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大地の剣

「誰かが来た」

 かすかに爆発音が連続で聞こえてくる。


 過去に何度か自分が閉じた土砂をどけようとしたものがいたが、諦めて帰っていった。


 だが、今回の訪問者は諦めなかったようだ。

 微かに違う匂いの空気の流れが入り込んでくるのをレオンは感じ取る。


「母様、少し騒がしくなるかもしれない」

 レオンはそう前置きしたあと、「いってくる」と傍らにたたずむものに声をかける。

 横たえていた体を起こし、ゆっくりと立ち上がり住処を後にした。




 土砂で歩きにくい地下三階へと続く通路を抜け、千夏達は地下三階へと降り立つ。

 通路を抜けた先は少し広い空間となっており、左右に道が分かれている。

 目に見えるところに魔物はいない。


(この場所やたら魔力がいっぱい溢れているんで、どっちに混血竜(ハーフドラゴン)がおるのかわからんわ。チナツ、気からなんかわかるか?)


「んー、いくつかの小さな気が近くにある。遠くに大きな気が1つ。タマよりも大きな気。こっちのほうだよ」

 千夏は左側の通路を指さす。


「大きな気は一つですか?混血竜(ハーフドラゴン)とダンジョンマスターもいると思うのですが」

 エドが再度確認する。


「ひとつしか感じないわ。タマはどう?」

「タマもひとつしか感じないでしゅ」

 千夏の問いにタマも頷く。


「とりあえず、あっちにいってみよう。ここで話していても仕方ない」

 アルフォンスは千夏のさした左の道のほうへと歩いていく。


「大きな気の前に小さな気2つがあるから注意して。小さいといってもミノタウルスよりは強い」

 千夏の助言ですぐさまセレナが小走りし、アルフォンスの隣に並ぶ。

 リルもパーティ全体に持っている支援魔法をかけなおす。


「近い!」

 左に進んだ細長い洞窟をしばらく進んだ後、近くなる気に千夏は短く警告をする。

 もう見えてもいい距離だが、洞窟の中には岩が転がっているだけで魔物の姿が見えない。


 自分が間違っているのか?

 そう千夏が首をひねっている先にごそりと巨大な岩が動いた。


「ストーンゴーレムか!」

 アルフォンスは目の前の巨大な岩の様子をうかがいながら剣を抜く。

 ゆっくりと大岩が立ち上がってくる。


 人型をした岩の塊--ストーンゴーレム2体目が通路を塞ぐように立ちふさがる。

 全長はおよそ6メートル。横幅は2メートルほど。


 ストーンゴーレムが立ち上がってこちらを窺った瞬間にアルフォンスとセレナが同時に駆け寄る。

「うりゃー!」

「ハァー!」

 間合いを詰めた二人はそれぞれのストーンゴーレムの腹部に斬りかかる。


 ガツンと衝撃音が鳴り響く。

 ストーンゴーレムの腹部の一部が削り取られただけで、ノーダメージに近い。


(あほか!普通の剣なら使いもんにならん攻撃すな!関節狙え、関節や!)

