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混血竜 前編

「まさか竜と人が一緒にここに来るとは思わなかった。ここは僕の住処だ。なんの用でここへ来た?」

 まだ若い竜なのだろう。高らかな声を上げ、混血竜(ハーフドラゴン)はタマに向かって話し出した。

 どうやらいきなりの戦闘はなさそうだ。

 千夏はほっと息を吐き、美しい竜を見つめる。


 本来混血竜(ハーフドラゴン)は人と相性が悪い。

 混血竜(ハーフドラゴン)は普通の竜の半分の時しか生きられない。

 そのため、じっと竜の谷で過ごす混血竜(ハーフドラゴン)は少なく、世界各地へと飛び立っていく。

 この世界ではほとんどの土地に人が住んでいる。人は繁殖力に優れ、次々と新たな土地を求めていく。

 必然的に混血竜(ハーフドラゴン)と人がいさかいを起こし対立することが多いのだ。


 エドからその話を聞かされていた千夏は、混血竜(ハーフドラゴン)が何も言わずに戦闘を仕掛けてくる可能性を考えていた。

 だが、目の前の混血竜(ハーフドラゴン)はまず語り掛けてきている。

 うまくいけば戦闘を回避できるかもしれない。


「ドラゴンオーブを探しにここに来た。知っているなら教えてほしい」

 アルフォンスが代表して混血竜(ハーフドラゴン)の質問に答える。

 その姿は堂々としているが、顔がにやけている。新しい竜に会えたので笑みが止まらないようだ。

 いまいち締まらない。

 相変わらず残念なアルフォンスにがっくりと千夏はうなだれる。


「ドラゴンオーブをどうするつもりだ、人間よ」

 混血竜(ハーフドラゴン)は冷やかにアルフォンスを見下ろす。

 それもそうだろう。同じ人間でも初対面であんな表情で語られたら不審に思う。

 千夏はちらりエドのほうを見る。

 エドは手を眉間にあて、ふがいない主を呆れてみていた。


 これ以上アルフォンスに話をさせるのは危険だ。

 いつ触らせてくれと言い出すかわからない。

 千夏は思い切って、アルフォンスの服をひっぱり後ろに下げる。

 セレナも思うところがあったようで、千夏に協力してアルフォンスを後ろへ連行していく。


 千夏達の行動に気が付いたエドが、自ら交渉の続きを行うことにする。主の不始末は自分の不始末だ。

「エッセルバッハに魔族が出たことはご存知ですか?」

 エドは混血竜(ハーフドラゴン)の質問に対して質問を投げかける。


「知らない。僕はここから生まれてから一度も出たことがないから。でも魔族は知っている。母様に教えてもらった。また人と魔族が争うのか?」

 混血竜(ハーフドラゴン)は、嫌悪感たっぷりにエドを見つめ返す。

 そもそもこんな洞窟で母親が過ごすことになった原因は300年前の人と魔族の争いのせいだった。


「我々は争いたくないですが、魔族から宣戦布告を受けました。かつての戦いのように一方的に魔族が攻め込んでくるでしょう」

「魔族は嫌いだ。手当たり次第に争いを仕掛けてくる」

 淡々と語るエドに混血竜(ハーフドラゴン)は苛立ったように声を張り上げる。


「人は竜や魔族に比べると弱い生き物です。ですが何もせずに魔族に屈したりはできません。そのためにここへ来ました。ここにはドラゴンオーブがあると聞きました。ぜひ竜の知識を授けていただきたい」

 エドはそういうと、混血竜(ハーフドラゴン)に向かって優雅に一礼をする。

 竜の自尊心をくすぐるにはへりくだったほうが効果的であることをエドは知っていた。


「お前たちのような人に竜の英知を受け継げるのか?」

 混血竜(ハーフドラゴン)は頭を下げたままのエドを見下ろし冷然と言い放つ。


「ちーちゃんはすごいのでしゅ。竜と同じくらい強いのでしゅ」

 それまで黙っていたタマが混血竜(ハーフドラゴン)を見上げ言い返す。

 混血竜(ハーフドラゴン)の気は確かに自分よりも大きいが、千夏のほうがさらに大きい。

 強者は千夏であり、目の前の混血竜(ハーフドラゴン)ではない。

 タマは千夏を侮辱されたと感じ、混血竜(ハーフドラゴン)に向かって抗議の声を上げたのだ。


 突然話し出した光竜に混血竜(ハーフドラゴン)は驚きの目を向ける。

 光竜は闇竜と並び竜の中でも古竜に一番近く、一段強い竜種だ。

 まだ幼竜だが、長年魔力を吸収し続けた自分との差も大きく変わらない。

 竜は強さが一番の存在価値だ。

 その竜が人を同じ強さだと言い切る。信じがたい言葉だった。


 混血竜(ハーフドラゴン)は視線を動かし、人をじっくりと眺める。

 タマのように気功の修行をしていないのではっきりと気を読み取ることはできないが、人の中に強い気配を感じる。

 濃い魔力の中で育った彼は自然と強い魔力を感じ、その主である千夏をじっと見つめる。

 確かにこの魔力は人が持つ量ではない。


 千夏は混血竜(ハーフドラゴン)と視線が合うと、その知性の宿った黒い瞳を見つめ返す。

 じっと見つめ返しているうちにその瞳に孤独を感じる。

 ああ、以前の自分と同じ瞳だ。長い間一人でいることに慣れきった瞳だ。


「あなたずっと一人で寂しくないの?」

 千夏は思ったことをそのまま言葉に出した。


 混血竜(ハーフドラゴン)は千夏の言葉をうまく理解できなかった。

 寂しいという言葉が何をさしているのかがわからないのだ。

「寂しいとは何だ?」


 根が素直なのだろう。疑問をそのまま彼は千夏に質問してくる。

「それは……」

 千夏がそう答えようとしたときだった、千夏達の真横に大量の赤い霧が突如発生する。


(魔物が生まれる!)

