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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
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海の中へ

「完全に押し付けましたね」

 エドはちらりと千夏を横目で見た後、アルフォンスにまとわりつく愛里に視線を移す。誰がみてもアルフォンス狙いであることははっきりとわかる。

「だって、断ってもしつこそうなんだもん」

 千夏は悪びれずにそう答えた。


 あの後愛里を連れて侯爵家に戻った千夏は、故郷でとある事故に巻き込まれた時の知り合いだと簡単に愛里を紹介した。


 愛里の知り合いが他にこの街に誰もいないので、ミジクの滞在期間だけ世話をしてくれないかとアルフォンスに頼んだのだ。アルフォンスはもちろんのこと、現在やっかいになっているヴァーゼ侯爵も千夏の知り合いならばと、快く引き受けてくれた。


 愛里は侯爵とアルフォンスに向かって優雅に一礼をし、感謝の言葉を述べる。顔を上げた時には、あどけない極上の笑顔を浮かべた。


 それが昨晩の出来事である。今は午前10時頃で、アルフォンスは走り込みの休憩中である。アルフォンスは侯爵家の見事な庭園の一角にある東屋で、お茶を楽しんでいた。東屋にはアルフォンスにぴったりとくっつく愛里と、居心地悪そうなセレナが座っている。

 エドと千夏は東屋から離れたベンチに腰を下ろし、彼らの様子を窺っていた。


「事故で知り合ったと言ってましたね。どのような事故だったのですか?」

「ん……、そうだね。乗り合い馬車が沢山連結している状態で、物凄い勢いで谷に落ちるみたいな事故かなぁ……」

「それじゃ、助からないでしょう。よく生きていましたね」

 呑気そうに答える千夏に、エドは胡乱気に突っ込む。


「(まぁ実際は死んじゃったんだけどね……)なんとか偶然ね……」と千夏は笑ってごまかす。

「とにかく大事故でね。同じ事故に巻き込まれたもの同士のよしみってことで、アルフォンスに会わせろといわれたのよ」

「それだけの事故であれば、微妙な連帯感が生まれるのも仕方有りませんね」


「それにアルフォンスのことを「馬鹿で頭が足りなさそうなので簡単に落とせる」って侮っていたのがちょっとムカついてね」

 千夏の言葉にぴくりとエドが反応する。眼鏡を押し上げ、冷やかな眼差しを愛里に向ける。

「それは確かにいただけませんね」



 ちょうどその頃、愛里におだてられたアルフォンスが、東屋を出て空に向かってファイヤーボルトを撃っていた。ひょろひょろと弱弱しい火線が空に向かって登っていく。満足げに微笑むアルフォンスに、愛里は「す、すごいですわぁー」と手を叩く。


「他の人にいわれるとむっとするんだけど、確かに馬鹿よね……」

「馬鹿ですね……」

 千夏とエドはしみじみとお茶を飲みながらその一幕を眺める。


 東屋のほうでは、どうやらシルフィンに急き立てられ、走り込みの続きが再開したようだ。アルフォンスとセレナは慌てて東屋を走り去る。ぽつんと取り残された愛里は、悔しそうにそれを見送っている。


「ところで、王都のほうはどうなってるの?」

 茶器を片づけ始めたエドに千夏は質問する。

「とりあえず各領主宛てに魔物に警戒するように指示が出たとか。といっても、ミジクから東の方は今だに転移出来ませんからね。指示書が届くまで時間が掛かりそうです」


「海のほうの魔石回収があまり進んでないの?」

「はい。潜水の魔法持ちが捜索にあたっていますが、海にも魔物が住んでいますからね。なかなか進まないようです。そう言えば、チナツさんは水魔法属性持っていますよね?」

「……潜水魔法は持ってないけどね……」

 嫌な予感がして千夏は明後日の方向をみる。


「潜水魔法は中級魔法ですから、転写可能ですよ」

 千夏が嫌がっていることを承知しながら、エドは話を続ける。

「シシールやゼンが魔物に襲われたとしても、今の私たちにはすぐに駆けつけることが出来ません。早急に結界を取り除く必要があるのはご理解いただけるかと存じます」

 つまり、やれということだ。千夏は面倒そうにぐてっと空を見上げる。


「水中って魔法がきくわけ?」

「火魔法は上級魔法でないと無理ですね。風や氷魔法がよろしいかと。あと気功術は問題なく使えますよ」

「氷の攻撃魔法も持っていないんだけど……」

「侯爵にチナツさんが捜索に参加することを伝えたら、すぐに魔法屋を呼び出してタダで転写してくれますよ」


 お金を払ってでもできればやりたくはない。水中ならタマを連れていくことも難しそうだ。

 水泳なんて、中学生のときくらいまでしか真剣に泳いだことはない。それも50メートルがやっとだ。


「泳げないと魔物とうまく戦えないのでは?」

「潜水魔法は水の中を普通に走ったりできますから大丈夫です」

「で、でもさー、今回私ひとりきりだと前衛がいなくて大変じゃない?アルフォンスは水属性持ってないし」

「ギルドから派遣された水属性持ちの前衛と組めば問題ありません」

 逃げ道がなくなった。どうやっても回避できないようである。


 であるならば、知らない人と組むより知っている人と組んでいったほうがましだ。

「ちなみに、その潜水魔法をタマにかければタマも連れていけるの?」

「可能です。ただ、水中で歩いたり、走ったりすることが出来るのは知っていますが、飛んで移動が可能かは……。タマの場合飛べないと攻撃速度が極端に落ちますからね。後衛なら可能でしょうが、前衛は無理でしょう」


