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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
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魔石探索

「そろそろ、20分経ちます。潜水魔法をかけ直してください」

 潜水魔法の効果は30分程。かけ直すタイミングを失敗すると即死しかねない。常に余裕をもって魔法のかけ直しが必要だ。


 懐から取り出した懐中時計をみながらエドが千夏を振り返る。千夏は全員に潜水魔法をかける。魔力不足にならないように、ケニーと交互に潜水魔法をかける手筈になっていた。


 海底に向かえば向かうほど日の光も遠くなり、辺りは暗くなっていく。

 どの位潜ったのかわからなくなった頃、ケニーが目の前にある直径20メートルほどの大岩を指し示す。どうやら魔石があそこにあるらしい。


 先頭を歩いていたタマは大岩をうかがうとぴたりと止まる。

「何かいるでしゅ!」

 海の中は透明だが、もやがかかったように索敵が難しい。特に気力が見える千夏には、屈折した水中と淡い小さな青い光がちらちらと見えて逆に視界が悪くなっている。


 先頭をタマからエドに変えて、ゆっくりと大岩に近づく。

 突然、黒い大きな影が大岩から踊り出ると、エドに向かって突進する。エドは慌てずにひらりと飛びかかってきた影を避ける。そのまま影は千夏達の頭上を通り過ぎていく。


「伏せて!」

 エドの短い警告に反応したタマは、ぐいっと力の加減なしに千夏の手を下に引く。

「うっがっ!」

 千夏はそのまま前のめりに頭から倒れる。

 影が再度凄まじい勢いで千夏達の頭上を通りすぎる。エドはタイミングを合わせそれを蹴り飛ばす。


「イビルシャークか!」

 ケニーは蹴り飛ばされた全長5メートル程のサメの姿を確認する。イビルシャークは大きな口に鋭い歯をもち、素早い動きで獲物を仕留める。沿岸の近くで出没する魔物の中で一番やっかいな相手だ。


 タマはすぐさま気功砲を動きの鈍くなっているイビルシャークに向け放つ。ざっくりと青白い高速の光に体を引き裂かれ、イビルシャークは倒れる。気功砲により分断された体から、大量の赤い血が海流にのって海面へと上っていく。


 意外とあっけない。

 千夏は警戒態勢を解き、倒れたイビルシャークを見て

「フカヒレ料理ってこっちにもあるのかな?」と食い気を発揮している。


「血の匂いで群れが来るぞ!」

 ケニーが大岩の向こう側を指し示す。

 彼が指さす先に黒い大きな影が群れが見え、こちらに向かってやって来る。

 イビルシャークがやっかいなのは、一匹倒してもすぐに血の匂いを嗅ぎつけて次々群れになって襲ってくるからだ。


「フローズンバレット!」

 千夏は覚えてたばかりの魔法を放つ。無数の氷の弾丸がイビルシャークの群れに襲いかかる。


 タマもすぐさま気功砲を群れに向かって飛ばす。それでも何匹か攻撃から逃れ大きく口を開けて突進して来る。

「ウィンドストーム!」

 こちらに向かってくるイビルシャークの鼻づらを狙って、千夏は次の魔法を解き放つ。突如、高速に水流が渦を巻き、それに飲まれた数匹のイビルシャークは水面まで打ち上げられていく。


 あっという間にイビルシャークの群れが駆逐されたことにケニーは驚き、顔に手を当てる。

「坊は何したんだ?ありゃあ、魔法じゃねぇな」

「気功砲でしゅ」

 タマはケニーに乱暴に頭を撫でられ、首を揺らしながら答える。


「すげぇな。気功術か!初めて見たぞ!大したもんだ」

 タマは褒められ、嬉しそうに笑う。

 氷の弾丸によって圧死または気功術で胴体を分断されたイビルシャーク達の骸が水流にゆっくりと流されていく。その数は30くらいだろうか。


 侯爵から推薦されたパーティーということで、それなりは出来る奴らだと思っていた。通常イビルシャークの群れに襲われたら、かなりの危険を伴う。まさかイビルシャークの群れを瞬殺する程とは。これならあまり進んでなかった魔石回収が、無事出来そうだとケニーは喜ぶ。

