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夏の日差し

「暑っ!クーラーが欲しい。いや扇風機でもいい」

 千夏はだらだらと吹き出す汗をタオルで拭いながら、ブツブツと呟く。

 本格的な夏日よりになってきたため、暑くて寝ていられない。寝苦しさに早く目が覚めてしまったのだ。

 窓を開ければ風が入ってくるが、あまり涼しくならない。


 千夏はベッドから起き上がると、シャロンが帰ってしまったのでしょんぼりしているタマを連れ、中庭へと向かう。

 中庭にはこの前泥遊びをした綺麗な池があり、そこで水遊びをすること決めたのだ。


 早速服を着たまま、千夏とタマはドボンと池に飛び込む。

 水の中はひんやりしてとても気持ちいい。

 バシャバシャとタマと水を掛け合い、しばらくの間水遊びを満喫する。


 途中から早朝の走り込みから戻って来たアルフォンスとセレナも混ざり、エドが呆れるほどに水のかけ合いが白熱する。

 池の周りはそのせいで泥沼と化す。


 いくらかは水浴びで涼しくなったのだが、しばらくたつとまた暑くなる。

「うーん。何か考えないと辛いな、これは」

 クーラーに慣れきった体が辛い。


 とりあえず、氷と風を合わせれば涼しい風になるはず。

 千夏が持っている氷魔法は攻撃魔法のフローズンバレット、風魔法はウィンドカッター、ウインドストームまたはウインドウォールだけだ。

 その魔法を使ったら部屋に穴を開けてしまう。氷と風の初級攻撃魔法じゃない魔法を是非覚えなければ。

 千夏は王都にある魔法屋へ出かけることにした。


「あー、アイスが食べたいな。この際、かき氷でもいいや」

「かき氷ってなんでしゅか?」

 千夏に手を引かれたタマが千夏の独り言に反応する。

「んーと、冷たくておいしいものかな。売ってないのかな」

 千夏は露店街をキョロキョロしながら歩く。だが目当ての商品は見つからない。


 アイスの作り方は正直覚えていない。たしか乳製品だったような記憶があるだけだ。

 生クリームを固めたらアイスになるんだっけ?

 というか生クリームってどうつくるんだっけ?


 料理を殆どしたことがない千夏の頭の中にはそのレピシはない。

 暇なときに試行錯誤してみるのもいいかもしれない。

 そのためにはまず冷やすための氷が必要だ。


 千夏は教えてもらった魔法屋を見つけ中に入っていく。

「いらっしゃいませ」

 扉を開けるとカウンターに座っていた店番の若い男性が声をかけてくる。


「氷を作る魔法とそよ風が出せる魔法の転写をお願い。あと何か涼しくなる魔法があるならそれも頂戴。あ、そうそうアイテムボックスの中級魔法も欲しいの。初級のアイテムボックスだとそろそろ種類がいっぱいになりそうだし」


