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治療師

 リルは今年二十歳になる治療部隊で一番下っぱだ。

 母親似のくりっとしたアーモンド型の瞳に、父親から受け継いだ絹のような紅茶色の短め髪と、金色のふわふわした狐の耳と尻尾。十人中八人が好感を持つ可愛らしい容姿だ。


 だけど、リルは自分の姿が好きではない。治療部隊で使っている白いローブ姿でも普段着のシャツとズボンでも必ず女の子と間違えられるからだ。


 できる限り男っぽく話してみても、わざとそういうキャラを作っている変わった美少女だと思われる。リルが自分は男だと主張すればするほどに相手は笑って取り合ってくれない。


 それでも長い間、一緒に居ればリルが本当に男だとわかる日が来る。大概の人々は騙されたと怒りだすか、からかい続けるかのどちらかの反応を示す。

 現在の職場でもリルはからかいの格好のネタだ。


 リルを男だと知っても変わらずに扱ってくれたのはセラと主席魔術師であるカトレアだけだった。二人は元からリルにあまり興味がなかったのかもしれない。





 彼女達に初めて会ったのは一週間ほど前。

「おい、リル。主席魔術師殿がお前をお呼びだ。お前に依頼したいことがあるそうだ。すぐに主席魔術師殿の部屋に行け」

 昼食を食堂で食べていたときに、リルは治療部隊長のヘルクからそう命じられる。


 呼び出された部屋にノックして入ると、一番奥の机にセラは座っていた。

 その横に首席魔術師のカトレアが立っている。セラはリルをひとおり眺めた後、「あるパーティに入って王都の南にある南国諸島までいって欲しいの」と用件を切り出した。


 突然の話にリルは驚き、カトレアに向かって尋ねた。

「あのぅ、カトレア様。こちらのお方はどなた様でしょうか?」

「細かい事はあなたが了承したら話すわ」

 セラはリルに向かってそう言い切る。

 カトレアは優しげに微笑み、セラの言葉を肯定するように頷く。


「わかりました。仕事の内容を教えてください」

 どうやら依頼主はカトレアではなくこの女性のようだ。しかもあまり身分を公表したくないらしい。リルはそこまで推測して依頼の件に話しを戻す。


「あなた、魔族が襲って来た時に教会に治療部隊として居たわよね?」

 セラの問いにリルは頷く。

「はい」

「魔族を倒したパーティのことは覚えている?」

「覚えています」

 リルははっきりと答える。


 もちろん忘れるわけがない。4人の男女と緑色の竜だ。

 特に印象に残っているのは最後に放たれた火炎地獄(インフェルノ)だ。


 赤々と渦巻く炎に照らされた魔女の姿が、今でもはっきりと思い出せる。一切の感情をなくした瞳で、自らが放った火炎を見つめる魔女をリルは美しいと思った。女の人をきれいだと思ったのは、生まれて初めてだったかもしれない。


 からからわれ続けたリルは異性に興味を持たず、思春期に初恋すら済ませていない。あまりに大きかった魔法のインパクトで千夏を美化した思い出になっているようだ。リルはもともと少し思い込みが激しい。


「その様子だと悪感情は持ってなさそうね」

 セラのくすりと笑う声が聞こえる。

 リルは恥ずかしくなって下を向く。もともとリルは感情が顔にでやすいのだ。


 素直なことはいいことだよと父親に言われたことがあるが、リルはそう思っていない。20歳になるのにいつも15、6歳だと思われる。リルのストレートな感情に周りが幼いと感じている証拠だ。


「なら結構。あのパーティには治療師がいないの。あなたへの依頼は彼女たちパーティのメンバーとして彼女たちを支えてほしいのよ」

 セラの思いがけない依頼にリルは戸惑う。

「お、俺ではあまりお役に立てるとは思えない……です」


「治療魔法は中級。その他支援魔法も使えるし、特に問題はないわ。治療魔法の上級魔法を使えるのは教会の老人たちしかいないしね。あのパーティに老人はきついわ。あなたなら彼女たちと年齢も釣り合うし、あのほのぼのパーティには性格的にも向いているはずよ。


 あなたに求めているのはあくまでもサポートだけ。魔族を倒せとかそんな無茶をいうつもりはない。

 あなたも治療部隊の下っ端でからかわれながら、顎で使われ続けるのも嫌でしょ?男ならもっと上を目指しなさい」

 セラはリルの顔を見つめ真面目に答える。


 男ならもっと上を目指せ。初めてそんな言葉を投げかけられた。

 リルはセラの顔を見上げる。


「一週間後に彼女たちと会わせるわ。そのときに決めなさい。彼女たちはこれから南の南国諸島へ向かうわ。あなたに決まったらそのまま一緒に旅立ってもらうことになる。私の話は以上よ。戻っていいわ」