 シルフィンの言葉にリルははじかれたようにパーティ全体に防御力上昇の支援魔法をかけなおす。


 赤い霧は一瞬のうちに大きな塊に凝縮され、姿を形作る。

 霧から生まれ出た魔物は全長20メートルもある蛇だった。

「シャァァァァァァァァァァァ!」

 大蛇は一番手前にいた千夏に向かって即座に突撃する。


 タマもコムギもアルフォンスもセレナもそしてエドも、千夏を守ろうと駆け出すが、あまりの近距離からの攻撃で間に割り込むことができなかった。

 大蛇は千夏を突き飛ばす。

 千夏は反対側の洞窟の壁まで弾き飛ばされる。


「「「「チナツ!」」」」

 千夏の体が壁に激突した後、その勢いのまま地面にたたきつけられる。

 大蛇は倒れた千夏に再度攻撃を仕掛けようとする。

 そのまま千夏に駆け寄りたい気持ちを押し殺して、アルフォンスとセレナは大蛇に向かって突撃する。

 タマも千夏から大蛇を引き離すべく、翼を広げ上空から大蛇に向かって突撃する。


 リルもすぐに千夏に向かって防御結界を展開する。

 大蛇は防御結界に弾き飛ばされると、身の危険を感じたのか次々と襲ってくるアルフォンスとセレナそしてタマの攻撃から身をそらそうとして横に素早く移動する。

 その速度はセレナとアルフォンスをも上回る。


「うっ。痛い……」

 千夏は呻く。

 突然横湧きした大蛇はヒュドラと呼ばれるAランクの魔物である。

 本来なら死んでもおかしくないダメージを千夏は受けたが、貯めこんだ生命力の一部が削られただけで、軽い打撲で済んでいた。


 千夏が起き上がるのを見届けると全員が安堵し、一丸となってヒュドラに更なる追加攻撃を加える。

 タマは最初から千夏の気が減ってないことに気が付いていたので、それほど慌ててはいなかった。

 ただ、千夏を突き飛ばした大蛇は許せない。

 巨体のくせに素早く動きまわる大蛇の動きを制限させるために、ドラゴンブレスを吐く。


「ヒュドラだ!あいつは毒を吐くぞ」

 アルフォンスが叫ぶ。

 リルは千夏へのハイヒールをかけたあとに、全員に耐毒上昇の支援魔法をかける。


「大丈夫?まだ痛いところはある?」

 リルは千夏のもとにたどり着くと、千夏のケガの様子を点検する。

 リルがかけた過剰なハイヒールによって千夏の軽い打撲はすでに全快しており、特に痛いところはどこにもない。


「大丈夫。やられたらやり返す!」

 痛いもの痛い。

 壁に叩きつけられる直前、もしかしたら死ぬかもとそんな言葉が脳裏をよぎった。

 許さずにおくべきか!


 千夏は周りの状況を確認する。

 タマのドラゴンブレスに行動範囲が縛られたヒュドラは、アルフォンスとセレナに追い詰められている。

 唯一ヒュドラの速度に追いつくことができるコムギが、ヒュドラの胴体に噛みつく。

 ときおり、口をあけて突撃してくるヒュドラをエドが牙を掴み突進を押さえつける。

 その隙に、アルフォンスとセレナがヒュドラの体に剣をふるう。

 混血竜(ハーフドラゴン)は文字通り高見の見物らしく、少し離れた上空でこちらを観察している。


 千夏はすぐに、タマがドラゴンブレスを吐いている方向とは別方向にファイヤーウォールを次々と重ね掛けする。まるで燃え盛る炎の檻のようだ。


 行き場を失ったヒュドラは猛毒を正面にまき散らす。

 耐毒効果で猛毒が普通の毒レベルに下がったが、アルフォンス、セレナそしてエドの動きが鈍る。

 リルが急いで、キュアを一人ずつにかけていく。

 そこで魔力が切れそうになったのか、リルは急いでポーチから魔力回復剤を取り出し飲み干す。

 飲み終わると毒にかかった3人にヒールをかけていく。


 千夏はそのままタマがドラゴンブレスを吐いている方向にもファイヤーウォールを次々と重ね掛けする。

 タマも攻撃に参加させるためだ。

 追い詰められたヒュドラは、最後にアルフォンスの大地の剣による攻撃で、頭をたたき割られ倒れた。


「どうやら、これがダンジョンマスターだったようですね」

 倒れたヒュドラは徐々に体が消えていき最後に小さな腕輪が残った。

 鑑定のスキルを誰も持っていないので、何の腕輪なのかがわからない。

 とりあえずエドがアイテムボックスに腕輪を格納する。


「全然追いつけなかったの。まだまだ修行不足なの」

 しょぼんとセレナが俯く。

(せやな。Aランクの魔物はまだ一人では倒せんやろう。せやかて、混血竜(あっち)はどないする気なんやろうな。)

 シルフィンの言葉にはっと思い出したかのように、セレナは上空に浮かぶ混血竜(ハーフドラゴン)を見上げた。

まだ続きます・・・

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