犯人
「いたたたた…あれ?どこだ、ここは?」
辺りを見渡すと森の中のようだ。ただ普段見ていたような森ではなく、アニメや漫画で出てくるような幻想的な雰囲気を醸し出している。
「そんなこと考えてる場合じゃないか、まず誰か人に会って現状を確認したい。ここが本当に別の世界なんですぐ信用出来る話じゃないしな」
「独り言は終わりましたか?」
「うん、ばっちり。って誰!?」
「お兄さん。私の事を忘れたんですか?綾の友達の桐野千夏ですよ。何回か家に行ってるはずですが」
「あぁ久しぶりだね、じゃなくて!何で君もここにいるの?」
「そんなの私がお兄さんを突き飛ばしてからに決まってるからじゃないですか」
「誰が突き飛ばしたのかと思ったら千夏ちゃんかよ!」
「何かみんな綾のこと忘れてるから家行ったらお兄さんが飛び出して行くのが見えて追いかけて行ったら学校の向こう側に綾がいるって感じの話を呟いているわりに動こうとしなかったじゃないですか、余りに苛立ってお兄さん突き飛ばしたら私まで落ちました」
「冷静に話してるけどとんでもないこと言ってない!?大丈夫?ここから帰って来れる保証ないんだよ?」
「そんなの何となく分かってました。何事にもリスクは付き物です。それよりも早く街へ行きましょう、綾の手がかりを見つけたいです」
「あ、はい…」
覚悟を決めて行こうとしたわりに年下の女の子に引っ張られるとか随分情けないな…
「何してるんですか?置いていきますよ?」
「あ、ごめん」
慌てて彼女のところに走って行く。本当に情けない…
そして暫く歩くと街らしき場所が見えた。
「あそこが街みたいですね」
「だね、どうしようか?」
「と言うと?」
「いや、だってこっちの言葉が通じるとは限らないし少し慎重になった方がいいんじゃない?」
「そんなの行ってみないと分からないでしょ、行きましょう!」
「マジすか…」
そして街に入ると、やはり服装で目立つのか色々な人にじろじろと見られる。ただ彼女はそんなことお構い無しにどんどん進んでいく、むしろ楽しんでいるようにも見える。
「あ、あそこが役所みたいですよ。入ってみましょう!」
「そーだね、そうしよう」
もはや否定するのも疲れてしまったので大人しく従うことにする。それに他の人の会話を盗み聞きして分かったが言語は僕たちにも理解出来るようで会話に困らないようだ、これは本当に助かった。
「すいませーん!」
「はいはい、何かご用ですか?」
奥から金髪の美しい美女が出てきたが、耳がエルフのような形をしていることから僕たちな異世界に来てしまったことを決定づけるようで何とも言えない気持ちになった。いや、綾を助けるために来たんだから異世界じゃないと困るんだけどね。
「ここ最近で私たちみたいな不思議な格好をした女の子の目撃情報とかありませんか?」
「うーん、そんな情報は来ていないわね。ごめんなさいね」
「いえ、分かりました。ありがとうございます」
「それにしても見ない格好ね、君たちどこの田舎から来たの?」
千夏ちゃんがこっちをチラチラ見てくる、どうも説明をしろということらしい。仕方ないので代わりに説明することにした。
「いや~それがここの世界じゃなくて別の世界から来たみたいなんですよ、僕たちがいたところに変なゲートが…痛い!何するの千夏ちゃん!」
「お兄さんはバカですか!?それを言うと頭おかしくなったと思われるからうまく誤魔化してもらおうと思って代わってもらったのに!」
「いや、だって他に言いようが無いでしょ!」
「あの~ちょっといいですか?お二人とも」
受付の金髪美女が僕たちを仲裁してくれた。
「お二人の話が本当なら探し人もこちらに来ている可能性が高いですよ」
「「ほんとうですか!?」」
「えぇ、実はこんなケース初めてじゃないんですよ。過去に何回かあったことで皆さん必ず誰かを探しに来たと言うんですね」
「その前に来た人がどうなったか分かります?」
「いえ…探し人に会えたのか会えなかったのかどうか、生きているのか死んでいるのか、全く分かりません」
「…そうですか、でも貴重な情報ありがとうございます」
「いえいえ、あともう一つ是非行ってほしい場所があるのでお教えしておきます」
「どこですか?」
「ロムの館という所です、皆さん探し人を探すために来たわけですから街から外に出るわけです。街と違って外は危険です。でも皆さんはここに来たときに何かしらの力、切り札になる力が無意識に備わっていると聞きます。それを見つけて強化してくれるという人の住んでいる場所です。私が知っているのはここまでです。無事に再会出来ることを祈っています」
お礼を言って役所から出てきて千夏ちゃんと今後どうするかを話し合う。
「どうするもこうするも『ロムの館』ってとこに行くしか無いですよね。私たちも外に出ないと行けないわけですし」
「それはそうか、何か武器になるものが見つかるなら絶対欲しいね。外に出ると危険みたいだし」
「…お兄さん顔緩んでますよ。ちょっと異世界っぽくなってきたとか思ってません?私達は遊びに来たんじゃ無いんですよ」
「わ、分かってるよ!でもやっぱり異世界物の小説好きとしてはこの展開はテンション上がるんだよ!」
「能天気で羨ましいです。さぁ行きましょう」
「おう! 」
僕たちは多少の不安と大きな期待をもってロムの館を目指して歩き出した。
読んでいただきありがとうございます。ヒロイン登場です。