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回復効果付き飲料《ポーションドリンク》、サイダー味

えぇ、えぇ・・・・・・。何も言わないでください

回復効果付き飲料(ポーションドリンク)、サイダー味の売れ行きがあまり芳しくない」

「いや、それはそうでしょー店長。戦ってる最中でも手軽に飲めるのが回復効果付き飲料(ポーションドリンク)の利点なのに、それを炭酸飲料にしちゃったら飲みにくいでしょー」

「・・・・・・確かに!」

 完全に失念していた。なぜそんな単純なことにも気付かなかったのか。

 そっか、みんな炭酸が苦手とかじゃなかったんだ。味は良かったんだ。俺は店で飲んで確認していたから、回復効果付き飲料(ポーションドリンク)は冒険中に飲むものだ、という当たり前の事実を忘れていたのか。

 いかんな。商人として、この程度のことにも気付けないとは。

「ところでロンド。例の物はどうなった?」

「あぁ、あれですか?ちょっと調合が難しくて、まだ未完成」

 ロンドは首を傾げて、ちょっと恥ずかしそうにはにかむ。

 そんなロンドに、そうかドンマイファイトだよ、と伝え、俺は次の話題に移った。商人たるもの、時間を有効活用せねば。

『購入者からアンケートをとった結果から考える、回復効果付き飲料(ポーションドリンク)の新作』

『昨今の魔物(モンスター)の凶暴化に伴い予測される、回復薬ポーションの売り上げ量の増加』

『売り上げ増加のための、新たな販売ルートの構築及び、新商品の開発』

 などなど。

 俺たちは様々なことを話し合った。話しているうちにお互いにどんどんヒートアップしていき、俺とロンドによる二人だけの話し合いは実りを見せていた。まるで世界から切り離され、この空間に二人しか存在していないかのような錯覚に陥る。

 そんな実りある充実した時間が、永遠に続き──────


「そんな話し合いより先に、テメェらの接客態度見直せコラァ!!!」


 レジの前で怒気を孕んだ叫び声を上げる一人の男に遮られた。なんだコイツ、人の家に勝手に上がってんじゃねぇぞ。


「・・・・・・あ、客か!」

「そーだお客様だこの野郎!」

「店長しっかりしてくださいよー。その人、もう結構前からずっといましたよー?」

「おぉ、マジか」

「いや店員!オマエ気付いてたなら言えよ!てか、話し合いのあいだ、二、三回こっち見てたよな!?」

「・・・・・・?えぇ、まぁ。まだいるなーあの人ー、と思って」

「もう帰る!」

 カウンター前で涙目になったお客様が、唐突にお帰りになられると叫び始めた。なぜだ。

「ちょっと待ってくれ冒険者殿!こらロンド。お客様は大切にしろと教えただろう。ちゃんと謝りなさい」

「ごめんなさい」

 少女の頭をグイっと下げさせ、とりあえず謝罪させる。それを見た男は、どうやら機嫌を直してくれたらしく、溜め息を吐きつつカウンターに戻ってきた。

「ほら、会計」

「えーと、回復効果付き飲料(ポーションドリンク)1ダースで5000ルード。あと、これはお詫びのサービス、回復効果付き飲料(ポーションドリンク)サイダー味だ。待たせて悪かったな、客」

「態度がなってねぇ。客にたいして客って言うじゃねぇよ、クソ店主」

「餌に群がる飢えた野良犬のように、無様に喚かせてしまって申し訳ありません、お客様」

「ちょっと表出やがれ店主殿」

 額に血管を浮かび上げながら怒気を放つ土民族ドワーフの冒険者は、丸太のように太いその豪腕でキツく拳を作る。

 なぜだ、ちゃんと言い直したのに。

「まぁまぁお客さん、落ち着いて。今からそんなに力使っちゃったら、このあとの冒険に差し支えますよ?」

「・・・・・・はぁ。わかってるよ」

 ドン、とカウンターに1000ルード紙幣を五枚放る。

「まぁ、俺もさすがにこの店に慣れたから構わないが、クソ店主。オマエまさかとは思うが、新規の客にもこーいう対応じゃああるめーな?」

「なにをいうか、冒険者殿。お客様は神様だぞ?我がアイテムショップ【春風のしらべ】は、来るもの拒まず去るもの逃がさずがモットーでな。財産をすべてこの店で使わせるレベルで搾取するために、お客様には満足感を与えて金を落としてもらうんだ」

