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夏まつり (1)

 結局その日の夜コムギを宿の部屋に入れることにした。宿屋の亭主には金貨3枚ほど払うことでコムギを宿屋にいれてもよいという許可をもらったのだ。

 窃盗団を捕まえたので特に問題はなかったが、やはりタマとコムギを厩で寝かせるわけにはいかなかった。


「コムギが大きくなる前に『擬態』を覚えてくれればいいんだけどね」

 千夏はベットにごろりと寝転がっているコムギをみながら呟く。

 今は体長40センチほどだから、宿屋の中に入れられるが何メートルも大きくなったらさすがに拒否されるだろう。


「ちょっとイメージトレーニングでもしてみるか」

 千夏はベットで寝ているコムギの横に座る。

 コムギは千夏に気が付くと、なぁに?という風に顔を上げる。


「コムギ。タマみたいに人に擬態できればコムギだけお外で寝なくてすむの。タマの姿をよく見て。同じ姿になることを想像してみて」

 コムギは千夏にそういわれて、タマをじっと見つめる。

 少しずつ近くにいる千夏からコムギは気を取り込み始める。コムギの金色の瞳が爛々と輝き、コムギの輪郭が一瞬ぼやけたがしばらくすると元に戻る。


「今日すぐにできるわけじゃないから、ゆっくり練習してみてね」

 千夏がコムギの頭をなでると、コムギは「クゥー」と鳴く。どうやらうまくいかなくてちょっと悔しいようだ。


「チナツ、ここの宿はお風呂ないみたいなの。だから、お風呂出して欲しいの」

「ん。分かった」

 千夏はセレナに頼まれ風呂おけを取り出す。

 すぐに水をいれて魔法でお湯に暖める。千夏もお風呂は毎日沸かしているので、手を入れて確かめなくても丁度いい温度に沸かすことが出来るようになっていた。


 お風呂がわくと早速セレナと二人で湯に浸かる。それを見ていたコムギが興味を持ったらしく、風呂の中に飛び込んできた。

 そういえばお風呂場までコムギを連れて行ったことはなかった。いつも昼間にコムギを水で洗っていたのだ。今日はばたばたしてまだコムギを洗っていなかった。


 千夏はコムギを石鹸で洗い始める。王都で購入した石鹸は洗い上がりが突っ張らずにガサガサしない。なかなかいい石鹸だった。


「タマも入るでしゅ」

 タマも急いで服をぬぐと、お風呂の中に入ってくる。セレナは自分の膝の上にタマを座らせ、千夏から石鹸をもう一つ受け取るとセレナはタマを洗い始める。

 お風呂の中は泡だらけだ。

 千夏はもう一個王都で作った風呂桶をとなりに並べ、お湯を張る。

 タマとコムギを泡だらけにすると、全員でとなりのお風呂に移動する。


 隣の泡だらけになったお風呂のお湯をアイテムボックスに収納してから、リフレッシュで綺麗にする。そしてまたお湯を張りなおす。

 コムギとタマの泡を洗い流してから、二匹をお風呂から出す。タマに二枚のバスタオルを渡し、今度は自分たちを洗うのだ。


 コムギはお風呂から出ると全身をブルブル震わせ水気を飛ばす。そのせいでベットにコムギが飛ばした水が飛び散る。後でベットも綺麗にしないとまずそうだ。

「コムギはお昼に外で洗った方がよさそうね。コムギ、そのままベットにのっちゃだめだからね。毛が乾くまでベット禁止!」

「クゥー」

 不満そうにコムギが鳴く。


「あとで天幕で使っている敷物を床に敷いてあげるから、我慢よ、我慢」

 重ねて千夏から言われコムギは大人しく床に蹲る。

 タマは自分の体をタオルで拭き終わると、コムギをタオルで拭き始める。


 千夏とセレナは体を洗い終わると隣のお風呂に移動する。

「ふぅー、結局今日は全然街を見れなかったね」

 千夏は首までお湯につかりながら、セレナに話しかける。


「明日はのんびり回るの。あと一度ギルドに依頼達成を報告に行く必要があるの」

「そうね。ところでここの夏祭りは明日からよね?本で読んだかんじだと、海で漁の大会と船の競争があるのよね。夜は魔法による花火みたいなショーがあるみたいだけど」

「花火?」

 セレナが千夏に聞き返す。

 この世界には火薬はない。千夏はどう説明しようかと悩む。


「夜空に花を描いた火の魔法かな」

「火の魔法だと危ないの。普通は光魔法を使うの」

「確かに。たまに火傷する人がでるって聞いたから、光魔法のが安全だね」

 千夏はセレナの言葉に納得して頷く。


「夜の魔法ショーは魔法使いが飛び入り参加できるの。光魔法が使える魔法使いが少ないから、飛び入り参加大歓迎らしいの。魔法コンテストみたいになるから、優勝したら賞金がでるの。チナツは光魔法は使えないの?」

