表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/247

ユニークスキル

 バーナム辺境伯別邸に戻ると、ジャクブルグ侯爵が待っていた。

 タマとシャロンは中庭で遊んでいるようだ。


 応接室で待っていた侯爵にアルフォンスは遅れて戻ったことを詫びる。

「留守を承知できたのだ。こちらこそすまない。私も先ほど謁見室で見ていたから宝物庫に向かったのは知っていたよ。どうだい、いいものは見つかったかい?」

 侯爵は楽しげにアルフォンスへと質問をする。


「一人分は決まりましたが、私の分はまだ決めていません。こういう機会はもう二度とないでしょうから、慎重に選びたいと思っています」

 アルフォンスはエドが差し出したお茶を受け取り、喉を潤す。

 千夏とセレナは王宮で気疲れしたので、さっさと部屋に戻っている。


「それもそうだね。ところで、シャロンから聞いたのだがタマちゃんが竜なのだそうだね。先程、竜の姿も見せてもらった。正直驚いたよ」

 侯爵はそういって苦笑する。

 得意げにそう報告する息子とそれを見て胸を張る竜の組み合わせに、驚きよりも笑いが込みあがった。


「すみません、黙っていて」

 申し訳なさそうなアルフォンスに侯爵はかぶりを振る。


「いや、構わない。息子に頼もしい友人ができてなによりだよ。ところで、魔族を倒したときの技を兵たちに教えてくれるそうじゃないか。王から聞いたよ。まずは死ぬほど走り込みさせて、半日は走り続けられるようにさせろとね。さっきハイマンに伝えたら飛び出していったよ。今頃王都の中を走っているだろうね。対抗手段があると聞いて少し安心したよ」


「倒した技ではなく、防御するための技といったほうが正解です。魔族を倒したのはタマとチナツです。私には倒すだけの技量はまだありません。ハイマンと同じく後で走ってくるつもりです。鍛錬して少しでも強くならないと」

 侯爵はアルフォンスの向上心を好ましげに見つめる。

 会話が一段落したのを見計らって、タッカーが夕食ができたことを告げる。


 夕食の席で、シャロンは今日の出来事を楽しそうに話し、皆それを微笑ましく聞いた。


 次の日、朝食の時間にセラが現れる。

 タマの第二次成長期は収まったようで早朝に食事を済ませ、みんなと一緒に朝食をとる。

「タマちゃん、昨日はよかったわね。シャロンと分かり合えて」

 まるでその場にいたかのように、セラは微笑みながらタマに話しかける。

「よかったでしゅ」

 タマもニコニコしながら答える。


「さて、今日は雇用条件の話し合いと宝物庫ね」

 セラは千夏とセレナに視線を向ける。

 昨日セレナと少し話し合って、千夏が代表でセラと話し合うことになっている。

 宝物庫で、みんながアイテムを決めている間、どうせ時間はたっぷりあるのだ。

 千夏がそうセラに説明すると、セラはにっこりと笑う。

「大変合理的な時間の使い方だわ。結構、宝物庫で話し合いましょう」

 朝食を食べ終えると早速宝物庫へと向かうことになった。


 セラは千夏と話し合うため、宝物庫のアイテムを説明させるために自分の部下を一人連れてきた。

 長い髪をツインテールにした可愛らしい感じの女性だ。

 だが、その目は生気がなくどんよりとしている。

「ヒルダです」

 ぼそりと彼女は自己紹介する。


「とりあえず、面倒だけれどアイテム一つ一つを端から説明してあげて頂戴。全部を聞いてから慎重に選んだほうがいいわ」

 宝物庫の白銀貨の山がある場所にエドが出した椅子に座るとセラはヒルダにそう命じる。

「面倒……」

 ヒルダはぼそりと不満げにそう答えるが、セラからやりなさいと再度指示を受け、渋々と目録をもって棚のほうに向かっていった。

 アルフォンス達もそのあとに続く。


 ちなみに、タマは宝物庫に入ったところにある白銀貨を見て

「これが欲しいでしゅ」

 と目をキラキラさせて答えた。

 竜は光物に目がない。

 セラは苦笑し、1枚あげるからちゃんとアイテムを選ぶようにタマに言い含める。

 どうせ人の装備はタマには装備できない。

 もらうとしてもマジックアイテムになりそうだ。

 マジックアイテムの説明まで、タマは白銀貨の山でゴロゴロ転げまわって遊ぶことにした。


 千夏も椅子に座りアイテムボックスからお茶セットを取り出す。

 お茶を淹れてセラに渡す。

「ありがとう。ところでチナツ、あなたのユニークスキルっていったい何?」

 セラはぶしつけに千夏に質問する。いくら調べてもそのスキルが何かをセラは掴めなかった。

 ユニークスキルを尋ねることはタブーとされているが、思い切って聞いてみることにしたのだ。


「膨大な魔力と気力。それに関係するものなのかしら?」

「うーん、それとは関係ないような気がするけど」

 千夏はすぐさま否定する。


「実はね、私はチナツが異世界人であることと、神様からスキルを1つもらったことを知っているの」

 セラはさりげなく爆弾を投下する。

 千夏はセラをじっと見つめる。


「誤解しないでね。別になにかしようと思っているわけじゃないわ。私はチナツが異世界人だろうが竜であろうがなんでもいいのよ。タマちゃんと同じでちょっと変わったものだと思っているだけ。

