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フィタールのダンジョン (3)

「あー、見事に塞がれているね。まさにモンスターハウスだよ、これは」

 千夏は大量のヘルハウンドに埋め尽くされた、地下3階へと抜ける道を確認し溜息をつく。

アルフォンスとセレナは、シルフィンとどう攻略していくかをすでに相談している。


 せっかくここまで来たのだ。タマのヤル気からいっても、撤退の二文字はない。

千夏もできればまた来るのは御免こうむりたい。とても面倒だ。


 地下3階へ降りる道まで辿り着いた時には、すでにいた先客パーティが武器を構え絶望的な表情でこちらを窺っていた。

遅れて辿り着いた千夏達に彼らは「そこに魔物がいる!気を付けろ」と注意を促す。彼らの緊張した視線の先には、先行したタマがいる。


 どうやらタマをダンジョンで生まれた魔物と勘違いをしているらしい。

千夏はタマが従魔であることを説明し、実際にタマを触って無害であることを彼らに見せつける。

彼らはそれを理解すると安堵し次々と武器を下ろしていった。


「何があったの?」

 セレナは地下三階へと続く道に築かれたバリケードを見て怪訝そうに尋ねる。

「俺は、《暁の風》のハンスだ」

「《トンコツショウユ》のセレナなの」

 大柄な熊型の獣人が彼らを代表して事の経緯を話し始める。


 千夏達は話を聞き終えるとバリケード越しにうごめくヘルハウンドを確認する。

 覗き込む毎にヘルハウンドが炎を吐き威嚇してくる。

狭い通路は赤々と燃え広がる炎に埋め尽くされる。ヘルハウンドの炎により洞窟内の温度が急激に上がってくる。


「タマちゃんくらいね、この中を突っ切れるのは。竜にはこの程度の火力は痛くもなんともないわ」

 ランドルフはポーチから取り出したフリルのハンカチで顔を拭う。


(まず、チナツがある程度前におるヘルハウンドを片づけて、タマが突っ込んで戦列をかき乱す。その後にセレナたちが続くってところが無難やな)

 シルフィンが立てた作戦内容に特に皆異論はない。


「やる気満々みたいね」

 シルフィンの声が聞こえていないランドルフは、互いに頷きあっている千夏達の様子で攻め込むことが決定したことに気が付く。


「私たちは地下三階に進むつもりですが、先に行かせていただいても問題はないでしょうか?」

 エドが先着していたパーティに向かい尋ねる。ダンジョンなどで別パーティと遭遇した場合、先着パーティに魔物を倒す優先権が与えられる。


「構わないが、本当にやるのか?竜がいるとはいえ、たった6人で」

「あら、私は戦わないわよ。観戦組よん。珠のお肌がやけどしたら大変じゃない」

 ハンスの言葉にすぐにランドルフは訂正を入れる。うふふと野太い声で笑うランドルフの姿にハンスは一瞬声を失う。

 とりあえず、通路に築かれたバリケードをセトに回収してもらう。


 千夏は通路を見下ろす。先頭のヘルハウンドまでおよそ10メートル。通路自体は縦4メートルの横幅3メートルといったところか。

 威力が高い気功砲を使えば、爆破して通路が埋まってしまう可能性が高い。となると、魔法を連発するしかないようだ。


「タマ、しばらく連続で魔法を唱えるから突入タイミングに注意してね」

「わかったでしゅ」

 千夏はタマの返事に頷くと、通路の方に向き直る。

(あー、無詠唱で魔法が唱えられたらどんなにいいか)

 千夏は覚悟を決めると、威嚇するヘルハウンドにフローズンバレッドを打ち込み始めた。


「フローズンバレット!フローズンバレット!」

 氷の弾丸が豪雨のように絶え間なく、ヘルハウンド達を打ち砕いていく。次々とヘルハウンドが氷の弾丸に押しつぶされ、殴り殺されていく。


 ヒューズは絶えることなく魔法を放ち続ける千夏を固まったように凝視する。Bランクの魔法使いが中級魔法を一日に使えるのは平均5回が限度だ。威力が大きい分、魔力の消費がバカにならない。

 彼女はすでに10回を超える魔法を放っている。詠唱するペースは全く衰えていない。しかも、一度に籠める魔力が桁違いに大きいのだ。


(大量のヘルハウンドに怯えない事といい、彼らはもしかしたらAランク冒険者なのか?このままいけば、突破できるかもしれない)

 すっかり諦めかけていた魔石採掘に一縷の望みが生まれた。


 一番手前にいたヘルハウンド達が総べて倒れたことを確認したタマは、すぐさま通路に飛び込んでいく。

 千夏は、タマの突入を確認して魔法を止める。

 タマは地下3階まで突っ切ると、背後から鉤爪で次々とヘルハウンドを切り裂いていく。


「ウォォォォォォォォォ」

 タマに向かって一斉にヘルハウンド達は炎を吐き出す。攻撃が届かない階上の攻撃者からタマへとターゲットを移したのだ。


 吐き出された炎を避けずに、タマは一気に近寄り炎を吐き続けるヘルハウンドの首筋を食いちぎる。竜の高い魔法耐性の前にヘルハウンドの炎はなすすべもない。力押ししないヘルハウンドはタマにとっては格好の獲物だ。


 一匹のヘルハウンドがタマの翼を噛みつける。タマは翼を大きく羽ばたかせると、噛みついてきたヘルハウンドを弾き飛ばす。ヘルハウンドの牙はタマの鱗に傷をつけることはできない。ヘルハウンドはしょせんBランク。Sランクの竜にかなうわけがないのだ。

