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王宮

「登城するようにと王宮より連絡がございました。冒険者パーティのみなさんもご一緒にとのことです」

 ほのぼのとタマとシャロンを見守っていたアルフォンスに、タッカーが王宮より使者がきたことを報告する。

「すぐに着替えてくる」

 そういうと、アルフォンスは部屋へと戻っていく。


「私たちも一応着替える?」

 さすがに古着屋の服をきて、王宮にいくのもどうなのだろうかと千夏はセレナに尋ねる。

 セレナは頷く。

 とりあえず、古着じゃなければいいだろう。千夏はワンピースに着替えることにする。


「ちーちゃん?」

 突然ばたばたしはじめた千夏たちをタマは見つめる。

「タマはシャロンと遊んでいていいからね。外にごはんを食べにいくときは、シャロンを連れて行っちゃだめよ」

 タマが頷くのを確認すると、セレナとともに2階の部屋へと戻る。

 さっさと着替えた千夏は、一階の応接室でアルフォンスとセレナが戻ってくるのを待つ。


 すぐにノースリーブの花柄のワンピースをきたセレナがやってきて、一緒にアルフォンスを待つ。

「なんか王都についてから少しもゆっくりできないんだけど」

 千夏は少しむくれる。

「ダンジョンにいって、メイドになって、魔族と戦って……結構大変だったの」

 セレナも最近の出来事を指折り数える。

 そう、まだ王都について5日目なのだ。


「でも少し強くなれたの」

 セレナは誇らしげに笑う。

「そうね。これが終わったら少しはのんびりできるといいなぁ」

 千夏がぼやいているうちに正装に着替えたアルフォンスとエドが戻ってくる。

 さっそくエドの転移で王宮前へと移動する。


 ぐるりと高い城壁に囲まれ、3つの塔と大きな白い岩で作られた建物がエッセルバッハの王宮だ。

 どちらかというと武骨なつくりになっており、昔は城塞として使われていたのだろう。

 ところどころに矢を射る高台が作られている。


「王宮ってシンデレラ城みたいなものかと思っていたよ」

 千夏は初めて見る王宮に少しがっかりする。

 レンガつくりの大きな円形の橋を渡り、ぴったりと閉ざされた巨大な鉄門前で各自身分証明書を門番に見せ、さらに気紋を読み取る水晶に手を当てるようにといわれる。


「こちらからお入りください」

 問題ないことを確認した門番は鉄門の横にある小さな扉を開ける。

 鉄門は基本的に王が出はいりするときのみ開かれる。


 扉をくぐると、そこは広場になっており広場の先は各塔や主塔へ続いている。

 いざ有事のときにはこの広場に2000人の兵士が詰め、城を守るのだ。


 がらんとした広場を千夏はアルフォンスに続いて歩いていく。

 王宮らしい華やかさがまったくないなぁ。

 さっきから期待外れで、少しつまらそうな千夏は主塔の扉をくぐったところで目を見張る。


 主塔の入口のエントランスホールには大きな噴水があり、噴水の水を吐き出す女神像はクリスタルでできているらしく、部屋の明かりできらきらと輝いている。

 噴水の両側にはずらりとメイドが並んでおり、千夏達が入るとゆっくりと頭を下げる。


 メイドたちの後ろにはゆったりとしたカーブを描く大きな階段が2つ、2階へと続いている。

 階段の左側には王妃の、右側には王太子の大きな肖像画があり、2階の入口の上に王の肖像画がかかっている。


 メイド頭に連れられて、左の段を登り奥へと長く続くふかふかの絨毯が敷いてある廊下を千夏はキョロキョロと頭を動かしながら眺める。

 部屋の扉がない廊下の部分には、ガラスケースが置いてありその中には魔石で作られた色とりどりのマジックアイテムが置かれていた。


 これもやはり有事のときにはケースから出して使うために置いてあるものだ。

 だが凝ったつくりのそれぞれのマジックアイテムは大変美しくとても華やかなもので王宮の置物としても十分な美しさを持っている。


 広々とした廊下を突き当りまで進むとそこに大きな扉が一つある。

 両脇には正装した騎士が立っており、ここが王との謁見するための部屋がある。


 騎士たちは、ちらちらと千夏達を横目で何度も見る。

 昨日戦場にいた騎士たちは、千夏達の活躍を目の当たりにしていたのだ。

 気にならないわけがない。


 騎士団の小隊長二人が、大広間へと続く扉をゆっくりと左右から開ける。

 200人は詰められる大きな広間には、主だった官僚や騎士それに着飾った貴族たちがずらりと並んでいた。


 一斉に広間の全員の視線を受け、セレナはびくりと肩を揺らす。

 千夏も内心穏やかではない。

 とても場違いなところに来てしまった。

 千夏とセレナは少し俯き、ちくちくと刺さる視線から逃げたくなった。


 平然とその視線を受け、アルフォンスは真っ直ぐに王座に向かって歩き出す。

