おかあさん
椅子を並べて、恍惚とした表情を浮かべて笑いあい、少年と母は見合わせていた。
「たっくん……」
母は言った。
それは少年に見せるそれではなく、男に対して見せるものであると同時に背徳感が余計な雰囲気を作り出している。
「おばさん、石鹸の匂いがする……」
呼ばれた少年は母に近づき、髪を嗅ぐ。
「それに、玉子焼きの匂いも」
母はその言葉に頬を紅潮させ、少年を引き寄せると、耳元で囁いてみせた。
「それはね……」
一つの間。
そして少年が椅子から崩れ落ちるようにまえのめりで倒れ、耳を押さえながら暴れまわって叫び出す。
母はそれを見て口を十字に割って無数の、ワニのような歯を見せて言った。
「お゛まえをクッでヤるためサァ!」
その瞬間、僕は目覚めた。
体を起こして横を見れば、無数の同じ顔がうじゃうじゃとヨダレを垂らしていた。