 シルフィンが二人の弟子に向かって怒鳴りつける。


 ゴーレムは前衛泣かせの魔物である。

 堅いため、体の表面に傷をつけるのがせいぜいでなかなかダメージが通らない。


 ストーンゴーレム達はすぐにアルフォンスとセレナに向かって、ぶんと腕を振り上げ報復攻撃に転じる。

 大きな割には動作は機敏だ。振りぬく腕はそれなりの速さがある。

 だが、アルフォンスとセレナの敏捷度のほうが優っている。


 2人は振り下ろされる腕をよけ、それぞれ足の関節と腕の関節に向かって剣を叩き込む。

 セレナが足の関節にたたき込んだ攻撃が効いたようで、足の関節の前後にピシリとヒビが入る。

 腕輪での腕力強化の差が如実に現れる。


「くそっ」

 アルフォンスは自分の攻撃がほとんど効いていないことに憤りを感じる。

 だが、立ち止っている余裕はない。続けて同じ個所に剣を叩き込む。


「馬鹿ですか?剣の使い方が間違っています。大地の剣をうまく活用しないと意味がないですよ」

 主のふがいない動きにエドは辛辣に批評する。


「といっても、どう使うんだよ。これ!」

 アルフォンスはストーンゴーレムからの攻撃をよけながら、エドに向かって叫ぶ。

 龍脈の力をどう貯めるのかが全く分からない。


「もしかして、使い方知らないんですか?」

 エドは呆れたように答える。

「知らん!」

 潔い答えがアルフォンスから返ってくる。


「使い方くらいきちんと聞くべきでしょうに。馬鹿すぎてなにもいえません。仕方ないですね、タマ少しあちらのストーンゴーレムを抑えてもらえますか?できれば倒さないでください」

「はいでしゅ」


 タマは竜の姿に戻ると、アルフォンスとストーンゴーレムの間に割って入る。

 ブンと尻尾を振って、ストーンゴーレムの足をいなす。

 尻尾に横なぎされたストーンゴレームは足すくわれ、横に吹き飛ばされる。


 アルフォンスはエドに襟首を掴まれ、後方まで引きずられてくる。

「念のために私が聞いておいてよかったですよ、本当に。いいですか、龍脈の力を貯めるには、まず剣を大地に突き立てます」


「こうか?」

 アルフォンスはエドに言われたとおりに、大地の剣を洞窟の床に突き立てる。


「それで結構です。突き立てた剣を両手で握り、『グラウディング』と唱えることで大地からの力を引き出すことができるそうです。この際、できるだけ体の力を抜くことがポイントだそうですよ」


「わかった。やってみる。『グラウディング』!」

 アルフォンスは両手で剣を掴み、エドに言われた通りに詠唱する。


 なんともいえない感覚が、剣を伝ってアルフォンスまで届く。

 ぶるりとアルフォンスは体を震わせる。

 千夏が同じ体験をしたのであれば、「なんかジェットコースターで一気に落ちていくときの浮遊感に似てる」と評しただろう。


 千夏はそのころ、セレナが受け持っているストーンゴーレムにファイヤーランスの魔法を放っていた。

 土属性の魔物は火に弱い。


 セレナがすでに右足の関節を砕いていたのでストーンゴーレムは動くことができなくなっていた。

 次々と放たれる炎の槍がストーンゴーレムの体を削っていく。


(ゴーレムには核と呼ばれる心臓石がある。そこを壊されると動けなくなるんや。)

