表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
はじめての街
8/247

気功を覚えよう

 ゼンの街に辿りついた千夏はギルドで報酬を受け取ったあと、時間があるので宿に一度戻ってきた。

 そういえば昨日買った肉まんはどうなったのかが気になり、特におなかはすいていないがアイテムボックスから取り出す。取り出した肉まんは昨日買ったときと同様に暖かかった。とりあえず2つに割って中を確認する。匂いも嗅ぐが特に腐っている様に見えない。そのまま千夏は肉まんにかぶりつく。

「ん、おいしい」

 あっという間に食べつくす。満足した千夏は手を洗いに宿の井戸まで歩いて行った。


 そこでは宿のおばちゃんが洗濯をしていた。千夏に気が付いたおばちゃんが声をかけてくる。

「今日は洗濯はいいのかい?」

「一応してもらおうかな……。ちょっと着替えてくるね」

 千夏は部屋に戻って着替え、脱いだ衣服をおばちゃんに渡す。

「銅貨5枚ね。ところで、あんた体は洗っているのかい?見たことがないけど」

 すっかり忘れていた千夏であった。

(女の子としてやばい!!)


 千夏は急いで大きなたらいを出し、水を汲み水浴び用の衝立がおいてあるスペースに移動する。初夏とはいえまだちょっと肌寒い中で水で体を洗うのはきつかった。石鹸も元の世界のものと違い、洗った後体がゴワゴワする。王都に行けば割高だが肌がすべすべになる石鹸が売っているそうだ。

 行水で使ったタオル含めておばちゃんは銅貨5枚で洗濯してくれることになった。千夏はおばちゃんにお礼を言った後、洗濯代と追加として3日分の宿代のお金を渡し、宿を出て冒険者ギルドへ向かった。







 セレナは最近冒険者となったばかりの16才の犬系獣人の女の子である。赤い髪の頭部にピンとたった2つの犬耳とふさふさのちょっと太めの長いしっぽ。黒い大きなつぶらな瞳、上半身は半そでのシャツをまといショートパンツからすらりと伸びた足はしなやかである。


 今日は午後からギルド主催の気功講座に参加すべく、集合場所のギルドの中庭で講座がはじまるの彼女は座って待っていた。気功術は気をつかって体の防御を少しあげてくれる。前衛のセレナには覚えておきたいスキルである。


 講座が始まる10分ほど前くらいから人がちらほらと集まりはじめ、時間になると講師のランクA冒険者のトムがやってきた。セレナは急いで立ち上がりショートパンツについた土を軽く払う。

 トムは気功術を防御だけではなく攻撃にも使える優秀な気功師である。冒険者では数少ない真面目な性格で、常日頃から鍛錬を怠らず、体を鍛えあげていることで有名だ。


「では、講座を始めようか。参加者は6人かな。俺はランクA冒険者のトムだ。今日はみんなの講師となる。よろしく。まずはみんな座ってくれ」

 セレナを含め受講者その場に座り込むのを確認して、トムは上着のポケットから拳大の水晶玉を取り出した。


「まずはみんなの気力を簡単に調べよう。気力とは気功術を使うために必要な体内で蓄積された気の量のことだ。まったく気力をもっていない人はいない。気力というのは魔力や体力と違ってLVが上がれば伸びていくものではない。決められた一定量を常に保っているものだ。だが、厳しい鍛錬により微力だが少し上げることができる。とりあえず今ある君たちの気力からなにができるかを決めるための測定だと思ってくれ」



(いっぱい気力があればいいの……)

 トムに言われてみんなが水晶を触るために一列に並んだ。セレナは3番目だった。

 前の二人は水晶に触ると淡い光がぽぅっと光った。セレナはドキドキしながら水晶を触る。すると水晶はぽぉっと淡く光った。ちょっとだけがっかりした。ほとんどの人はみんな淡い光が出るそうだ。それでも簡単な防御幕を気功術で作れる。

 セレナは横に移動し、列の後ろに並んだ人の測定を見守った。


「お、これは……!」

 最後の一人が水晶を触ったときに淡くではなく普通に水晶が明るく光った。思わずトムが驚きの声を上げる。それもそのはず、トムが気功術をはじめてから毎日修行してやっとたどり着いた気力と同等だったからだ。


「もう一回手をあててくれないか?」

 セレナは驚愕しているトムの姿をみて何事がおきたのかと再度水晶に手を翳した人を見る。その人はセレナよりちょっと年上の女の人でなぜか髪の毛が濡れそぼっていた。そして青い瞳はまわりの驚愕に感心がないかのようにぼぉーっと水晶を眺めていた。


