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数々の短編集

俺TUEEEを阻止せよ! 最強の初心者達

作者: 数々

 ファンタジークエストオンライン、通称FQO。


 ごく普通のファンタジーRPGだが、わかりやすい世界観が受け入れられてVRゲーム史上最大のヒットを記録した。国民的VRMMOである。


 このFQO世界で、ある問題が発生していた。その名も……俺TUEEE問題だ。


 それは謎の現象だった。高層で活動するはずの上級者達が、下層におもむき雑魚モンスターを大虐殺したり、低レベルボスをオーバーキルするのだ。


 今更、雑魚を倒しても上級者に得る物はない、獲物を横取りされる下層プレイヤー達も困る。双方とも得しない意味のない行動だった。


 にもかかわらず何かと理由をつけては、低レベル向けの下層にやって来る上級者達……。その隠された目的とは?


 そう、彼らは俺TUEEEがしたいのだ!


 俺TUEEEは、ゲーマーの三大欲求の一つであり、その中でも最大の欲求である。食事や睡眠はいくらでも削れるが、俺TUEEE欲だけはどうしようもない……抗えないのだ!


 だから俺TUEEE問題は仕方ないと言えなくもない? 上級者達の欲求の赴くまま、あらゆる場所で俺TUEEEの嵐が吹き荒れた!


「俺TUEEEだろ? 俺の俺TUEEEどう思う? 俺TUEEEEEEEEEE!!!」


 しかし、俺TUEEEを見せつけられる側はたまったものではない。憧れる? いや、しらけてしまうのだ。度重なる俺TUEEEによりプレイヤー数は減少の一途をたどった……。


 この状況にFQO運営は焦った。


「このまま俺TUEEE達の俺TUEEEが続けば、僕YOEEEや私FUTUUDESUが消えうせて、俺TUEEEだけの世界になってしまう……俺TUEEEを何とかしなければ!」


 そこで、運営が出した俺TUEEE対策が初心者エリアである。


 初心者エリアは、ゲームを始めたばかりの初心者だけが活動できるエリアだ。約一週間ぐらいでクリアが可能で、再入場はできない。


 当然、俺TUEEEがしたい上級者は入場禁止である。これにより多数の俺TUEEE難民が発生したが、猛威を振るった俺TUEEEの封じ込めに成功した。


 ようやく世界は、落ち着きを取り戻したかに見えた……。


 それから時は流れ――


 *****


 初心者エリアから旅立とうとする、一人のプレイヤーがいた。


<おめでとうございます! 初心者クエストを達成しました。>


 やった! ついに初心者クエをクリアしたぞ!


 あとは報告すれば、ようやく初心者エリア卒業か……。初めて一週間。少しずつだけど強くなってきたし、頑張って来てよかった。


 実は、出戻りなんだよね。本当、初心者エリアがあって助かったよ。昔は俺TUEEEな人達が暴れていて怖かったんだ……。


 この前、始めたばかりの人を助けたんだよ。すごく感謝されて、尊敬されて気持ち良かったな。あんな体験をもっとしてみたいな!


 そのためには、もっと強くならないとね。先は長いよ……。俺も、いつかは上層に行って上級者プレイヤーになって……俺TUEEEしてみせる!


 ん? 待てよ……ここでよくないか?


 どうやら、また一人、気がついてしまったようです……。


 あまりに居心地がよく、初心者エリアに居ついてしまったプレイヤー……。


 そんな彼らのことを、人々は(スーパー)初心者と呼んだ。


 *****


 初心者エリアの集会所にて――


「おい、ここで何があるんだ?」


 俺は友人に誘われて、わけがわからないまま集会所に来ていた。


「知らずに来たのかよ? お前も、そろそろ初心者歴1年だろ? 中堅初心者として知っておく必要があるぞ。」


 こいつの名はマスケン、ゲーム内のフレンドでリア友でもある。俺よりも初心者歴が長く何かと教えてくれる。


「ベテラン初心者の会があってな。有名初心者がやってくるんだぜ! 中でもスーパー初心者と呼ばれる4人が……あ、来たぞ!」



 一見すると初心者装備の戦士が入場して来た。


「おい、あれは! 初心者歴9年、初心者最強の戦士! マサルだ!」


 その名は聞いていた……。スライムすら一撃で倒してしまうという……。


「見ろよあの剣を……。あれは、初心者の剣を限界まで鍛え上げた初心者の剣+99だぜ。」


 その切れ味は銅のつるぎに匹敵するらしい……。俺は思わず恐怖した。いったい、どれだけの暇と暇があればできるんだ?



 今度は、みずぼらしいローブと杖を持った魔法使いが入って来た。


「おい、あれは! 初心者歴11年、初心者一の知恵者! 魔術師バーンだ!」


 その名は聞いていた……。スライムの群れすら焼き払うという……。


「奴の火球(メル)呪文の熟練度は九千九百九十九万九千九百九十九だと言うぜ」


 熟練度をカンストさせるのは不可能と言われていた。なにせ熟練度は1回の使用で1だけしか上昇しないのだ。


 血の滲む努力で『今のは最大火球(メルゾーマ)では無い。火球(メル)だ……』を目指したのか……。


「それで、どれぐらいの威力があるんだ?」


中位火球(メルミ)ぐらい?」


「ダメじゃん」



 続けて、かわいい課金装備に身を包んだ少女が入って来た。


「降臨されたぞ! 初心者歴14年、永遠の美少女! 僧侶セリカさまだ!」


 その名は聞いていた……。別名、貢がせの女王。初心者のスズメの涙ほどしかない所持金からも容赦なく搾り取るらしい……が一つ疑問がある。


「俺たち初心者に貢がせても大した額にならないのでは?」


「おいおい、プレゼントできるのはゲーム内ゴールドだけじゃないぜ? 何枚のプリペイドカードが彼女のために消えていったことか……」


 リアルマネーとってるの!? マスケン……お前も貢いでたのかよ……。


「……でもさ、もう14年は居るんだよね? それで少女なの?」


「永遠に少女なんだよ!!!!!!!」


 マスケンの心からの叫びが響き渡った。



 いっそうと会場がざわめき始めた。誰がやって来たのだろう?