 魔石回収騒動のせいで、漁に出る暇がなかったのだ。


 千夏はイビルシャーク達の骸に手を伸ばし、次々とアイテムボックスに収容する。

 タマのご飯にできるし、もしかしたらフカヒレのスープが飲めるかもしれない。

 あとに残ったのは大量の血で澱んだ海だ。

 視界はだいぶ悪いが、ケニーにははっきりと魔石のありかが見える。魔石は大岩の下にあるように見える。近寄って確認するが、魔石のある場所に手を差し入れる隙間はない。


「魔石は、この大岩の下だ。一体どうやって下に潜り込んだんだ?」

 ケニーは懐からナイフを取り出し、岩に向かって斬りつけてみる。ガキンと音が鳴りナイフははじかれる。

 ケニーはタマを振り返り、「坊、さっきのぴかーってやつやってくれないか?」と頼みこむ。タマは頷くと、ケニーが大岩から距離をとったところで気功砲を放つ。


 ガガガガと音をたて、大岩の一部が削りとられる。

 てっきり大岩が木端微塵になると思っていたのだが、大岩本体は沈黙を守っている。

 いや、なぜか20メートル四方もある大岩が少しずつ上に持ち上がり始めた。


「下がってください!」

 その様子を見たエドは千夏とタマの前に出ながら、ケニーに警告する。

 ケニーは急いでエドの元へと走り寄り、大岩を振り返る。

「なっ、こりゃあ大岩カニかよ!」

 そこには完全に立ち上がった大岩の下からうごめく8本の白い脚が見える。

 脚の一本はおよそ10メートルほどもある。


「めちゃくちゃ大きなヤドカリ??」

 宿は貝ではないが、まさしく千夏が昔海でみたヤドカリにそっくりだった。

 威嚇するように一番手前の大きな2本の脚が、千夏達に向かって何度か振り下ろされる。

 大岩カニの脚と千夏達のいる場所の距離はわずか5メートル。いつ襲い掛かられても不思議はない。


「走って下がってください」

 エドは大岩カニに注意を向けてたまま、千夏達に指示する。

 エドを残して20メートルほど離れた千夏は、「下がったよ!」とすぐにエドに声をかける。エドは視線を大岩カニに残したまま、数度後ろ向きに跳び千夏達の前に移動してくる。


「ひでぇ、魔石はあいつの腹ん中だ」

 ケニーは呻くようにそう告げる。

「なるほど。結界効果のある魔石を取り込んだので、タマの気功砲の効きが悪かったのですね。となると、魔法は効きにくいとみるべきでしょう」

「まじかよ!」

 主戦力はタマと千夏であり、前衛はエド一人だ。慌てふためくケニーと対照的に、エドにはまったく慌てた様子がない。


「まったく効かないわけではありません。数で攻めるべきでしょう」

「わかった」

 千夏はそう答えると同時に、大岩カニがこちらに向かってくる。大きな図体だけあり、動きはそれほど速くはない。


「タマ、脚を狙って!フローズンバレット」

 ズガガガ。大岩カニの前足に氷の弾丸が音を立てて着弾する。だが、イビルシャークを押しつぶした魔法が、大岩カニにはほとんど効いていない。軽い打撲程度のダメージだ。


「ピュシュュュュュュュュュュュ」

 千夏の攻撃に激怒した大岩カニは甲高い奇音を発しながら、移動速度を上げる。大岩カニは巨大な鉈のような前足をしならせ、千夏達全員を狙い振り下ろす。


 その攻撃を重心を低く保ち、腕を交差させたエドが受け止める。振り下ろされた脚の勢いで、1メートルほど立っていた位置からずるずると後ろに追いやられる。巨大な大岩分の加重がずっしりとエドの腕にのしかかり、エドの足がズブズブと海底に沈んでいく。