 再度水晶が明確に光る。

「すごいよ、君。これなら攻撃の気功術も使えるようになるかもしれない」

「もしや〇〇〇〇波が撃てるのかな」

 彼女は嬉しそうによくわからないことを言った。


「おぃ、あれって例のホロホロ鳥の……」

「やっぱり人間じゃねぇ……」

 セレナの横にいた男二人組が恐ろしげに何か呻いている。セレナの知っている冒険者のティドとジョンである。

「あの人のこと知っているの?」

 セレナは二人に尋ねた。二人が答える前に、衝撃から落ち着きを取り戻したトムが全員に座るように指示を出す。セレナは大人しく座って講座を受けることにした。


「まずは全員が使える簡単な気功術を説明する。体を楽にして目をつぶってくれ。そしてイメージしてくれ、青い光を。そう、さっき水晶に触ったときに出た光だ。そのままの状態を維持してくれ。今から俺がひとりひとりに軽く気を放出する。これは上級者が初心者の気の放出訓練を円滑にサポートするためだ。俺の気を送り込んだあとそれを体の外に押し出すイメージをしてくれ」

 セレナは目を閉じ青い光をイメージしていた。しばらくするとそっと誰かが肩に手をあてたかと思うとその瞬間体の中がかっと熱くなった。


(これが気なの?)

 体で感じた気を前に押し出すイメージを頭に思い浮かべる。だがうまくいかず、体の中が熱いままである。何度か繰り返すと、体の中の力がすぅっと外に押し出される感覚を覚えて思わずセレナは目を開けた。なんとなくぼんやりと淡い光が目の前にあった。

「よし、みんなできたな。その目の前の光が気だ。この状態で簡単な防御幕となっている」

 トムは腰につけた短剣を抜き、近くにいたティドの前の光に短剣を突き刺す。カンと甲高い音がしてティドの前の光が消えた。


「いまのはちょっと力をいれた短剣で壊れた。はじめてならそんなもんだ。毎日寝る前に今日やったイメージを1回かならずやってみてくれ。なれてくれば即時に防御幕を張ることができる。いいか、毎日1回だぞ。連続でやったら気力の回復が追い付かなくなる。イメージが固定化できれば、ウォーターモンキーから2、3撃くらいはくらっても壊れなくなる。まぁ、簡易版はいざというときの防御幕だな。以上で気功術講座は終わりだ」

 トムはそう締めくくり、例の髪が濡れている女性に近寄って行った。


(彼女の場合は気力が高かったからなの。まぁ、私には関係ないの。)

 セレナはトムからティドに視線を移す。そしてトムがやったように自分の防御幕を試しに短剣でたたいてもらうようにティドに頼んだ。短剣でお願いしたのは、長剣だと防御幕が破れた瞬間に自分が怪我をするからだ。


 ティドは頷くとまずは軽く短剣でセレナの防御幕を切りつけた。カンという音がして短剣がはじかれる。

「じゃあ、ちょっと強めに切りつけてみるな」

「うん。お願いなの」

 セレナが頷くとティドは力をいれて防御幕を切りつける。先ほどと同様にカンと音がして短剣をはじいてからセレナの防御幕は消滅した。


「慣れればもっと固くなるらしいし、護身用くらいに考えればいいの」

 セレナは自分の防御幕について簡単に評価した。

「俺のやつも試してみてくれ」

 ジョンも初めて作った防御幕がきになったのかティドに頼み込んでいた。試しにちょっと強めでティドが切りつけるとジョンの防御幕も消滅した。


「あ、そういえばさっきいってたホロホロ鳥ってなんなの?」

 興味津々なセレナに、二人は小声で昨日観戦していたタスマン食堂のホロホロ鳥大食い大会について教えてくれた。

「12皿だぜ!1皿一人分より多かったんだぞ。化け物だ」

「ああ、人間じゃないな……今日の気力も人より多かったし」

 二人はトムと話している化け物をこっそりのぞきみる。

「……そんなに食べるように見えないの」


(まぁ私には関係ないの)

「じゃあ、私は夕飯の買い物いくの。お先なの」

 二人に声をかけてセレナはギルドを後にした。


 のちにセレナは千夏の面倒をみることになる。今の時点ではまったく思いもよらないことであった。



誤記を修正しました。

×セリス 〇セレナ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