スピンオフ:記憶共有的バレンタイン物語
一日遅刻ゥ!
もっとイベントに敏感になるべきですね、はい(・ω・`)
どこにでもある普通の日常。
僕はそんな日常が無性にむず痒くて仕方がない。
ラノベの様な経験。アニメの様なドキドキワクワクな体験。
あぁ....そんな体験してみたいな.....。
━…━…━…━…━…━
あぁ、してみたかったさ。
してみたかったって気持ちもあった。
でもな、幾らなんでも僕を神にする必要は無かったんじゃねぇかな創造主様よぉ!
特別な経験をしてみたかった、そんな思考を巡らせた事もあった。
でも、幾らなんでもさ、僕に残酷な運命を擦り付けた挙句、それを自力で解決しろって言われ神にさせられて、それでみんなから僕の記憶が消えるだって?
狂ってる。
散々狂った経験をして来たが、それをトータルして見るとやはり狂ってる。
これ以上なく、最高に狂っている。
僕の【ウッドソード】は最初に比べると圧倒的に成長した。
そんな異能力を持っていなかった時に比べれば、僕自身ありえない成長をした。
人間の領域を遥かに超越した、そんな力。
僕のウッドソードは、【万物神俊介】としてのウッドソードは、無敵のチート能力として僕に残った。
僕はそれを悪用しようとは思わない。
干渉はもううんざりだ。それに僕がどれほど苦しめられたことか。
そして今の僕はもう神だ、下手に人間に干渉すればそれこそミレイ・ノルヴァが引き起こした【記憶共有事件】の二の舞になりかねない。
しかし誰にも干渉しなければ、僕だけで全てを収めれば、僕は自由だ。
誰にも邪魔されない。邪魔さえも僕の思い通りな世界。
そこなら....。
「ウッドソード」
空中に大きな歪みが出来て、その歪みの淵は黒く歪んだ....それこそ人間には絶対到達出来ない物質になっていた。
その向こうには僕が作り上げた【仮想世界】が待ってるんだ。
さぁ行こう、僕の僕による僕のための世界へ
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地球が再現された箱庭の世界。
本物に比べれば圧倒的に小さいが、僕が楽しむには十分すぎる世界。
何しろ今日はバレンタインデーだ。
僕の理想の世界で、僕の理想通りなノンストレスの世界で。
「神ってほんとに......」
「最高!!!!!!」
空を自由に飛びまわる。
手を銃の形にして雲に向かって撃つジェスチャーを取る。
ボフッボフッと音を立てて雲が崩れて行く。
あぁ....本当に最高。
地面にフゥーッと無防備で落下する。
地面と衝突しても痛みはゼロ。
能力使用無しでこれなんだもんなぁ....。
「さぁ、僕の妄想を叶えに行きますか」
雲の間にノイズが走る。
世界の作り方をミスったのだろうか?
それとも僕の撃ち込んだ弾丸が世界にダメージを与えちゃったのだろうか?
まぁどちらでもいい。
今は僕のクッソ痛い妄想を叶えるだけだ。
家。僕の家。
何の変哲もない家だが、ここが一番心の安らぎを感じる。
神になって尚、そう思う。
布団で目を閉じると、僕はスッと眠りに落ちてしまった。
....。
「ねぇ....てる?...きて!」
耳元で聞こえる何処か懐かしさを感じる声。
「起きて!俊介」
目を開く。
懐かしい顔、真っ黒で清楚な黒髪ロング。
「奈恵...お前なんで生き....」
そうだ、ここは僕の妄想の世界。
奈恵が生きていたって何も不思議じゃない。
奈恵が...生きていても....。
その瞬間黒いモヤが奈恵の胸元に現れ、奈恵はそこにバキバキと骨を折りながら吸い込まれていった。
大量の血が噴き出し、地面にポタポタと垂れる。
一瞬。瞬きも追いつかない程の一瞬。
いけない。やってしまった。
ここは僕の思考世界。
過去の思い出なんて思い出すなよ、なんで自分の世界で辛い思いをしなきゃいけないんだ。
ビデオを逆再生の様に黒いもやは奈恵を吐き出した。
折れた骨がパズルの様に組み立てられていく。
「ほら俊介、これな~んだ」
ベッドに座る僕に、奈恵は一つの袋を出してきた。
