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宝物庫

雇用条件の話し合いのほうはわりとすんなり決まった。


・食事、移動手段、宿泊施設については雇用者が責任を持つこと

・食事は最低限黒パンとスープを出すこと

・昼と夜に十分な睡眠時間をとることを保証する

・7日のうち二日を休みとして与えること

・季節ごとに長期休暇を認めること。休みの期間も雇用主への定期報告を行うこと

・雇用期間は本日から魔族問題が解決するまでの期間とすること

・期間中の給料は一カ月あたり金貨150枚。待機中の場合でも給与が支払われること

・任務中に取得したアイテム、魔物の売れる部位などは各自の収入としてよいこと

・任務中の病気やケガなどの治療費は雇用主が受け持つこと

・雇用主が勝手にタマに対して命令を下すことはできない

・雇用主が勝手にシルフィンに対して命令を下すことはできない

・千夏のユニークスキルについては雇用主およびパーティメンバー以外に話さないこと

・千夏が異世界人であることをむやみに雇用主は言いふらさないこと

・千夏に体力的な仕事を割り振らないこと

・被雇用者は雇用者の命令について人道的に問題がある場合は拒否する権利をもつこと

・雇用主の身分を他者に話さないこと(相手が知っている場合はその場限りではない)

・取得した情報は全て雇用主に報告すること

・王都から離れている場合は、必ず一日に一回雇用主に報告すること

・任務で発生した経費は雇用主が持つこと

・雇用主からの緊急呼び出しには応じること

・新たに取得したスキルや技、魔法について雇用主に報告すること

・他者へ取得した技能を伝授するように雇用主が命じた場合、月毎の報酬とは別に報酬を雇用主が支払うこと

・被雇用者は雇用主以外からの命令を拒否する権利を持つこと。その件で被雇用者が面倒な事態に巻き込まれないように雇用者がフォローすること

ただし、緊急事態発生時には休憩時間及び休みについてはその時の状況に応じてなしとなること。


だいたいこんなところである。

最後の一文である「被雇用者は雇用主以外からの命令を拒否する権利を持つこと」とは権力を持った貴族や官僚、他国の王族等からの命令されたケースの想定である。

ある程度細かくは取り決めたが、別途問題が発生したときに再度雇用条件について話し合うことにした。


正直この世界でここまでの雇用条件詳細を決めることはめずらしい。

ほとんどセラが決めたことだが、千夏とセレナの要望は通っているため特に不満はない。

どちらかというと千夏達に割と有利な条件だった。

セラは千夏を敵にまわしたくないので、雇用条件についてはある程度譲歩している。


「ところでいま、アルフォンスの屋敷でお世話になっているのだけど、移動したのほうがいいのかな?」

千夏はお茶を注ぎながら訪ねる。

アルフォンスとエドはセラと雇用関係にはなっていない。

王族と貴族という階級制度があり、雇用とは別次元の話だ。


「あとでアルフォンスに確認するけど、たぶん王都にいる間はバーナム辺境伯邸で過ごすことになると思うわ」

セラは千夏に新しくいれてもらったお茶を飲みながら答える。


「とりあえず、王宮のパーティが開かれるまでは王都に滞在。そのあとに妖精王に会いに行ってもらうつもり。基本的にパーティの間まではゆっくりしてもらって構わないわ。

だけど1つだけ条件がある。チナツはうちの主席魔術師と会って、上級魔法について勉強してもらう」

勉強と聞いて千夏はげんなりとする。


「勉強といってもチナツがドラゴンオーブから読み込んだ上級魔法を思い出してもらう感じよ。使えた方がいいでしょ?上級魔法」

「それはそうなんだけどね」


「それと、《トンコツショウユ》に二人程人を入れるわ。一人は治療魔法が使える私の部下。必要でしょう?治療師」

「確かに」

前から治療魔法が使える人を増やしたいと、アルフォンスとセレナが言っていたことだ。


「あと一人は知っていると思うけど、ランドルフを入れたいと思っているの。だけど、交渉がなかなか進まなくてね。こっちは入れられたらというレベルね」

セラは苦笑する。


ランドルフが入った場合、ずっと男だと言い続けなければいけないのだろうか。

ずっと一緒にいれば、どこかでばれるような気もする。

バレタらいったいどうなるのだろうか。

想像がつかない。


「一通り説明終わった」

ふらふらとヒルダが戻ってきて、空いている席に座る。

千夏は彼女の分のカップをアイテムボックスから取り出し、お茶を淹れて渡す。


「ちーちゃん、これにするでしゅ」

タマがアイテムを持って戻ってくる。

それは小さな腕輪で、側面にキラキラと輝く魔石がずらりと並んでついている。

明らかに見た目で選んだようだ。


ちらりとセラがヒルダに視線を向ける。

ヒルダはマジックアイテムの目録に目を向け、そのアイテムの説明をする。

「それは魔力吸収の腕輪。魔法ダメージを受けた場合に、相手が使った魔力を自分の魔力に吸収できる」


「その魔法ダメージって体に入るの?吸収することでノーダメージ?」

「魔法のダメージは半減できるけど、ノーダメージにはならない」

「普通の魔法使いが使えるような代物ではないわね。中級魔法でも受けたらその、半分のダメージでも魔法使いは倒れるもの。でもタマちゃんならもともと魔法ダメージはあまり入らないし、問題はないわね」