 セラは話しが終わると机の上に積まれている書類に目を通し始める。

 リルはぺこりと会釈するとその部屋を出た。


 頭の中に浮かぶあの魔女の姿。

 彼女と話をすることができるかもしれない。へにゃりとリルは顔を緩ませた。



 タマは屋敷に戻ってくると、小さな棒をつかってコムギと遊び始める。

 棒の先には小さな羽毛が数枚ついており、千夏が作成した猫じゃらしもどきだ。

 羽毛はサイラスの従魔屋から買い取ったものだ。

 左右に振られる羽毛を追って「クゥー、クゥー」とコムギは鳴きながらそれを追う。


『セラよ。今から向かうけど、問題ないかしら?』

 突然イヤリングからセラの声が聞こえてくる。

『アルフォンスだ。俺とセレナは特に問題なし』

『エドです。お茶の準備をしておきます』

 次々の仲間の声が聞こえてくる。

 この遠話のイヤリングで話すときはイヤリングについている小さなボタンを押さなければならない。


「千夏よ。タマと私も問題ないわ」

 千夏は小さなボタンを押して話す。

『了解。じゃあ今からそっちに行くわ』


 会話が途切れた後、千夏はタマを呼んで一緒に応接室へと向かう。もちろんコムギも一緒だ。

 すでに応接室には3人が待っていた。アルフォンスとセレナは鍛錬を途中でやめてきたのだろう。汗をタオルで拭っている。


 千夏はアイテムボックスからアイスキャンディーを取り出すと二人に配る。タマにも一本差し出す。

 コムギがもの欲しげに「クゥー」と鳴く。タマはアイスキャンディーをコムギに少し齧らせる。冷たさに驚いたのか、コムギは「ギャッ!」と今まで出したことがない鳴き声を上げる。


 そこでこりなかったようで、再度タマにアイスキャンディーをねだる。

「半分こでしゅよ」

 タマは一口アイスキャンディーを齧ると、コムギにアイスキャンディーを向ける。


「タマもそうしていると立派なお兄ちゃんなの。弟に自分のあげたりするなんて優しいの」

 セレナに褒められタマは嬉しそうだ。

「そうなのでしゅ。タマはコムギのお兄ちゃんなのでしゅ」

 タマはコムギにアイスキャンディーを齧らせながら少し得意げに胸を張る。


 その間に千夏は自分の部屋から持ち出した氷入りのたらいを応接室に何個か設置し、風のマジックアイテムを起動させる。室内で話し合うのであれば涼しいにこしたことはない。


「はー、極楽だなぁ」

 アルフォンスはアイスキャンディーを齧りながら、千夏作成の団扇もどきを左右に振って冷たい風を体に浴びせる。


「ああ、あと新製品。ワインで作ってみたの。エド食べてみて」

 お茶の準備が終わってアルフォンスの後ろで控えていたエドに千夏はアイスキャンディーを渡す。


「ではいただきます。……凍っているせいか少し味が薄いですね。もう少し濃い味のワインのほうが向いているかもしれません」

「お酒好きな人向けにって思ったんだけど、次は違うワインでやってみるか」

 千夏はエドの感想をメモにまとめた。


「あー、この部屋涼しいわね」

 セラはそう言いながら部屋の中に入ってくる。セラの後ろには、白いローブを着た狐系獣人が立っていた。


 見た目は15歳くらいだろうか。また随分と若い子だなとリルを見て千夏は思った。

 セレナもリルの可愛らしさに驚いて目を丸くする。


 セラとリルはエドに勧められて席に着く。

 席に着くと早速セラがリルをみんなに紹介する。

「紹介するわ、リルよ。20歳。性別男、治療部隊出身」

「は、初めてまして。リルです」

 リルは憧れの魔女をちらりと横目で見ながら挨拶をする。


 近くで見た魔女(千夏)は、リルを興味深げに見つめている。リルは脳内で千夏を三倍ほど美化変換する。リルの思い違いという分厚いフィルターが外れていないのだ。


 ああ、今日も彼女は綺麗だ。リルはへにゃりと笑う。

 ある意味あんまりまともでないパーティのメンバーにリルはふさわしかった。


すごく中途半端なところで終わってすみません。

この話を書くのにすごく時間がかかったことと、仕事でドハマリして書く時間が全くとれず・・・

悩んだのにこの結果でかなり凹んでいます。

次の話が何にもできておらず、

連続更新はストップします。無念です。

次話の更新が遅れます。週末に頑張りたいと思います。


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