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一,妹天下

作者は基本不定期更新ですのでご理解いただけると助かります。

未熟者ゆえ手直しが多くなると思いますが、どうぞよろしくお願いします。

誤字脱字、感想などあれば、教えてください。

前置きが長いですね。

どうぞごゆっくりお楽しみください。

日常なんてものは些細な切っ掛けさえあれば用意に崩れ去ってしまう。例えば料理に使う刃物を誰かにむけるとか、誰かに暴言を吐き散らすとか。動作としては小さなこと。

されど、誰もがその日常を普遍のものと考える。

ずっと変わらないものだと考える。


どれ程それが脆弱かも知らずに。






『雨の雫が漂う幻想的な世界。その中心にそびえる天壌の木。あの場所からすべては始まった・・・。

 仲間との協力プレイ、多彩な武器に魔法に精霊、無数に存在するキャラクター達からの情報を駆使し

 世界を救え!数量限定販売,MMORPG「rain blossom」在庫残りわずか!

 店頭へ急げ!』


「まーた、CMやってるよ、兄ちゃん。」


ジャージ姿で木目調のテーブルにだらしなく頬杖をつき口元のみをわずかに動かして話しかけるのは八神家の長男、れいの妹、朱莉あかりである。


月曜日の午前9時から兄妹そろってこんな自堕落な有様なのは、決して高校生で自宅の警備をしているとか、パソコンの守護神になっているとか、そういうわけではない。


今日は日本国民に与えられる列記とした休日なのだ。

零は特にすることも誰かと遊ぶ予定もないらしい朱莉を見て、まあやはりまさしく自分の妹なのだなあとしみじみ感じていた。


別段何かに不満があるわけでもないようだが、彼女の下がりきった口角と時折聞こえてくるため息には日常への「退屈」という感情が滲み出ている。

今日も当たり前のように納豆ご飯とキムチを朝食として腹に入れるだけ入れて、テレビ画面に映されるものを気に留めるでもなくただ呆然と眺める。

そんな妹の後ろで零もまた呆然と薄汚れた黒色の携帯の画面を見つめていた。


「今、兄ちゃんどこまで進んだの。」


朱莉はテレビから視線を外すことなく小さく呟く。


「ん。まあそこそこ。ランキングもいまいちだな。」


だらしない妹の兄らしく零は茶褐色のソファに腰掛け、片膝を立てながら同じく視線を動かすことなく曖昧な調子で答える。


「ふーん。あっそ。」


雑草のように無造作に伸びた前髪を悩ましげに引っ張りながら適当に返事する妹は、少しして途端にはっと思い出したかのような、というよりも面白い遊び道具を見つけた子供のような笑顔を勢いよく零のほうへ向けた。


こういうときの朱莉の考えていることは子供の頃からの経験の積み重ねで自分にとって都合が悪いことであることを零は知っている。


真っ黒な画面から朱莉の方へ目を動かした彼の顔は笑顔と言うにはあまりに不恰好だった。


「ねえ。小百合姉さんは!?どうなの!?」


小百合さゆり』というのは昔八神家の道を隔てて斜向かいに建っていた児童養護施設『ひまわり』。そこに一時いっとき預けられていた少女の名前だ。


同い年のその少女とは彼女が『ひまわり』にいた頃よく自分たちの兄妹も混ぜて遊んでいたのをよく覚えている。彼女とその兄は彼女が小学4年の時に一駅向こうで喫茶店『39』を経営している三宮夫妻に引き取られた。


小学生の零たちにはその「一駅」という距離はあまりに遠く感じられ、その当初はもう二度と会えなくなるのではないかと二人で泣いたりもした。


しかし、去年の春、高校の入学式で彼女は首席「三宮 小百合」として零たちの前に現れたのだった。

再会を果たした彼女と零は沢山のことを話した。


妹が会いたがっていること。

『ひまわり』の母たる琴吹先生が亡くなったこと。

ほかの子供たちが地方の別の養護施設に送られたこと。


最近では昔のように二人で共通のゲームの攻略を進めている。それが『rain blossom』である。


「まあ、昔から筋がいいとは思ってたけど、普通のプレイヤーとは段違いだな。俺とプレイするとき以外はソロでやってるらしいけど、

 ランキングは上位10に入るくらいで。」


朱莉は腕を組みながら誇らしげに頭を縦に振る兄を見て、背を丸め眉をひそめて不満げに言い放つ。


「そうじゃなくて!そんなこと聞いてねぇよ!」


「え? 」

呆気にとられた零の顔を見て、ごみを見るような目で深いため息をもらす。


その鋭い目つきと性格は母親譲りだろうなあ。と、情けない表情で零はこのあと暫く妹にどやされるのであった。


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