 それでも、いつものすました表情で大岩カニの脚を両腕でがっちり受け止めている。


 岩を支えている後ろ左脚の関節をめがけて、青白い閃光と氷の弾丸が絶え間なく着弾する。関節部をついに突き破られ、ぐらりと大岩カニはよろめくとズシンと音をたて横転する。


 気力がきれたタマは竜体に戻ると、足場を求めふらふらしている脚に噛みつき食いちぎる。ひっくり返った大岩カニの胴部に、豪雨のように氷の弾丸が止まることなく降り注ぐ。


 大岩カニは横転状態から復帰できずに近寄ってくるタマへのけん制をするのに精いっぱいだ。タマの突然の変化に驚いたケニーは、茫然と声もなく竜の猛攻を目を見開き固まったように見つめる。


「そろそろ、潜水魔法をかけていただけないでしょうか?」

 懐から懐中時計をとりだし、時間を確認したエドに声をかけられ、ケニーは我に返る。千夏は絶え間なく魔法攻撃を行っているため、潜水魔法まで手がまわらない。


「あの竜にも忘れずにお願いします」

 ケニーは潜水魔法を全員にかけ終わると、戦闘地帯から20メートル程離れた。

 自分がいてもあまり役にたちそうにないし、邪魔になりそうだ。


 大岩カニは普段は温厚な魔物だ。気配を絶つことが得意で、目の前を通る魚を補食する程度で、人を襲ったりはしない。だが、一度暴れ出すと手がつけられない。多少動きは鈍いが、堅固な防御と長い脚による広いカウンターレンジを持つ。


 大岩カニと戦う場合、「3人以上の前衛が脚の攻撃を捌き、ヒットアンドウェイを繰り返す。前衛に大岩カニの目がいっている間に、後衛が魔法で岩を破壊する」が基本戦術だ。


 通常の倍の大きさでかつ魔法が効きづらいこの個体は間違いなくランクAに相当する。一人の前衛が直撃した攻撃を真っ正面から受け止めることなど有り得ない。それに普通の魔法使いならとっくに魔力切れになってもおかしくないのに、今もなお中級魔法をひきっしりなしで連発し続けている。


 すでに全ての脚を食いちぎった竜は、胴体を鋭い鉤爪でえぐり始めた。

「なんて奴らだ」

 ケニーは凄まじい猛攻を手に汗を握り締め見守る。


「ピュェ」

 ついに大岩カニは力尽き断末魔を残して倒れる。

 えぐっていた胴体から5センチ程の大きさの青い魔石を見つけ、タマはそれを咥える。咥えたまま短い二本足でよたよたとケニーに歩み寄り、くいっと口を開ける。

 目の前に鋭い牙が並んでいる口を向けられ、ケニーはびくりと固まった。先ほどまで大岩カニを食いちぎっていた牙である。固まるのも無理はない。


 エドが代わりにひょいと魔石を取り出す。

「さて、戻りましょうか。タマは人に戻って下さい」

 タマは頷き、小さな子供に戻る。

「いい子ですから怯える必要はないですよ」

 エドはタマの頭を撫でる。

「タマはいい子でしゅか」

「うん、いい子だよ」

 千夏はタマの小さな手を握る。


 嬉しそうに笑うタマに警戒するのが馬鹿馬鹿しくなったケニーは、タマの頭を軽くポンと叩く。

「魔石ありがとうな」

 竜だろうとなんであろうとも、頼もしい味方であることに変わりはない。


「さて、さっさと戻るか」

 さっぱりとした顔のケニーを先頭に船に向かって歩き出す。

 帰り道は特に魔物に襲われることはなく、港まで無事に戻れた。千夏以外は……。


 またひどい船酔いに苦しめられた千夏は、よろよろと船から降りる。

「……もう、船にしばらく乗らない」

「船の揺れに慣れていないから酔うのです。慣れれば酔いませんよ。ということで。明日も頑張りましょう。あと2つだそうです。頑張れば1日で終わりますね」

 沈む夕日にキラリと鬼畜眼鏡が光る。


 ソレハゴエイノシゴトナンデスカネ。

 げんなりと千夏はうなだれた。


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