「私は光属性ないんだよね。リルなら参加できるんじゃない?」


 2人で夏祭りについて話し込んでいたところに、タマが近寄ってきて手を上げる。

「タマも光属性でしゅよ!お空に魔法で絵を描くのでしゅよね。タマにもできそうな気がするでしゅ」

「じゃあ、明日リルにちょっと教えてもらおう。できそうなら参加すればいいよ。私の故郷の花火とおんなじものを、タマがやってくれたらうれしいな」

「はいでしゅ。タマは絵をかくのが上手なんでしゅよ」

 千夏に期待されてタマは嬉しそうだ。


 次の日の朝、祭りを見るために早めに朝食をとる。

 9時頃から海での漁と船の競争が始まるらしい。

「漁競争って誰でも参加できるらしいんだ。参加しないか?」

 アルフォンスが楽しそうにみんなに提案する。


「漁ってどうやって獲るの?竿で糸をたらして釣りあげるの?」

 千夏がアルフォンスに尋ねる。なんとなく参加したら釣り上がる前に寝てしまいそうな気がする。

「そういう漁もあるが、銛をつかってイビルシャークやカジキをとるのも漁だな。どちらかというとそっちで勝負したい」

「網をつかって引き上げるのでも問題ないよ」

 リルがアルフォンスの説明を補足する。


「船に乗るってことだよね?だいたい今から船を借りれるの?」

 千夏は胡乱気に答える。

「昨日、セラに連絡して頼んでおいたから大丈夫だ」

 どうやら千夏とセレナがお風呂に入っている間にそんなことをしていたらしい。


「酔い止めの薬をこの街で売っているようなので、それを購入すれば大丈夫ですよ。釣りたての魚はおいしいですよ」

 エドがお茶を配りながらそう言い添える。

 思わず千夏はなんでミジクでその薬売ってなかったのよ!と突っ込みたくなる。


「パワン海はいわゆる内海ですからね。波はほとんどありませんから需要がないんですよ」

 千夏の表情からそれを読み取ってエドが補足する。


「祭りは見るより参加したほうが絶対面白いって」

 アルフォンスがダメ押しをする。

 千夏以外の全員は乗り気になっている。


「魔法禁止よね?」

 一応千夏は確認する。ダメならきっと船にのっていてもたいした手伝いはできない。

「もちろん、腕一本で勝負する。それが海の男だ」

 だれが海の男だと突っ込みたくなるがあえて黙る。

 アルフォンスが乗り気になった以上、止まらないことはよく知っている。


「そうと決まったら、銛や酔い止め薬などを買いに行った方がよさそうですね」

「そうだな。じゃあさっさと買い物してから夏祭り運営会場で参加票を書きに行こう」

「タマも頑張るでしゅよ」

 みな張り切って席を立つ。早速買い物へと出かけることにした。


 夏祭りの関係で漁具専門店は早朝から店を開けていた。替えの銛も含めて数十本の銛と、非力な千夏とリル用の釣竿を購入する。釣り餌と、酔い止め薬もその店で買うことができた。


 夏祭り運営会場で漁競技の登録を済ませると、簡単な競技の説明が記された紙を渡される。

 競技時刻は朝の9時から午後3時までとする。基本獲物の大きさと数で順位が決まる。魔法は使用禁止。午後3時以降に港に戻ってきた場合は失格とする。


 つまり勝負に勝つためには大きい獲物をとるか、数を稼ぐかのどちらかだ。

 竿や網でなく銛をメインに使うので基本は大きな獲物を捕ることが勝負の行方を左右する。

 千夏は別に順位など気にしないが、他のメンバーは俄然ヤル気になっている。優勝狙いのつもりでいくらしい。


 数を気にしないのであれば、釣った小さな魚は船で食べても問題ないだろう。タマやコムギのご飯にもちょうどいい。


 セラが用意してくれた船はシシールで乗った小型快速艇と同型の船だ。結構スピードが出そうだ。

 千夏は買った酔い止め薬を早速水で服用する。


「船長のモリスだ。このあたりの海のことならまかせておけ。絶好の獲物ポイントに連れて行ってやる」

「頼む。一緒に優勝を目指そう!」

 アルフォンスとモリスはがっしりと熱い握手を交わす。


 こうして千夏達は漁大会へと参加したのだった。


釣り大会を漁大会に変えました。

銛とかつかうのを釣りというのは合っていないので・・・

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