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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
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到着

 エッセルバッハ王国の王都は、ミジクから馬車で四日ほど南東に進んだ大平原にある。内陸部からパワン海に合流する河の中で、一番大きな河であるチャパ河がすぐ近くにあり、広大で肥沃な大地に囲まれている。気候が温暖で水不足の心配もない。


 今の季節は秋に収穫予定の小麦が植えられ、王都の周りは緑の絨毯が広がっている。馬車は小麦畑を横断している街道をのんびりと進んでいく。


 巨大な農産地の近くに王都があるとは千夏は予想していなかった。どちらかというと、東京のように何もない土地にドンドンと尖塔が立ち並んでいる、そんな風景を思い浮かべていたからだ。素直にそんな感想をもらすと、アルフォンスが不思議そうな顔をする。


「一番いい土地に王都があるのが一般的だと俺は思うのだが。千夏の故郷は違うのか?」

「うーん、どちらかというと王都は何にもないかな。地方のほうが豊かな土地が多いよ」

「それでは税収が少ないだろうに」

 千夏の住んでいた日本では第一次産業の農業についている人口はかなり少ない。諸外国から大半の食料品は輸入していた。どちらかというとサービス産業の第三次産業が盛んだった。


 タマは大人しく紙をひろげ「小麦」という字を練習している。さきほど千夏に「小麦」は重要な作物だと教わったからだ。その書き方はよく言えば竜らしくダイナミックな存在感のある文字で、悪くいうと殴り書きで実に読みにくい文字だ。


「まだ見えないけど、王都の周りにはやっぱり高い城壁で囲まれているの?」

「そうだ。だが、戦争があったのはずいぶん昔で、そのころ立てた城壁なのであまり城壁として役には立たんだろうな」

「ふーん。じゃあ、魔物が大量に押し寄せたらちょっと危ないね」

「かなり危ないぞ。まぁ量にもよるが。この前と同数程度であれば、王都に駐在している兵だけで余裕で倒せるだろうがな」

 少し考え込むようにアルフォンスは答える。


 ミジクを襲った魔物の襲撃は他の都市では今のところ発生はしていない。

「王都の近くは肥沃な土地が多いので、貴族の荘園が多い。そこに駐在している兵も集めればかなりの数だ。そうそうには負けないさ。だが、昔の魔王軍襲来のような大規模な戦いになったら、厳しいだろうな」


 最近アルフォンスは修行の合間に本を読んでいることが多くなった。どうやら昔の魔王軍との戦いの記録を読みあさっているようだ。「魔王」というものについてアルフォンスの趣味的にも興味があるが、どうやらそれだけではないようだ。


 一面に広がる麦畑の向うに城壁らしき白いものが見え始める。ようやく王都がその姿を現したのだ。

 どうやら今日の夕飯は王都で食べれそうだ。少しずつ王都が近づいてくる。城壁より高い塔らしきものが千夏の目に入る。


「あれは何?」

「ん?ああ、あれは教会の尖塔だな。一番上に王都に時間を告げる大鐘楼がある。王都の中心に教会が建っているんだ」

「王城が中心じゃなく?教会?」

「ああ、王城は王都の一番南側にある。そこに傾斜の緩やかなクコ山があるんだ。山というより、丘に毛が生えたようなものだがな。そこの山頂に王城があるんだ」


 王都と今いる位置との高低差はないので、ここからは城壁と教会の尖塔しか見えない。少しくたびれかけた城壁が目の前にはっきりと見えてくる。その城壁からずらりと並ぶ馬車と人の列。今回も貴族の裏ワザで列に並ばず入場するかと思いきや、馬車は行列の一番後ろへと並ぶ。


「今回は並ぶんだ」

「王都は貴族が多いからな。無用なトラブルになるので、王都入場は普通に並ぶ。結構時間がかかるぞ」

 アルフォンスは文字の練習に少し飽きてきたタマに、画用紙を渡す。


 絵でもかいて送ったらシャロンが喜ぶだろうと口添えすると、タマは馬車から身を乗り出し王都の入口の風景を描き始める。アルフォンスは竜が大好きなので進んでタマの世話を焼く。千夏より熱心だ。最初の頃はうざがられていたが、今ではタマもアルフォンスに慣れ自然に対応している。まぁアルフォンスがあまりタマに向かって騒がなくなったことが一番大きな原因だが。


