いなせなレイデー
男は資産家が多く住まう浄水通の一角に、3階建の家を2棟もうけた。家には5人の美しい女たちと共に暮らしていた。男と女たちの関係は分け隔てなく恋人だった。男は生涯を共にする伴侶が欲しかったわけではなかった。たんに性欲の捌け口が欲しかっただけなのだ。女たちが美しさを失えば、適当に金を積んで出て行かせる腹積もりだった。
そんな男が運命としか思えない出会いをした。前を行く女が、はらりとハンカチーフを落としたのだ。男はすかさずそのハンカチーフを拾い上げ、女を呼び止めた。
「もし―」
女は男が声を掛け終えるよりも早く振り返った。黒のロング、左目の泣きボクロ、筋の通った鼻梁、桜貝のような唇―
「パーフェクト……」
男は知らずそう声を漏らしていた。(今すぐ抱きたい! 俺のモノにしたい!)。ネバつく欲求は、男に神の力―『創造アプリ』の使用を躊躇わせなかった。しかし―
「あれ?」
創造アプリは起動しなかった。男が何度宙に手をかざそうとも。
「何でだ?」
「ふふふ」
「?」
目の前で運命の女が笑う。
「hackしたの。ソレ。神の力、今はわたしの」
「何だと!?」
カタコトの女は妖しさを増す。
「あなたにはもったいナイ。このアプリは。だからヴァイルス、送った。使用不可。でもわたしは使えル。コピペした。ヴァイルスは削除シテ……」
「そっ、そんなバカな。神の、力だぞ?」
「爆ジケロ」
女は人差し指を天に掲げ、地面に向けて真一文字にスライドさせた。
瞬間男の肉体はミンチ状に四散し、辺りを真っ赤に染めた。
「きゃぁぁぁぁ!」
白昼の怪事件。全身を血で染めた女―新たな神は、数々の目撃情報と証言によって警察に割り出され、逃亡生活を余儀なくされることになった。
「逃がしゃしねないぜ、娘ちゃんよぉ」
刑事は承認印のついた発砲許可書を手にニヤつく。
次の神殺しまで、後4日―。