ガソリン男
500mlペットボトルの中の黒い液体がぐんぐん減っていく光景に、ギャラリー達は釘付けになっていた。
うえぇ…
マジで飲んでるよ…
ガソリン男…
ごくりごくりと喉の音が鳴り、その音の回数と共にペットボトルの角度が上がる。
そして、
角度が地面と垂直になった頃、赤堂はペットボトルを口から離し、前を向いて口を開く。
「俺の名前は赤堂トオル!
引きこもりを外に連れ出す仕事、
通称引き出し屋をやってウェエエエエエ!!!」
赤堂の口から大量の黒い液体が吐き出された。
地面へと叩きつけられたそれは、赤堂の周囲に飛び散りギャラリーを退かせた。
うわっ!
やっぱり!
お決まりのゲロ!!
小さなパニックが起きた。
しかし大事と言うほどではない。
【ガソリン男の黒い滝】
これが近日SNSでプチ流行している動画の検索ワードである。
ギャラリー達は皆この結末をわかっていたのだ。
この結末を見るために足を止めたのだ。
この結末を望んでなかったのは、残念ながら当の本人、赤堂トオルだけだった。
「あー…、引き出し屋の宣伝。また失敗だよ」
ギャラリーが消えた後、自分の吐瀉物を掃除しながらポツリと呟いた。
ご自慢の、ハリネズミの如く尖らせた黒髪は少し萎れ、
一張羅の赤いコートを羽織った背中は小さく映った。
赤堂トオル、25歳
職業、引き出し屋。
現在、ガソリンの一気飲みにて宣伝活動中。