セラはタマがつかんでいる腕輪を見ながら答える。


「そうでしゅ。魔力を吸収しながらブレスをずっと吐くことができるでしゅ」

タマはキラキラした腕輪をうっとりと眺めながら答える。

一応考えてはいたようだ。


「この腕輪小さいけど、竜になったときに壊れない?」

千夏は、小さな腕輪を見ながら質問する。今のサイズでは人の姿のタマでは大きいが、竜になったら確実に腕にはいらない。


「自動で腕のサイズに合わせる調整魔法が入っているから問題ない。それ、はめてみて」

ぼそりとヒルダが答える。

タマは腕輪を左腕に着けてみる。すると腕輪は青白く光り、しゅっと小さくなりタマの腕にぴったりとなる。


「持ち主認定もされたみたいね。他の3人はどうなのかしら?」

セラは奥の棚のほうを見る。


しばらくするとセレナもアイテムを持って戻ってくる。困り顔でアイテムを千夏の前に突き出す。

「チナツ、こっちとこっちどっちがいい?決まらないの」

一つは赤い宝石がついたシンプルなネックレス。もう一つは緑の宝石がついた腕輪だ。


「赤いほうは、俊敏度が3倍になるアイテム。緑のほうは剛腕の腕輪。サイクロプス並の力を手にいれることができる。サイクロプスは一つ目の巨人。大岩ですら簡単に砕く。この前のケルベロスさえ、余裕で両手で振り回すことができる」

ヒルダがすぐにアイテムの内容を答える。どうせ質問されることはわかっているのだ。


セレナは素早さを基本にした剣士だ。今でもかなりすばしっこい。それが3倍になれば目で追うのもやっとの速さに到達するだろう。

その代り非力だ。攻撃力の決め手にかける。

長所を伸ばすか、短所をカバーするかを悩んでいるようだ。


「シルフィンの意見は?」

千夏もどちらだとなかなか判断つかないのでシルフィンに振ってみる。

(中途半端に短所を上げるやったら、長所を伸ばしたほうがええ。せやけど、その腕輪中途半端ってことないしな。腕輪つけても愚鈍になることはないし、長所はこれからも伸ばせる。思い切って腕輪のほうがええと思うねんけど。)


「じゃあ、こっちにするの」

セレナは剛腕の腕輪に決め、もう一つのアイテムを棚に戻しにいく。


アルフォンスとエドも戻ってくる。

「これ、かっこいいよな」

アルフォンスが見せた剣は刀身が赤く染めあがっている。


「業火の剣。使用者の魔力に応じた火属性の魔法攻撃が可能」

ヒルダが剣の説明をすると、一斉に全員が「「「却下」」」と判定を下す。

アルフォンスは渋々別のアイテムを探しに戻っていく。


「私はこれですね」

エドは腕に取り付けられる小さな盾を取り出す。


「魔封じの盾。指定した種族の魔法を一定期間無効化する」

ヒルダの説明を聞き、エドが補足する。

「物理攻撃なら自分ではじけますからね。魔法攻撃防御はいつまでもリフレクションブレイクを使うわけにもいかないでしょう。精神をかなり使うようですし」

堅実なアイテム選びに一同は納得する。


あとはアルフォンスだけである。

魔法剣ばかり選び、なかなか決められないアルフォンスに業を煮やしたセラが、剣の目録をざっと斜め読みして一本の剣をアルフォンスに渡す。


「大地の剣。大地の龍脈よりエネルギーを吸い込み、ダメージを与える。貯めれば貯めるほどダメージが大きくなる。オリハルコン製だし、通常攻撃でも今使っているミスリルの剣より大ダメージはでるわ。これにしなさいよ。この中ではあなたに一番あっていると思うわ」


なんとか全員アイテムを選ぶことができたので、セレナ、エド、アルフォンスの持ち主認定をヒルダが行う。

そのあと千夏とセレナのリクエストで後宮の庭を一回り廻ったあと、一行はバーナム辺境伯邸へと戻った。



ご指摘いただいた誤記を修正しました

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