆け寄るに寄れない状態になった。


 男は玉を捕まえようとする。玉は千代を助け起こそうとする。千代は玉を守ろうと、男の足にしがみつき、「玉姉様! 逃げて!」と叫んだ。


「くそ、五月蠅うるさいガキだ。くそ、離れろ、くそ」


 男は足から離れない千代の頭を、拳骨や刀の柄頭で叩く。頭から出血し、千代の顔に血が垂れてきた。


「やめてください! 一緒に行きますから。千代に乱暴はしないで……」

「くそ、しつこいガキめ! 離せ! 離さんと殺すぞ!」

「離すものか、お主など、玉姉様に近づく資格もないわ!」


「お願いします。千代も離れて。もういいの、もういいから」

「はっ、この腐れ外道が、殺せるものなら殺してみよ! そんな意気地もないじゃろう」

「何ぃ、この餓鬼が! 手加減してやれば、いい気になりやがって!」


 男は刀を回転させ、刃を千代に向けた。そして刀を千代の背中めがけ、突き立てんばかりに力を入れた。





挿絵(By みてみん)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