「そうですね、クールの魔法が涼しいと思います。無属性魔法なので覚えられるかは運次第ですけど」

「ああ、そういえばそんな魔法があったね。ついでに暖かくなる魔法も試したいかも」

 何度も魔法屋に来るのが面倒になったので、ついでに頼んでみる。頭痛は辛いが一回で終わらせたい。

 初級魔法であればそれほど痛みはないだろう。


 タマはガラスケースに入ったキラキラと輝く魔石をじっと見つめている。

 タマは各属性耐性を持っているので、千夏ほど暑さを感じないのだ。

 もともと光属性なので闇耐性は微妙であるが。


「では中級のアイテムボックス、アイス、ウインド、クールにウォームの魔法ですね。金貨25枚になります。早速転写してよろしいですか?」

「うん。お願い」

 千夏は頭を店員のほうへと向ける。


 彼は千夏の頭に手をあて連続で転写を始める。

 アイス、ウインドは属性魔法なので問題なく覚えられたが、クールの魔法で失敗する。ウォームの魔法はなんとか覚えることができた。

 千夏は頭痛を抑えながら、クールの失敗で少し涙目になる。


「ちーちゃん、大丈夫でしゅか?」

 タマが少し泣きそうな千夏を心配して声をかける。

 千夏は金25枚を払いながら、タマに「大丈夫じゃないけど、大丈夫」と訳の判らない答えを返す。


 最後にアイテムボックスの中級魔法の転写をしてもらう。

 これが結構痛い。千夏はくらくらする頭を押さえながら、痛みが治まるまでじっと待つ。


 クールの魔法が使えないのであれば、氷と風の魔法で簡易扇風機魔法でしのぐしかない。

 そこまで考えてはたと問題点に千夏は気が付く。

「ちょっと質問なのだけど、ウインドって魔法唱えたら風が出るはずだけど、その風ってすぐ消えちゃうの?」

「そうですね。10秒くらいは持ちますけど」

「10秒……」

 それでは10秒おきに魔法を唱えなければならない。

 がっくりと千夏はうなだれる。


「魔法効果を継続して繰り返したいのですか?」

 店員がうなだれた千夏を見て質問する。

 千夏が頷くと、「それでしたらマジックアイテムはいかがでしょうか?」と店員がガラスケースの中から30センチほどの四角の箱を取り出す。


「繰り返し同じ魔法効果を継続するマジックアイテムです。このマジックアイテムに魔力を込め、そのあとに継続したい魔法をかけます。込めた魔力が消費されるまで継続効果が続きます。


 このマジックアイテムのメリットは、通常魔法で発動させるより少ない魔力で同じ魔法を繰り返すことができるという点です。魔力が切れて止まった場合は、また魔力を込めると繰り返し使用できます。


