違和感
僕の名前は山野祐也。家族は優しい両親に可愛くてしっかり者の妹、ちなみに僕が長男で四人家族だ。成績は中の中、容姿は良くも悪くもなく、市立の高校に通うどこにでもいるような平凡な高校生だ。今まで趣味も大して無かったが最近は読書にハマっている。本の内容で特にお気に入りなのが異世界に行く話である、何故ならそれを読んでいるだけで平凡な僕でも少し特別で強くなったような気分になるからだ。
「実際に異世界とか行けるんなら行ってみたいよなぁ。今の生活に不満があるわけじゃ無いけど、だからと言って楽しいわけでもないからなー。でも今の生活の全てを捨ててまではやっぱり行きたくは無いな」
そんな事をぐだぐた考えながら歩いていると見るからに怪しいマントを着けた人物が目の前を歩いていた。
「うわっ、明らかに怪しいやつだ。普通に考えて不審者かな?でも異世界ものの小説とかだと大体あんな感じのやつが『この世界はつまらなくないか?』とか言ってきて主人公が異世界に飛ばされるのが定番なんだよな。まぁそれは小説でフィクションなわけだし、ここはスルーしよう。変な奴とは最初から関わらないのが一番だ」
足早に不審者らしき人物の横を通り抜けようとすると
「この世界はつまらなくないか?」
不審者らしき人物が話しかけてきた。本当に絡まれたのは予想外だったが、話の内容が自分の予想していたのものと全く同じだったことから自分と同じ異世界物の小説が好きで少し痛い人という認識をし、シカトして抜けようとすると不審者が続けて話をし始めた。
「きっと君はこの世界がつまらないだろう。この世界が少しでも楽しくなるよう少し細工をしておいた、きっと君は今日帰ったあとに何か違和感に気づくはずだ。その違和感はこの世界にいるうちは解決しない。もし本気で解決したいなら今日の深夜ジャストに君が通う学校の前に来い。そこから全てが始まるだろう。チャンスは今夜のみ、私が渡せるのは片道切符だけだということだけ覚えておくといい。今度はあちらで会えることを願っているよ」
余りに不吉な予言をするので慌てて後ろを振り返るが不審者の姿はもう見えなかった。何か違和感がどうとか言っていたな、多分そういう予言じみたこという痛い人なんだろうと自分を納得させ、気にしないで早く帰ることにした。
「ただいま~」
「あら、お帰りなさい。今お父さんも帰ってきたところなのよ、夕ご飯にしましょう」
「うん、ありがとう」
今のところ何の違和感も無い、やっぱりただの不審者だったのかと確信して夕飯を食べることにした
。
「あ、ねぇ母さん。まだ綾が帰ってきて無いみたいなんだけど。あいつ帰ってきてから一緒に食べた方が良くない?」
「何言ってるの祐也?『綾』って誰?」
「…えっ?何言ってるのはこっちの台詞だよ、綾は僕の妹じゃないか、ふざけてるの?」
「ふざけてるのはそっちでしょ?うちは私にお父さん、祐也の三人家族じゃない。ねぇお父さん?」
「そうだぞ祐也、ふざけるのも大概にしなさい」
頭の中が真っ白になって思考が停止しそうになる。確かに僕には妹がいたはずだ、僕の勘違いでは絶対無いはずなんだ。慌てて立ち上がりアルバムがある二階に駆け上がる。両親が何か言っているようだが全く頭に入ってこない。
「どこだ!?どこにアルバムはあるんだっけ!?あ、見つけた!」
お目当てのアルバムを見つけてページを無心でめくっていく。
「無い、無い!なんで綾が写っている写真が無いんだ!まさか僕の方が間違っていて綾なんて妹はいなかったのか?」
アルバムを全部見ても妹の存在はまるで無く、加えて両親も嘘言ってるようには見えなかったので大人しく自分の方が間違っていたと謝りに行こうと思ったとき帰りに会った不審者の言葉を思い出した。
「確かあいつは違和感に気づくはずだと言っていた。これがもしその違和感なら普通には解決することが出来ないってことか?この出来事があいつの仕業なのか確かめるためには時間まで待って学校に行くしかないのか」
深夜ジャスト、僕は学校の前に立っていた。
「学校に着いたはいいけど普段学校より暗くて気味悪い以外に何の変化も無いぞ。入ってみるのか?」
そんな事を考えながら学校に入ろうとすると
「うわっ!なんだこれ!?何か蜃気楼みたいにゆらゆらしてる。まるで本当にワープゾーンみたいだ」
ここにきて僕は自分が置かれている状況をやっと理解した。あの不審者の言うことは事実、つまり妹はあいつに誘拐されたんだ。助けるためにはこのよく分からないゲートをくぐらなくてはならない、しかとあいつは片道切符と言っていた。それも事実なら行ったら帰って来れない可能性が高い。
「うーん、妹を助けるためとは言っても正直怖い。ここはじっくり考えて…」
僕がどうしても一歩踏み出せないでいると急に後ろから誰かに押された。
「えっ?ちょっ誰が!って待って~!」
自分の意思が固まる前に誰かに押されて謎の時空に放り込まれる。確かにいつも異世界に行くときは突然だけど、もう少し待ってくれたらかっこよく行ける予定だったのに…
「てかそれどころじゃない!これ本当に大丈夫!?そもそもどこに繋がってるんだよ~!!」
僕の叫び声に反応してくれる人は誰もいないまま、ひたすらどこかに落ちて行くだけだった。