「じゃあ、アルフォンスとセレナを連れて……」

「それはフェアじゃないわぁ。アルフォンス様は置いて行って。あの獣女は連れて行って頂戴」

 いつのまにやら、こちらに来ていた愛里が不機嫌そうに会話に割り込む。


 愛里の言っていることは理に適っているので、反対できない。

「セレナを連れていくにも、アルフォンスだけ残すと説得するのが大変じゃない?」

「そうですね、自分も連れて行けとおっしゃるでしょう。セレナさんも置いていったほうがいいでしょう。かわりに私が付いていきましょう。この件を言い出したの私ですから」


 セレナの残留に愛里はかなり不満顔だ。

 とりあえず、調査の参加についてエドが侯爵を話を通してくることになった。千夏は部屋で呼ばれるまで待機だ。


 千夏は部屋に戻った後、じっと座って待っているのが退屈になり、ベットに潜り込む。うとうとしかけた頃に、エドに起こされる。


「魔法屋がもう来てますから、転写をしてきてください。昼食を食べたら出掛けます」

「ふぁい……」

 目をこすりながら千夏はあくびを殺す。


 ベットをおり、エドに魔法屋が来ている部屋まで案内される。

 移動途中で、念話を使ってタマに話しかける。


(タマ、こっちのお昼ご飯食べ終わったら海の中にいくよ。もうすぐ戻ってこれる?)

(海でしゅか。すごいでしゅ。お昼くらいまでには帰りましゅ。それと、昨日見かけた男の人が西に向かって移動してましゅたよ)


 直樹のことらしい。愛里への気持ちにけりがついたのか、どこかの農村めがけて移動中だろう。彼が無事更生できればいい。


「こちらの応接室にいらしてます」

 エドが扉をたたくと、中から「どうぞ」と声が返る。応接室にはポチャリとした人の良さそうな中年男性がソファに腰掛けていた。


 応接室にいた魔法屋は羊のような巻角が耳の横についている。羊系獣人だ。

「侯爵様から承っています。お好きなだけおっしゃってください」

 にこにこと魔法屋の主人は千夏を見て笑う。


 千夏は潜水といくつかの攻撃魔法を転写してもらう。中級魔法の転写はかなり痛い。あまりの痛みに、しばらく休憩が欲しいとエドに訴えた。


「それでしたら、移動中の船でご休憩してください。タマも戻ってきましたし」

 とすっぱりかわされる。

 頭痛のあまり動けない千夏は、エドの右肩に荷物運びされて、港に転移する。


「ちーちゃん、大丈夫でしゅか?」

 タマが心配そうに尋ねる。千夏は思わずホロリ泣きそうになった。人間より竜のほうが気遣ってくれるとは……。


 千夏を担いだままのエドは、魔石調査隊の指揮所で今回調査対象の海域を聞き、さっそく船を出してもらうことにした。


 今回の船は小型の漁船で結構揺れがひどい。ただでさえ頭が痛いのに、船の揺れがプラスされて更に千夏は気持ち悪くなる。結局、我慢出来ずに千夏は海に向かってリバースする。

 女の子なのに……。今回の騒動の犯人めー!まじ殺す!

 千夏は呪詛をぶつぶつと呟く。


「海の中のほうが揺れがない分、楽かもしれませんね」

 千夏の背をさすり、介護しているエドは淡々と言った。タマは揺れる船に大喜びで歓声を上げる。


 しばらくの間、千夏にとって苦痛の時間が続きやっと調査予定海域に辿り着く。

 船を止めると、今回一緒に海底調査するケニーが全員に潜水魔法をかける。彼はまっ黒に日に焼けた逞しい体躯の海の男だ。この近海の海ならば知らないところはない。


「それでは、海に飛び込びこめ」

 ケニーが太い声でそう叫ぶ。タマは躊躇なく海にドボンと飛び込む。ヘロヘロな千夏はエドに引っ張られて、頭から海に落下する。


(ん?苦しくない)

 目を開けると綺麗な透明な海の中に千夏は漂っていた。体にかかる水圧は全く感じられない。呼吸も普段通りに出来る。


「こっちだ」

 ケニーは気軽に散歩しているように海の中を歩いていく。タマもケニーの後ろに並んで歩く。


 澄んだ海はとても見晴がいい。

 ゆらぐ海藻や泳ぐ魚がよく見える。キョロキョロするタマの目の前を、蛍光ピンクとライトグリーンの縞模様の派手な小さな魚の群れが横切っていく。


「ちーちゃん、綺麗でしゅ」

 魚の群れを手で追いながら、タマは興奮して叫ぶ。千夏も綺麗な景色に一瞬我を忘れて見とれる。


「反応はこっちだ」

 案内係ケニーに先をせかされ、海底の方へと歩いていく。海の中でどの方角に進もうが自然と足がついている角度に平衡感覚が調整されるらしい。

 すっかり吐き気もどこかへ飛んでいった。

 千夏は海の中の散歩をいつの間にか楽しんでいた。

切りが悪いですが、続きます・・・

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