 アルフォンスは意外と馬鹿ではないようで、大声で騒がなければタマが触らせてくれるし、観察もじっくりさせてくれることに途中で気が付いたのだ。


 千夏は馬車から降り、固まっていた体を大きく伸びをしてほぐす。そして御者台でセレナとエドがお茶していることにすぐ気が付く。

「ずるぃ、二人だけで」

「チナツもお茶する?このクッキーおいしいの」

 セレナがクッキーを一枚近寄ってきた千夏の口元へと運ぶ。千夏は大きく口を開けそのままクッキーを一口で口に入れてしまう。


 御者台に3人は厳しい。千夏はお茶を馬車のほうにも差し入れてくれるようにエドに頼む。すぐにエドは馬車のほうにもお茶セットを運んでくれた。


 戻ってみると馬車の中にはタマの姿がない。窓から乗り出して絵を描くのが大変だったらしく、いつのまにやら馬車の上に座り込んで絵を描いている。最近は手足をうまく使えるようになったらしく、意外と自由に動くことができるようになった。ご飯を食べに行く以外は人の姿でいる時間が長くなったせいだ。


 30分ほど並んだころにやっと王都の門をぐぐり抜ける。いつものように、アルフォンスの身分証明書ですんなりと王都に入ることができた。


 ミジクやシシールも大きな街で人もたくさんいたが、さすが王都。目に入るのは人・人・人だ。馬車がゆっくりと進んでいくと人垣が二つにさぁっと割れていく。

 千夏は馬車の窓から居並ぶ露店を目を皿のようにして見回す。初めての土地での食べ物のリサーチはとても大事だ。


「あ、なんかチョコのにおいがする」

「チョコってなんだ?」

 くんくんと匂いを嗅ぎながら匂いの元を探す千夏に、アルフォンスが尋ねる。


「黒いのが固まってるやつで食べたら甘いもの」

「ふむ、そんなものがあるのか」

 匂いの元がなかなか見つからない。千夏はタマにその匂いを覚えてもらい、後で探しにいくことにした。


 しばらく馬車は走り続け商業区を抜け、貴族街に入っていく。貴族街のわりと端の方にバーナム辺境伯の別邸が建っている。本宅の1/10程の大きさで、普通の家の5倍くらいの広さだ。


「お疲れ様です。エド殿。どうぞ中へ」

 門の前に馬車を止めると、エドを見知っている門番がすぐに門を開く。

 正面玄関の前に馬車が止まり、一行は別宅を管理している執事の出迎えを受け、そのまま邸内に入っていく。


 大広間のソファに落ち着くとすぐに、エドは別邸の執事に仕立て屋を呼んで欲しいと頼む。

「用意していた服と肌色が合わなくなりました。至急に仕立て直す必要があります」


 アルフォンスはあまり衣装に関心がないようで、この屋敷の間取りについて簡単に千夏とセレナに説明をしている。

 その説明によると客室は10部屋ほどで、一階の一部と二階全てに配置されている。

 千夏とセレナの部屋は二階だということで、メイドに連れられ各自自分の部屋へと入っていく。


 千夏の部屋は青を基調とした部屋で、あまりごてごてとした装飾品がないシンプルな意匠の部屋だ。シンプルといっても実際は高価な家具が配置されており、部屋の寝室に飾られた30センチほどの小さな絵画は1枚で金貨400枚はする巨匠の手によるものだ。

 寝室にはベットが2台あり、タマと千夏で分けて使うことにする。


 千夏は窓を開け、夕暮れの街の景色を眺める。やはり一番目立つのは例の教会の尖塔だ。尖塔の向う側に沈む夕日が見える。王城を探すが、どうやらこの位置からは見えないようだ。


 涼やかな風とともに教会の大鐘楼から重低音でゴーン、ゴーンと鐘が鳴り響く音が部屋の中に入ってくる。

 王都での滞在期間はおよそ20日間の予定だ。千夏の予定はギルドへの到着報告とヴァーゼ侯爵別邸への顔出しくらいだ。侯爵からフェルナーに一度会ってほしいと頼まれていたのだ。


 千夏は居心地のよさそうなこの部屋でごろごろしながら、おいしい食べ物の発掘をして過ごそうと簡単に予定を立てる。


 ことごとく予定通りに行かない千夏の王都滞在が始まった。

脱字を修正しました。

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