時間のない世界 番外編
朝、目が覚めると美味しそうな匂いがした。
朝食の匂いだ。
彼女が作ってくれる美味しい朝食の匂い。
俺はこの匂いと調理をする音が好きだ。
彼女が俺のために作ってくれる音。
それを毎朝聞くたびに幸せを感じる。
そろそろ起きないと彼女に怒られてしまうな。
そう思いながらも男性は幸せそうな顔で立ち上がった。
テーブルの上には美味しそうなご飯が並んでいた。
「今日も美味しそうだね」
それに対して女性は嬉しそうに答えた。
「ふふっ、ありがとう」
向かい合わせに座る2人。
会話を楽しみながら食事をしていると、ふと思い出したかのように女性は疑問を投げかけた。
「そういえば、昔言っていた先代の方はどこに消えてしまったのか分からないものなの?」
「多分、時の狭間に行ったか存在諸共消えてしまったか、じゃないかな」
男性は悲しむ素振りを見せることなくただ淡々と答えた。
育ててもらった恩はあるけれど、先代が自ら選んだ道だから男性に後悔はなかった。
先代が消えた日から男性は先代を尊敬していた。いや、救ってもらった日から尊敬はしていたのだが、それまで以上に尊敬の気持ちは深まったのだ。
自分の命を懸けてでも助けようとするその姿がとても格好良く見えたのだ。
その日から男性は、いつか自分も先代のように誰かを救える存在になりたいと思い始めた。
「それならまだ生きている可能性はあるということよね」
女性は希望の光が見えたかのように嬉しそうだった。
「そうだね。あの人のことだから突然ひょっこり現れるんじゃないかな」
その言葉を聞いて女性はますます嬉しそうな顔をした。
「そう、それならよかったわ」
まるで自分の事のように喜ぶ彼女を見て、男性は微笑ましくなった。
「なんで君が喜んでいるんだか。君は先代には会ったことないだろう」
「あら、あなたの恩人なら私の恩人でもあるわ。それに今日は結婚1年目の記念日なんだもの、良い情報があったら嬉しくなるわ」
「あの人は女好きで君を見たら手を出してくるだろうからあまり会わせたくないな」
男性は少し拗ねたような表情をしてみせた。
その姿がなんだか愛らしくて女性はまるで子供をあやすかのように男性の頭を撫でた。
「ふふっ、大丈夫よ。誰が現れようとどんなことがあろうと私はあなた一筋だもの」
男性は彼女の手を頭から自分の顔の近くに持ってきて左指のリングに口づけをした。
「俺もだよ。俺はもう君しか見えないよ。世界中の誰もが羨むくらい2人で……いや、お腹の子と3人で幸せになろう」
まだ然程膨らんではいないお腹を2人で見つめながら未来のことを想像した。
子供が生まれて幸せに暮らす未来を。
その子にもいつか恋人ができて、結婚をして、子供ができて、そんな風に幸せが連鎖する未来を。
生まれてくる子が女の子だったら結婚相手に色々言ってしまうかもしれない。男の子だったら一緒に野球をしてみたい。
俺と彼女が知ることのできなかった幼少期の幸せや愛情をたくさん与えてあげたい。
この子が闇に落ちてしまわないように俺達はこの子の人生を自分の命尽きるまで見守り続けよう。
「時間のない世界」番外編です!
本当は昨日投稿する筈だったのですが、私がうっかり忘れてしまい月曜日に投稿しました。
すみませんm(_ _)m
番外編として2人のその後を小説で書きました(^o^)
小説、下手なりに頑張りました!読み難かったらすみません(;>o<;)