 シルフィンの助言から千夏はストーンゴーレムの左胸を狙って魔法を放ったのだ。


 人と同じ型なら同じ場所に心臓があるのではないかという思惑からだ。

 思惑どおりに心臓石は左胸にあったようで、ストーンゴーレムは左胸を削り取られたあと、ばたりと倒れ動かなくなる。


 後はタマが相手をしているストーンゴーレムだけだ。

 エドに言われたとおり、タマはゴーレムを倒さない程度に力押しでストーンゴーレムを押さえつけていた。


 コムギは今回は参戦していない。コムギの牙と爪ではストーンゴーレムにダメージを与えられないからだ。


 アルフォンスは剣を引き抜くと、ストーンゴーレムに向かって走り出す。

 タマの横を通り過ぎ、ゴーレムの腕をかいくぐり、無傷の左足の関節に剣を叩き込む。


 先程とはうって変わってアルフォンスの一撃で、左足の関節が粉々に吹き飛ぶ。

 そのままアルフォンスは剣を返し、左腕の関節に剣を突き倒す。


 今度は粉砕まではいかなかったが、左腕の関節を切り落とした。

 3度目の右腕の関節を狙った攻撃は、関節にヒビが入る程度で止まる。


 試しにもう一度右腕の関節を狙って剣を叩きつけたが、あまりダメージが入っていないようだ。

 普段通りのダメージに戻ってしまっている。


「一度のチャージでは効果が出るのは一撃目と二撃目くらいまでですか。チナツさん、止めを」

「OK!」

 検証が済んだので千夏がファイヤーランスで止めをさす。


 大地の剣のチャージは一日3回まで。

 貯め続ければ大きな力が宿る。ただし、一度でも攻撃したらため込んだ力が放出される。

 普通の魔物はいままでの剣を使った方がよさそうだ。


 エドはアルフォンスにそう説明し、混血竜(ハーフドラゴン)戦のために今残りのチャージをしておいたほうがいいと勧める。

 素直にアルフォンスはその勧めに従う。


 内臓が落ちるような感覚は正直気持ちのいいものではないが、攻撃の威力が上がることのほうが大事だ。


 騎士が10人かかりでやっと倒せるストーンゴレームをあっさりと2体を倒したのをみて、リルはふぅと息を吐く。魔族を倒したこのパーティはやはり強い。


 混血竜(ハーフドラゴン)戦は少し手こずるとエドが言っていたが、竜を相手にこの人数で勝つつもりなのだ。


 今までの戦いではリルは支援魔法を事前にかけるだけだった。

 しかし、混血竜(ハーフドラゴン)戦は事前にシルフィンからリルは後衛を魔法結界と物理結界の切り替えをスムーズに行うようにと言われている。


 難易度が高い要求ではあるが、それを失敗するとパーティ全体の被害が大きくなる。


 リルはポーチに魔力回復剤がきちんとおさめられていることを再度確認し、ドキドキしながら一行の後をついて歩いていく。

 自分もみんなの役に立ちたいのだ。


「大きな気がこちらに向かってくる。このままだと数分後には接触するかも」

 千夏が警告を発する。


 竜に戻ったままのタマを先頭に、アルフォンスとセレナとエドそして少し遅れて千夏とリルと並ぶ。

 コムギはセレナの後ろを勇ましげに歩いている。


(ええか、混血竜(ハーフドラゴン)やったら事前の打ち合わせ通りやぞ。)

 シルフィンの言葉に全員が頷く。


 先程まで相手をしていたBランクの魔物とSランクの混血竜(ハーフドラゴン)とでは比べようがない。全員が気合を入れて前に進んでいく。


 洞窟は少し右方向へ緩やかなカーブを描いている。

 接触するとしたらこのカーブを曲がったところあたりだ。


 千夏は少し緊張気味にカーブの先へ視線を向ける。

 青白い光を鈍く発する洞窟の先に黒い大きな影が見える。


 それはタマの倍くらいの大きさで、水色の鱗がキラキラと輝いている。

 一部おなかから首にかけては色が変わっており、こげ茶色の鱗になっている。


 額に生えている角は少し短く橙色に光輝き、知性を伺える大きな黒い瞳がじっとこちらを見つめている。

 大きな翼になんでも切り裂けそうな鋭い爪。

 まぎれもない竜の姿であった。


「鱗の色が2色です。確かに混血竜(ハーフドラゴン)ですね」

 エドはその影をみて言い切る。


 タマ以外の竜を初めてみた千夏は、その竜を美しいと思った。

 タマもそうだが、竜とはなんと優美な魔物なのだろうか。


 混血竜(ハーフドラゴン)は立ち止り、じっとタマの姿を見つめている。

 ダンジョン産の魔物であれば相手が竜であろうと問答無用に襲い掛かってくるが、やはりあの混血竜(ハーフドラゴン)はそれとは違うようだ。


 タマも立ち止り初めてみる同胞の姿を見つめる。

 エドが混血竜(ハーフドラゴン)は竜より弱いと言っていたが、目の前の混血竜(ハーフドラゴン)はかなりの強敵である。


 今の自分では対等に戦うことは難しい。

 悔しげに目の前の同胞をタマはじっと見つめ返した。

きりが悪いのですが一旦きります。

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