「来られたぞ! 初心者歴20年、初心者エリア誕生と共に生まれた。初心者の神。初心者の中の初心者。初心者のレジェンド! キング様だ!!!」


 ベテラン初心者達は、総立ちで拍手喝さいし、彼を迎えた。


『キング! キング! キング! キング! キング!』



「すごい豪華初心者が揃ったな。何が始まるんだ?」


「ベテラン初心者会議だよ。初心者の未来について話し合うんだ。まだ、俺たち中堅には発言権がないけどな」



 静粛な空気の中、いよいよ会議が始まった。議題が一つ一つ発表される。



 議題1<初心者のレベル低下問題>


「最近は初心者の質の低下が著しいです。その対策を話し合いましょう」


 会場に騒めきが起こる中、活発な意見交換が行われる。


「その通り! 最近の初心者は、常識を知らない奴が多すぎる。最低でも攻略本を読破してからプレイして欲しいですな」


 全くだ。本当に近頃の初心者は……。


「この前なんて初心者でパーティ募集したら、本当の初心者が入って来ましたからね……」


 パーティー募集での初心者と言えば、中級初心者の略に決まっている。本当の初心者は下級初心者パーティー募集だ。そんな常識も知らないとは……。


「ここは初心者が守るべき十戒を作成し、それを遵守させる事にしましょう」


『異議なし!』


 素晴らしい提案が全会一致で可決された。



 議題2<初心者の過疎問題>


「原因は不明ですが新規プレイヤーが減少しています。初めてすぐに辞めてしまう人が多いようです」


 それは変だな? いったい何が原因なんだ?


「別に人が減ってもいいじゃないか。雑魚が増えても困るだけだ!」


「自慢する対象もいなくなるぞ?」


「それは困るな。何が原因なんだ? 検討もつかんぞ」


 まるで思い当たる節がない……。全員が困惑して居る中、初心者一の知恵者バーンが発言した。


「運営の努力不足が原因ですな。奴らは新規参入キャンペーンを怠った……」


 そうか! 運営の努力不足には困ったもんだよ……。


「運営に新規参入キャンペーンを提案しましょう。無料期間をつけて、さらにCMもバンバン流させ、好きなタレントを起用させましょう」


『異議なし!』


 好きなタレントで若干もめたが、またも素晴らしい提案が可決された。



 議題3<初心者いじめ問題>


 初心者いじめ? 誰がいじめてるんだ? 全員がざわついていた。


「みなさんが混乱されるのは無理もありません。我々をいじめる者……危機は外部からやってくるのです。あの上級者オレツエが……」


 オレツエ! あの俺TUEEEのやりすぎでアカウント停止処分された、根っからの俺TUEEEリストが! あの俺TUEEE狂がやってくるのか!


「そうです。オレツエ……奴は俺TUEEEの魔人と言ってもいい……。そのオレツエが新規キャラで初心者エリアにやってくると宣言したのです!」


 なんということだ! 奴は、ゲーム実況動画で俺TUEEEを放送し、俺TUEEEマニアに俺TUEEEを見せつけるという。たいへん恐ろしい俺TUEEEなのだ。


「運営に掛け合いましょう! ここは真の初心者だけの楽園! 偽の初心者が入って来ては、いけない聖地なのです!」


 その通りだ! 本当の初心者でもない奴が初心者エリアにいる資格はない!


「残念ながら運営の回答は、規約違反でない限り何もできないという事です」


「なんだって! このままではオレツエに俺TUEEEされてしまうぞ! 他人の俺TUEEEなんて見たくもないわ!」


 ベテラン初心者たちに失望や諦めが広がった……。オレツエの俺TUEEEは止められないのか? オレツエの俺TUEEEを見守るしか出来ないのか……。


 すると、ここまで一言も喋らず寝落ちと噂されていたキングが口を開いた。


「みんな諦めるな! オレツエの奴が、いくら俺TUEEEの魔人と言っても、それは武器TUEEEの防具TUEEEのキャラTUEEEがあってこそだ!」


 そうだ! その通りだ! 賛同の声が巻き起こる。


「見せてやろうじゃないか。初心者ワールドの難しさ……その深淵を……」


『キング! キング! キング! キング! キング!』


 こうして、お祭り騒ぎの中ベテラン初心者会議は幕を閉じた。


 いよいよ、俺TUEEEの魔人VSスーパー初心者の戦いが始まろうとしている!

俺TUEEEをおれつで辞書登録しました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終わりですか!?ヤダヤダ もっとYOMITEEEEE!!!! 素晴らしいセンスです!
2017/06/28 20:15 退会済み
管理
[良い点] 途中、初心者って何だっけ?(笑) とツッコミながら面白く読ませていただきました。 [一言] 暇と暇をつぎ込む熟練度上げに笑いました(笑) なぜゲームってあんなにやり込んでしまうんしょう………
[一言] 実際にこういうやり取りをしてる人達、いそうですね〰。 私はゲームはあまりやらないのですが、長男が何年か前にPCかな?プレステーション系統かな?オンラインゲームにハマって、部屋からブツクサ文句…
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