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バーベキュー

 とりあえず一人ひとり、リルに簡単な自己紹介をした後、「人の本性なんて一緒に食事をすればわかるものよ」というセラの持論により昼食は庭でバーベキューとなった。


「あ、その塩とって」

「これか?」

 リルに言われてアルフォンスは手前の塩のビンを渡す。


 肉や野菜を焼いても焼いても千夏とタマがかたっぱしから黙々と平らげてしまう。

 アルフォンスとリルが鉄板を前に奮闘していた。女性陣はのんびりと肉や野菜が焼きあがるのを待っている。


 最初は少し緊張していたリルだが、忙しさから遠慮もなにもなくなっていく。今は鉄板でリルは野菜をアルフォンスが肉を焼いている。二人の間に奇妙な連帯感が生まれつつあった。


 普通は女性が料理する側となるのだが、千夏に任せたら料理がてらにつまみ食いを始め、自分たちが食べる分までなくなってしまう。


 アルフォンスはアルフォンスで初めて体験するバーベキューを楽しんでいた。アルフォンスが生焼けで肉をひっくり返すと「まだ早いよ!」とリルからすぐに注意が飛ぶ。


「これ、少し食べて休憩するの。私が代わるの」

 セレナが肉と野菜がのった皿をリルとアルフォンスに渡す。

 アルフォンスとリルは素直に皿を受け取り、ベンチへと向かう。

 ただでさえ暑い日差しの中ずっと熱い鉄板の近くにいたのだ。二人はだらだらと吹きだす汗をタオルで拭う。


「これ、ちーちゃんからでしゅ」

 タマがアイスキャンディーをベンチに座った二人に差し出す。

「これ、何?」

 リルは見たことがないアイスキャンディーを渡されてタマに尋ねる。

「アイスキャンディーでしゅ。冷たくて甘いのでしゅ」

 ボリボリとアイスキャンディーをおいしそうに齧り始めたアルフォンスを見て、リルもそれを口に含む。


 思っていなかった冷たさに一瞬リルはびっくりするが、日差しと鉄板とで茹で上がった体に甘酸っぱい氷菓子は最高のご馳走だった。

「すごくおいしいね。ありがとう」

 じっとリルの感想を待っていたタマにリルは笑いかける。


「そういえば、タマが竜だって話したか?」

 アイスキャンディーを食べ終えたアルフォンスがリルにそう尋ねる。

「タマってこの子だよね?竜?」

 リルがそう尋ね返すと、タマは心得たようにその場で竜に戻る。

「タマはねー、竜なんでしゅよー」

 全長5メートルの竜がじっとリルの顔を覗き込む。


「クゥー」

 竜に戻ったタマの足元にコムギが近寄るとすりすりと体を摺り寄せる。タマはコムギを踏まないように、鉤づめで器用にコムギを持ちあげる。コムギはタマの腕によじ登りそのまま腕を伝ってタマの頭上に落ち着く。


「おーい、大丈夫か?」

 固まったままのリルにアルフォンスが声をかける。

 突然現れた竜にリルは食べかけのアイスキャンディーをぽろりと落とす。


 誰だって突然竜のドアップを見せつけられたら固まるに違いない。確かに老人ではこのパーティに参加するのはつらい。下手をすると心臓が止まってしまうかもしれない。


 落ちたアイスキャンディーを目掛けてポーンとコムギがタマの頭上からリルのほうに飛び降りてくる。リルははっと我に返り、コムギをなんとか受けとめる。

 コムギはリルの腕の中から抜け出すと、リルの体を伝ってするすると地面に降りていく。目当てのリルが落としたアイスキャンディーをペロペロと舐め始める。


「アイスキャンディー、コムギに取られちゃったでしゅね。新しいのをちーちゃんから貰ってくるでしゅ」

 タマは人に変化してから千夏のそばに駆け寄る。竜のままではアイスキャンディーを持てないからだ。


 新しいアイスキャンディーを持って戻ってくるタマを見つめリルは苦笑する。

 あの人の良さそうな子供が竜や人に変化するだけで、本質は変わらない。外見で判断されることを嫌だと思っていた自分が、タマを否定することなんてできない。大事なことは中身だ。