「客に伝えるモットーではねぇよな、少なくとも」

「客を客として敬うのは、金を払うと決めた瞬間から金を払い終えるまでだ。つまり、すでに支払いを終えたオマエは客じゃねぇ。買い物が終っても店内に居座るただの土民族ドワーフの男だ」

「常連やめんぞテメェこら!!!」

 まったくやれやれ、うるさい冒険者だ。

 俺は溜め息を吐きつつ首を振り、ニヤリと笑いながら目の前の冒険者を見下ろす。

「あん?なんだよクソ店主。その顔ウザいから止めてくんねぇ?」

「いや、財布がスゲー喋ってんなぁと思って」

「帰る!」

「あぁ、最後に。サービスの回復効果付き飲料(ポーションドリンク)は冒険中、とくに戦闘中には飲むなよ。腹に炭酸が溜まって動きが鈍くなるぞ」

「欠陥品を押し付けんなよ!」

「またのお越しをー」

「二度と来るか!○ね!!!」

 バタンッと力強く閉じられた扉をしばし眺め、きっちりと支払われた5000ルードを仕舞う。

「・・・・・・いつも思うけど、あの常連さん、よくうちの店に通い続けますよねー」

「いいか、ロンド。通い続けるから常連なんだ」

 そして、金を落とし続けるから常連なのだ。

「ところで店長。さっき常連さんに渡したのって・・・・・・」

「あぁ。おそらく本日も売れ残るであろう回復効果付き飲料(ポーションドリンク)、サイダー味だ。それならサービスにしたっていいだろう」

「・・・・・・店長。それ、利益になります?」

 こちらを見上げながら、ロンドは問う。

「ま、売り上げが伸びるってことはないだろうな。いくら味がいいからと言って、じゃあ普通にサイダー買ったほうが断然安い。あいつに回復薬(ポーション)と同じ効果を付けたところで、なんのプラスにもならない。まあ、中にはそれがいいっていう炭酸好きの冒険者がいるかもしれないが、万人受けするもんではないな。だから、こうやってサービスで配るのは、別に商品を手に取ってもらうきっかけ作りとかじゃあない」

「じゃあ、どうして?」

 なおも飛んでくる問いに、俺はうーんと唸ってから言葉を返す。

「あくまでも俺の個人的な考えなんだがな。目的の一つは、あの回復効果付き飲料(ポーションドリンク)の処分だな。普通に処分したんじゃあ金がかかるし、あのまま置いておいても完売するようなもんじゃない。残った分は、当然時間がたてば処分だ。収入よりも支出のほうがデカくなる可能性が高い」

 そう。商品は、処分するにも金がかかる。水道水を道にぶちまけるのとはわけが違うのだ。その際にかかるであろう費用と、このまま売り続けることで生まれる利益を天秤に掛けたに過ぎない。

「二つ目の目的は、店の宣伝、イメージアップだ。さっきのは特殊な例だったとしても、基本的に無料で何かが貰えるってんなら、それに悪印象なんて滅多に生まれない。使い道がないゴミを譲るってんなら話は別だが、幸い、コイツは飲める。味は上手くて元気になるってんだから、アイテムとしては使えなくても、たとえば飲料としてだったり、エナジードリンクとしてだったりで使える。試作品をただで配るのと一緒だ」