 ただちょっとスキルを確認したいの。これから戦力になってもらうつもりでいるから、雇用主としては把握したいのよ。ナオキっていう男覚えているかしら?」

「誰それ?」

 千夏は間髪いれずに質問する。


「ほら、アルフォンスの誘拐犯よ。男がいたでしょ?」

 ああ、そういえばそんな人いたなぁ。

 正直顔も思い出せないけど。


「今は私の部下として働いているわ。彼から大体の事情を聞いたの」

 正確にいうと千夏達を見張っていた部下にとらえさせたのだ。

 直樹を脅していた組織から助ける代わりに、数年自分のために働くようにとセラは交渉したのだ。

 彼の隠密スキルは諜報活動に向いている。


「なるほど」

 千夏は頷く。


「デンシャっていうものは説明されたけど、よくわからなかったわ。だけど異世界からこの世界に300人近くの人が転生してきたってことだけはわかったわ。

 そしてあなた達がこの世界にきてしばらく経った頃に魔物襲撃が始まった。300年ほど何もなかったのに突然ね。おかしいとは思わない?」


 言われてみれば確かにその通りだ。

 転生してきた誰かが今回の騒動に絡んでいるのだろうか。

 だが、あの面接官の男は神様から与えるスキルはそれほど強いものは与えられないといっていた。

 魔物や魔族を支配できるだけの力を転生者は持つことはできないはずだ。

 千夏はセラにそう説明をする。


「その話も聞いたけど、チナツはどうみても特殊なスキルを持っているとしか思えないわ。うちの宮廷主席魔術師でも単独で使えるのは上級魔法だけ。チナツが一昨日使ったのはその上の特級魔法よ。上級魔族や竜並の魔力がなければ扱えないわ」


「よくわからないけど……」

 千夏はそう前置きして、自分のスキルについて簡単にセラに説明した。

 別に誰かに話したとしても問題がない。


 セラは千夏の説明を聞き、眉をしかめる。

「貯めるスキルね。食事と睡眠だけに限定したスキルじゃないわね、それ。例えば疲労がたまるとかいうでしょ?なんでも貯められるのじゃないかしら。魔力も気力も」


 それが事実だとしたらとても脅威だ。

 ただ千夏は日がな一日ゴロゴロしているだけで、どんどんと魔力や気力をためていくことができる。

 セラはそこまで考えついて思わず鳥肌が立つ。


 1年ほど魔力と気力をため込んだら、千夏がその気になれば世界征服が余裕でできてしまう。

 今千夏はユニークスキルを2倍にするレアアイテムを装備している。一年どころの話ではない。


 正確にいうと千夏の貯めるスキルの対象は〇〇が貯める(または溜まる)という言葉に言い表されるものが対象だ。

 基本ステータスの魔力、気力、体力、生命力、力が当てはまる。

 逆に防御、俊敏などは溜まるという表現が使われていないうえに、全く鍛えていないのでLv1から上がっていない。

 つまり、どのくらい生命力を貯めこんだとしてもLv1並な防御では大ダメージが入る。


「そうなのかな?そうなのかもしれないね」

 千夏はセラの説明を聞き小首を傾げる。

 とりあえず疲労が溜まるのはごめんだ。

 やはり、毎日ごろごろして過ごすべきだと千夏は考える。


「チナツが味方であったよかったわ」

 セラはぽつりとそうつぶやく。

 ミジクの魔物討伐のころからずっと部下を使って千夏達を監視続けていた。

 だからある程度千夏の思考は知っている。


 実際に会ってみて自分が考えていることに間違いはなかったと実感している。

 千夏は本人が言っているとおり、できればだらだらして毎日を過ごしたいだけだ。

 世界征服など考えもしないだろう。そんなことをするのが面倒だからだ。


 ただ、流されやすい面を持っている。仲間になった者が窮地に陥ったらためらいなく力をふるうだろう。

 その点に注意するべきとセラは心に刻む。


 千夏は自分の能力についてピンときていないようだ。

 そもそも普通の魔力というのはどの程度のものなのかも知識としてないのだ。

 ポリポリと茶菓子のクッキーを食べながら、白銀貨の上でゴロゴロ転がっているタマを見て笑っている。


 少なくても千夏という実例がいる。抜け道のように巨大なスキルを持って転生した異世界人がいる可能性が高い。

 頭が痛いことだ。


 今配下を使って、各街で直樹が転生してきたという時期周辺で、冒険者登録をした人の所在確認をさせている。

 そこから辿るしか方法はない。

 エッセルバッハ以外の国にももちろん転生者はいるだろう。

 だが、他国ではそんな騒動は起きていない。

 少なくてもその転生者はしばらくの間生活の拠点をエッセルバッハに持っていたに違いないとセラは考えている。


 それに転生者が敵だとしたら、まだ転生して二カ月くらいだ。

 地盤もまだ確実なものではないだろう。

 もし自分がそのものと同じ立場だとしたら、次に攻め込んでくるのは確実に落とせるだけの勢力をそろえたときだ。

 まぁ単なる嫌がらせが好きなだけという説もあるが、そちらのほうであればどこかで尻尾を掴めるはずだ。大した脅威にはならない。


 セラは呑気そうにお茶を飲んでいる千夏を眺め、深い溜息をついた。

ご感想、評価ありがとうとうございます。

累計ユニークが1万人を突破しました。

これからもよろしくお願いします。


7/9 一部千夏のスキルについて補足しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