 デメリットは一度発動させると別魔法を繰り返し使うことはできないという点とお値段が少々お高いという点です」


 つまりリピート効果があるマジックアイテムなのだろう。

 扇風機専用と考えれば特にデメリットは気にならない。問題は値段だ。


「いくらなの?」

「金貨100枚になります」

 千夏はその返事を聞き、ちょっと考え込む。

 いままでそんな高額な買い物をしたことがない。ミジクで換金したお金があるので足りるといえば足りる。だが持っている全財産に等しい。


 うーんと千夏はしばらく悩んだが買うことにする。

 ミジク以降でタマが倒した魔物の代金はまだ換金していないし、フィタールのダンジョンで倒した魔物の換金もまだだ。

 宿代も食事代も基本はかからないのだからそれほどお金がなくても問題はないだろう。

 それだったらお金を快適な生活を送るために使ったほうがいい。


 簡単な使い方のメモとマジックアイテムを受け取り、千夏はそれをアイテムボックスに収納する。

 あとは中から冷やすためにかき氷でも作るか。

 問題はどうやって氷を細切れに砕くかだ。

 さすがに砕くという魔法はないだろう。

 武器屋か道具屋に頼んで作ってもらうしかない。


「あ、そうか。かき氷じゃなくてもアイスキャンディーならいけるか」

 確かジュースを冷やせばできるはずだ。

 千夏は魔法屋を出るとアイスキャンディーの棒と、固めるための容器を小道具屋や露店で探す。

 途中で見つけた果実ジュースをビンで2、3種類買い込む。

 全ての買い物が終わると早速転移でバーナム辺境伯別邸へと戻った。


 部屋に入るとまずは中くらいのたらいを数個アイテムボックスから取り出す。

 そのたらいを部屋の中に均等に置くと、アイスの魔法でザラザラと氷を作り出し、たらいの中にいれる。

 これだけでも少し部屋の中の温度が下がった。

 たらいのふちに小さな板を置き、その上に買ってきたマジックアイテムを設置する。


 千夏は使い方のメモを見ながら、マジックアイテムに手を当てる。

 説明によると手をあてるとマジックアイテムが発動し、魔力を吸い出すらしい。

 注意書きとして気分が悪く前に手を離すことと書いてあった。


 しばらくするとマジックアイテムが緑色に変色する。

 緑色になった時点で貯蓄可能な最大魔力がアイテムに溜まったという印だ。

 千夏は手を離し、マジックアイテムに向かってウインドを発動させる。

 部屋の中に穏やかな風が吹く。氷の冷気を伴った涼しい風だ。


「あー涼しい」

 10秒ほどでその涼しい風が止まる。

 千夏は再度メモをみて、マジックアイテムについているボタンを押す。

 これを押すと覚えさせた魔法を繰り返し発動するのだ。もう一度ボタンを押すと止まるらしい。

 そよそよとマジックアイテムから涼しい風が吹き始める。


 締め切った部屋の中がだんだんとひんやりとしていく。

 旅の間でも馬車の中に設置すればきっと涼しいに違いない。

 簡易扇風機を考えていたが思惑以上の効果があり、まるで簡易クーラーだ。

 千夏は満足げに微笑む。


 ついでに買ってきたジュースを容器に入れ、棒を差してその容器を氷のたらいの隙間に立てかける。

 アイテムボックスから追加で買った塩をぱらぱらと氷に振りかける。

 確か、氷に塩をかけたらよく冷えるという知識がうろ覚えにあったのだ。

 原理はよくわかっていないが。


 千夏はアイスキャンディーが出来るまで、新しく借りた本を読むことにした。

 基本ここにある本はアルフォンスの趣味で、竜や勇者が出てくる物語が多い。

 他にはエッセルバッハの歴史や、簡単な旅行ガイドの本もある。

 次の旅に出るときには、王城に置いてある本をセラに頼んで大量に借りる予定だ。

 アイテムボックスに詰めればいいのだから持ち運びは問題はない。


 氷が溶けて少なくなると、追加で氷をたらいにいれる。

 こうなると氷を自動で作るマジックアイテムが欲しくなる。

 セラに頼んだらお給料を前借できないだろうか。

 千夏は真剣に悩み始める。


 数時間後に固まったアイスキャンディーを取り出し齧ってみる。

「うん。まぁまぁかな」

 気をよくした千夏は数本のアイスキャンディーを持って、中庭へと向かう。

 部屋の外は相変わらず暑い。


 丁度休憩中だったらしく、庭の東屋でアルフォンスとセレナがエドに冷たいお茶を淹れてもらっている。

 千夏はそこに出向くと、出来立てのアイスキャンディーを3人に渡す。

「食べてみて。冷たくておいしいよ」

 千夏は自分の分を齧りながら、簡単にアイスキャンディーの説明をする。


「わっ。冷たくて甘いの」

 嬉しそうにセレナはアイスキャンディーを食べ始める。

「チナツ、もうこれないのか?」

 アルフォンスは夢中ですぐに食べきってしまう。

「初めて食べましたが、冷たいお菓子もいいものですね」

 エドも気に入ったようだ。


「あまり食べすぎると冷えておなか壊すけどね」

 アイスキャンディーが好評だったので千夏は嬉しそうに笑う。

 アイテムボックスに入れておけば、溶けずに保存できるだろう。

 量産するために、エドにアイスキャンディーを作るための容器と棒、ジュースや塩が欲しいことを告げる。

 後でこれからの旅のために食料を買いに行く予定だったエドは、千夏の要望を買い物リストに追加する。


「鍛錬が終わったら、私の部屋においでよ。涼しくて気持ちいいよ」

 千夏はアイスキャンディーの棒を回収し終えると、少し自慢げに伝える。

「ん。後でいくの。またアイスキャンディー作っておいてほしいの」

「いいよー。任せておいて」

 セレナのお願いに千夏は気軽に返事をする。


 部屋の中は簡易クーラーで、部屋の外ではクールが付与された服で過ごせば、なんとか夏を乗り切れそうだと千夏は安心した。

誤記を修正しました。

7/11 台風が過ぎて今日はとても暑かったです。冷房がないとしんどいですね。

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