「こっちはブドウ味でしゅ。タマはこっちのほうが好きでしゅ」

 紫色のアイスキャンディーをタマはリルに差し出す。

「じゃあ、それを食べなよ。俺はこれからこっちを食べるから」

 リルはベンチに置いていた肉と野菜が乗った皿を持ち上げる。


 タマとリルはベンチに腰掛けそれぞれの食べ物を口にする。

「おいしい」

 リルは自分が焼いた塩だけの味付けの野菜を不思議そうに見る。普段から自炊しているがこんなに美味しく感じたことはない。


「肉のほうも食べてくれ。なかなか上手く焼けたと思うぞ」

 アルフォンスが自分が担当した焼き肉をすすめる。リルは少し焦げた肉を口にする。


「少し焦げているけど、美味しいよ」

 その言葉にアルフォンスは嬉しそうに笑った。お世辞じゃなくて本当においしい。

 いつもからかわれるのが嫌で一人でご飯を食べていた。人としゃべりながら食べるご飯がこれほど美味しいのか。


「タマのもおいしいでしゅよ」

 タマは浮いた足をぶらぶらさせながらリルに向かってアイスキャンディーを振る。

 リルは愛らしい顔を綻ばせ、タマの頭をよしよしと撫でる。

 そんなリルの様子を窺っていたセラは「決めたようね」と呟いた。


 セレナが焼きそばを3つ重ねて運んでくる。アルフォンスはすぐにセレナから二皿受け取り、リルとタマに渡す。

「あのね、シルフィンがリルに挨拶したいらしいの。食べ終わったらギルドでパーティ登録しに行くの」

 セレナがせかしてごめんなのと謝る。


 シルフィンが誰なのかわからないがリルはこのパーティに参加することに決めていた。

「シルフィンはね……」

 セレナがシルフィンについて説明を始める。所々でアルフォンスが補足を入れる。


 竜の次は妖精。リルは説明を聞いて少し驚いたが段々とこのパーティが特殊である事を理解していく。


 セレナが持っている妖精剣が緑色の明滅を数回繰り返す。

 シルフィンについては早めにギルドでパーティ登録をすることで落ち着く。


 それからセラの正体が王妹であること。南国諸島へ出かける理由が妖精王に会うためである事を聞いたときには、リルはすでに感覚が麻痺して「へー、そうなんだ」と答えただけで終わる。


 セラが「旅立ちは明後日でいいわよね?」と最後に確認する。千夏達の準備はほぼ終了していたがリルはまだ何も準備していない。

 今日はギルドに行った後にさっさと戻って旅支度をすることになりそうだ。


 楽しかった昼食を終え、リルはセレナに付き添われギルドで《トンコツショウユ》のパーティに登録をする。


「変わったパーティ名だね。どういう意味なの?」

 リルはセレナにそう尋ねると、頭の中に響く高音の子供の声で返事が返ってくる。

(何でもチナツの田舎の食いもんの名前やそうな。おいらはシルフィンや。あんじょうよろしゅうな)


「よろしく。あの人の故郷の食べ物かぁ」

 突然話しかけられたがリルは慌てずに答える。事前にセレナから話しを聞いていたことと、声だけ聞こえるのは遠話のマジックアイテムに慣れていたせいだ。


(まぁ詳しいことは明後日に喋ろうや。戻って準備せなあかんやろ?)

「そうだね。じゃあ、またね」

 リルはセレナに手を振ると、治療部隊の宿舎に向かって走り出す。


 少なくとも1ヶ月は戻ってこれない。保冷庫の中身を片付けて、部屋の掃除もしておいたほうがいいだろう。

 旅に必要なものの買い出しと、魔法屋に行ってめぼしいマジックアイテムも買わなければいけない。準備資金はたっぷりとセラから渡されている。準備は考えるだけでも大変そうだ。


 でも、彼女達と一緒にいれる。

 リルは楽しそうに、ふにゃりと顔を崩した。

少し短めですが、これで王都編は終わりです。


しばらくの間更新時間が不定期となりそうです。

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