 タマはヘルハウンドの群れの中を縦横無尽に飛び回り、一方的な攻撃を与えては空に離脱する。


 いつしか、タマの周りに全てのヘルハウンドが群がり始める。すでに、地下3階へと続く通路の中には生きているヘルハウンドの姿はない。


 アルフォンスとセレナは通路に飛び込み、一気に地下3階までなだれ込む。地下3階へと続く通路を抜けた先は、狭い通路ではなく20畳ほどの広さがある空間だ。

 少し奥でタマに群がっているヘルハウンドが見える。


「チナツ!降りてこれるぞ!」

 アルフォンスがそう叫ぶと、千夏とエドは通路を降りていく。大量のヘルハウンドの死体が転がっており、通路は足場が悪い。邪魔なヘルハウンドを次々とエドがアイテムボックスへと収納していく。


「俺たちもついていっていいか?」

 後に続こうと通路を降り始めたランドルフにヒューズが声をかける。

「邪魔にならないようにすればいいんじゃないかしら」

 ランドルフがそう答えると、武器を構え全員がランドルフの後に続いていく。


 千夏は先行した二人に追いつくと、手前のヘルハウンドに向かい再びフローズンバレットを連射する。タマに気を取られていたヘルハウンド達は千夏の魔法の直撃をくらい、弾圧に押しつぶされていく。魔法の直撃を受けなかったヘルハウンドは、雄叫びを上げて千夏へと殺到する。


「やらせるか!」

 アルフォンスは飛びかかってきたヘルハウンドを剣で薙ぎ払う。炎を吐かなければ、ウォーウルフより大きいだけでそれほどの脅威はない。次々に飛びかかってくるヘルハウンドをアルフォンスはなぎ倒していく。


 不利を悟ったヘルハウンドがアルフォンスへ向けて炎を吐き出す。すかさず待機していたセレナが、炎をリフレクションブレイクではじき返す。

(修行より実戦のがいい経験になっとるな)

 シルフィンは弟子の出来に満足そうだ。


「剣で炎をはじき返しやがった」

 ハンスは唖然と目の前の光景を眺める。


 もともと炎属性のヘルハウンドは自らの炎をはじき返されたとしても、火傷をするだけで致命傷には至らない。20匹程のヘルハウンド達は少し離れた場所から一斉に炎を吐き出す。


(さすがにこれは無理か?)

 ホリーは吹きすさぶ業火にたまらず一瞬目を閉じる。エドはじっとアルフォンスとセレナを見つめる。彼らの装備は耐火性だ。多少跳ね返せなくても大怪我にはならないはずだ。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 アルフォンスとセレナは必死に剣を動かし、リフレクションブレイクを連発してその猛火をなんとか防ぎきる。


(チナツ!)

「わかってる」

 このままでは防戦一方になる。シルフィンにせかされ、千夏は距離をとったヘルハウンドに魔法攻撃を再開する。氷の弾丸の雨の前に、ヘルハウンド達は口を開けることもままならなくなる。


 5発ほどフローズンバレットを叩き込んだ後に、千夏は魔法を止める。大半がすでに倒れて伏しているが、まだ生きているヘルハウンドがいる。それらをセレナとアルフォンスが止めをさす。


「タマのほうもそろそろ終わりだな」

 吹きだす汗を手で拭いながらアルフォンスは奥で戦っているタマを観戦する。すでに残り2匹まで蹴散らしたタマは、最後まで手を緩めずヘルハウンドを蹂躙する。

 最後のヘルハウンドの首を噛み千切る。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 全てのヘルハウンドが倒されたことに、ハンスやホリーたちは歓声を上げる。今朝からずっと悩まされていたことが一気に解消したのだ。彼らは千夏やアルフォンスを取り囲み、感謝の言葉を贈る。


「あなた達のおかげで助かった!」

「おかげで依頼を達成できそうだ。ありがとう!」

 千夏は抵抗できずにもみくちゃにされる。セレナもハンスに抱き上げられ、ぐるぐると振り回される。


「はい。そこまでです。感謝の気持ちは十分伝わりましたから」

 エドが興奮したホリー達を取り押さえる。突撃してきたミノタウロスを抑えることができるハンスでさえ、エドに簡単に引き倒される。


 エドはホリーたちを一カ所に引き離すと、上着から懐中時計を取り出す。

「さて、17時を少し過ぎてしまいました。夕食にいたしましょう」

 次々とイスやテーブルをアイテムボックスから取り出し、エドは夕飯の準備を始める。


「確かにおなかがすいたわぁ。私もなにか手伝うわ」

 ランドルフはいそいそと巨体を揺らしてエドのそばに近寄る。

 千夏はヘルハウンドの死体をかき集め、タマに食事を与えるために、地下二階へと続く通路に戻る。


 勝利に驕るわけでもなく、淡々と夕飯の準備を進める千夏達にホリーたちは唖然とする。


 あれだけの敵を倒したのだ、当分ここに近寄る魔物はいない。食べられるときに食べる。それがこのパーティのルールだ。


 アルフォンスやセレナも集中しすぎたせいで、勝利を喜ぶ元気もない。出された椅子にぐったりと座り込む。


 ダンジョンの中にいるとは思えないほど、豪華な食事が次々とテーブルに並べられていく。

「よろしければ、あなた方も食べますか?」

 エドは大量に取り出したワインのビンを手にとり、ホリーたちに向け尋ねる。

 もちろん異論があるはずもない。

 ホリーたちはその提案に飛びついた。

誤記を修正しました。

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