 手に取った回復効果付き飲料(ポーションドリンク)の瓶を手の中で弄びながら、さらに続ける。

「そして、三つ目の目的だが・・・・・・さてロンド。わかるか?」

 そういって、瓶をロンドに差し出す。

 受け取ったロンドは、そこに張り付けてあるラベルを見つめながら、呟くように答える。

「・・・・・・商品の、カテゴリーチェンジ?回復効果付き飲料(ポーションドリンク)っていう名前から連想される冒険に持っていく回復アイテムってイメージから、日常で使用する健康薬品へのシフトチェンジ」

「そして、あわよくば商品としての地位を上げる」

「・・・・・・へー。店長のくせに、色々と考えてるんですねー」

「くせにっておかしくない?」

 ロンドは意外そうな、それでいてどこか感心しているような表情を浮かべるが。

「あー、一応もう一度言っておくが。あくまでも俺の自論だからな?これが正しいかはわからんし」

 経営とは博打打(ばくちう)ちだ、と昔同僚に聞いたことがある。特に、俺のような独学で店を開いているような人間は、常に緊張しながら次の一手を打つ。

「俺は別に、名のある学校やら教育機関で経営学を学んだわけじゃあないからな。元々は、何の学もない泥臭い冒険者の一人だったんだからな」

 昔を思い出して郷愁に浸る、なんてほどではないが、少ししんみりした空気になってしまった。そういえばロンドには、昔の話を詳しくしたことはなかったな。

「まあ、それはどうでもいいとして。こんな素人経営者の下に修行に来たアルバイトはそれ相応の努力が必要となるわけでだな・・・・・・あれ、何の話だっけ?」

「要約すると、頑張れ私っていう声援ですか?」

「あー・・・・・・うん、それでいいや」


 売れそうにない商品にも、ちゃんと価値を与えてあげる。完全に無価値なものなんて、逆に珍しいということを、彼女にはしっかりと覚えておいてほしい。一方面では役に立たないガラクタでも、別の方面では必須アイテムとなりえる。

 つねに多方向から考えられるようになってもらえるように、こうして少しずつ育てていく。


「てことは、先日倉庫の奥で見つけた、店長の秘蔵写真集にも、しっかりとした商品価値があるってことですよね」

「・・・・・・・・・え」

 そういって彼女は、どこから取り出したのかわからない一冊の雑誌を手に持つ。

「いやー驚きましたよ。だってまず表紙が、水が滴る水精族(セイレーン)の女の子でしょ?しかもタイトルが『ドキドキッ!水に戯れる少女たちの異文化交流(ハート)』ですからねー」

「・・・・・・ちょ、オマエ、それ」

 ロンドの目はどんどん細くなっていき、その奥には、嗜虐的な炎がメラメラと燃えているように見えた。

「ほらもう軽くパラパラとページを捲るだけで、可愛らしい女の子たちのちょっとエッチはハプニング写真とか満載ですよー。頭と真ん中にあるカラーのところ、水辺特集なんですね。いろいろな種族の女の子が濡れ濡れで、その部分が特にヨレヨレに引っ張られてたんで、見開きでもよく見れてお得です」

「違うんだロンド。とりあえずそれをこっちに――――――」

「あれ?今まで気付きませんでしたけど、ページの端に折り目がついてるところがありま――――――」

「やめて!ホントにやめて!」



 こうしてロンドは、一つ成長する。



 本日の商品。


 回復効果付き飲料(ポーションドリンク)、サイダー味・・・・・・650ルード


かつての自分の作品を見返してみようと思い立ち、ふとこのタイトルを開いてみると。

なんと1話目しか投稿していないことに気付いてしまいました。

あれ、おかしいな。続きを書いた記憶があるぞ?

・・・・・・探してみたらありました。作成したのは2年以上前。

さすがに完成している作品を眠らせておくなんて、作品があまりにも可哀想だし失礼だと思ったため、とりあえず2話目を投稿しておきます。

続きは分かりません。かつて作った設定集を掘り起こしたので、それを元に続きを作成するかもしれませんが、もし続きが気になるという方は、あまり期待せずにお待ちください・・・・・・。

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