「チョコレートか?」
「もう!なんでそう思った事すぐ言うかなぁ~」
奈恵の困り顔。
このセリフ....。
奈恵は僕にその包を渡し、僕はその包を開ける。
中に入っていたビスケットにチョコをコーティングしたお菓子。
味の一つに至るまで、僕は既に知っている。
孤独。これ以上ない孤独。
自由とはこうも孤独なものなのだろうか。
僕は神だ。常人には到底到達できない領域の力を出せる。
この世界だって人を一人二人神隠しするのに十分すぎるスペースを持つ。
ここは世界なんだ!...僕の....僕が....。
僕が作った世界。
人が喋る言葉の一つ一つまで....僕が作った....。
孤独だ。
「....随分しみったれた顔してるね、アンタ」
「ん?」
見た目年齢小学生の、世間一般で言うところの【ロリ】。
ゴスロリ服を着たロリがそこに居た。
「僕はお前を作った覚えはないぞ、グリシア」
「私だってアンタに作られた覚えは無いわよ」
「ただ、アンタが何者なのか、真剣に気になってね」
僕が思った言葉と違う言葉。
グリシア・ヴァレン。
ミレイ・ノルヴァと敵対する【ヴァレン家の娘】で、僕の旧敵だ。
「弾丸か」
「えぇ、随分危ないお出迎えね」
僕が撃った弾丸、あのパワーで出来た空間の歪みからこいつは入ってきたみたいだ。
僕の、僕による、僕のための世界。
そんな世界に立ち入るなんて、普通なら逆ギレして攻撃するのだろう。
でも、グリシアの突然の来客を、僕はとても嬉しく感じた。
「んで、僕になんの用だ?」
「はいこれ、あんたの住んでる日本の文化なんでしょ?」
そう言ってグリシアが渡してきたのは板チョコだった。
まさか....。
グリシアのチョコにノイズが走る。
触ると、その板チョコはするりと僕の手をすり抜けた。
「そうか....残念だよ」
グリシアがチョコになり溶けていく。
残念だ....。
僕の作った世界。
僕「が」作った世界。
例え神でも、僕の作ったこの世界への侵入は出来ない。
僕の無意識が作り出した一つの妄想....。
「なぁ、お前なのか。グリシアを呼び出したのは」
「シュンヤ....」
.....返答はない。
共に戦い、共に運命を分かち合い。共に戦死したシュンヤ。
僕の中に眠る彼は、僕に何を与えようと言うのだろう?
怠惰に自分の世界に引きこもろうとするこの無力な僕を叱ろうとしたのだろうか?
所詮僕はどこまで言っても孤独のままだと言いたいのだろうか?
.....自惚れていたよ。
僕は本当に自惚れていた。
自分というものを見失って、ただ盲目に何かを探していた。
何も無い何かを求めて....ただ我武者羅に。
そうだな、自分探しの旅でもすることにしよう。
ご生憎様地球はちゃんと僕が組み直した。
バーミアだって、天界だって。
創世主がやるような仕事を、僕が代理でやり遂げたんだ。
退屈を感じるのは僕じゃなくていい。
そのための創世主なのだから。
....そのための。
そうだ、ヴィクセンが僕を探していた。
会いに行って見るのも悪くないかもしれない。
【妖しを司る女神】である彼女なら....僕を再び妖しい物語へと導いてくれるかも知れない。
僕の【記憶共有的異世界物語】に似た、何かを。
ここからは自分探しの旅になるのだろう。
嬉しくも悲しくも、僕はもう人間じゃない。
時間だって沢山ある。
神には神の、神なりの。
自分を....探そう。
この物語は記憶共有的異世界物語最終話【エピローグ2:記憶改竄的現世界物語】の間に起こったワンシーンのスピンオフです。
シュンを倒した後、俊介は突然手に入った神をも超えるその力に、自分自身を見失ってしまいます。
そんな俊介の空になった何かを埋めるため、物語は【記憶改竄的現世界物語】に移っていきます。
本編の方も是非、読んでみてください(・ω・`)
記憶共有的異世界物語↓
https://ncode.syosetu.com/n8307dx/
記憶改竄的現世界物語↓
https://ncode.syosetu.com/n4978ej/