 そのあとにエドが続き、千夏とセレナも嫌々続く。


 王座から2メートルほど離れた位置でアルフォンスは立ち止り、一礼をする。

 エドも深々と礼をとるので、慌てて千夏とセレナも頭を下げる。


「バーナム辺境伯ご子息アルフォンス殿と冒険者トンコツショウユが到着いたしました」

 王の隣に立つ宰相が高々と声を上げる。


 うー、違うパーティ名にしておけばよかった。

 千夏はあらためて自分の命名センスを後悔する。

 王宮とラーメン。まったく相容れない。


「面を上げよ」

 王座から王が穏やかな声で命令する。


 まずアルフォンスが顔を上げ、エドが姿勢を戻したのを見計らって千夏とセレナが顔を上げる。

 目の前には穏やかな顔でにこりと微笑む王が座っている。


 思っていたより若い。

 王様の隣には儚げな女性とアルフォンスより少し年下の少年が控えている。

 玄関ホールの肖像画でみた、王妃と王太子だろう。

 セラの姿はない。



 王太子のギリアスは王の隣から目の前に立っている一行を注意深く観察する。

 叔母がこのパーティにかなり肩入れをしていることを知っている。

 騎士団ですら相手にならなかった魔族を、自分とあまり年齢が変わらないこのパーティが倒したといわれても、なかなか信じることはできない。


 父は叔母のいうことに疑問を感じない。

 今回は実際に騎士たちが現場で目撃しているので、間違いはないんだろうが。

 正直、この国は叔母が動かしているに等しい。


 ギリアスは父のように叔母任せにすることは嫌なのだ。

 叔母のことを嫌いではないが、うっとおしいと思っている。

 できれば叔母の失点を見つけ出し、国政から退いて欲しい。


「此度は、我が王都を襲った魔族の撃破見事であった。おかげで民の犠牲を最小限に抑えることができ、なりよりだ」

 王は目の前のパーティメンバーひとりひとりに視線をあわせながら、言葉をかける。


 護衛の女性二人が王と視線があうと、ぴくりと体を硬直させたのことを感じ、微笑ましく思う。

 彼女たちは冒険者であるまえに我が国民の一人なのだ。

 

 普段、直接民と話すことはできない。

 じっくりと今民が思っていることをどこかで彼女たちから聞いてみたい。

 そう王は考えていた。


「我が国の代表としてそなたたちに礼をいう。大義であった」

 そう告げると再び、彼らは深々と礼をとる。


 正直この形式にのっとった礼の言い方を王は好きではない。

 ふんぞり返ってお礼を言われても相手に伝わらない。


 後日開かれるパーティでこっそりとお礼をいうつもりだ。

 きっと一人息子には王らしくないと怒られるだろうが。


「今回の業績に対して、報酬として王宮の宝物庫から好きなものを1つそれぞれが持っていくがいい」

 王がそう告げると、ざわりと立ち会った貴族たちか騒ぎ始める。

 隣に立つ息子も非難の視線を投げかけてくる。


 恩賞は通例では金か領地となっている。

 王宮の宝物庫には希少なアイテムが眠っている。その一つでも売れば莫大な金額になるだろう。


 お金だけの問題ではない。宝物庫のアイテムを持つものは国が勇者として認めたことになる。

 下級魔族を倒した報酬にしては、報酬が大きすぎる。


「魔族の脅威は、終わったのではない。これから始まったのだ。皆それを忘れてはいけない」

 王はざわめく貴族たちを見下ろしながらそう告げる。

 彼らにはこれから押し寄せる魔族に対して中心となって立ち向かってもらわなければならない。


 宝物庫にあるものは希少なものであるが、所詮アイテムだ。使ってこそ意味がある。

 宝物庫に眠らせていても意味はない。こういう有事のときのために宝物庫のアイテムはあるのだ。


 極論をいうならばすべてのアイテムを取り出し、騎士団に貸出をさせたいくらいだ。

 こぞって貴族たちから反対されるので今はまだそんなことはできないが。


 こっそり下級行政官の列に紛れ込んでいたセラは満足そうに微笑む。

 兄は妹のいいなりな王ではない。


 信頼できる人間を見抜き、適材適所で人を使うことがうまいだけなのだ。

 上に立つものとしてのリスク管理もしっかりと考えている。

 だからセラは安心して兄のために働けるのだ。


「後日、今後の対応としてすべての領主を招集し会議を開く。皆、それまでの間に過去の事例を調べ、対策を考えておくように。宰相、彼らを宝物庫へ案内するように。私からは以上だ」

 王はそういうと席をたって謁見室を退出していく。


 王が退出するとざわざわと貴族たちが今の話について近くのものたちと話し始める。

 役人たちはすぐに自分たちの仕事場へと戻っていく。


 謁見室の中央に取り残された千夏は、突き刺さる視線がなくなったことに安堵し、さっさとここから帰りたいとぼやいた。

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