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ゼンの街

「まったく死んでるのかとおもったぜ」

 ヨザックは馬の手綱を捌きながら大きな声で言った。

 千夏を拾ってくれた男はヨザックといい、サルーア村の農夫だ。


 サルーア村とは千夏が寝ていた場所を西に10キロ程いったところにある小さな農村だった。

 彼は二日後に遠くの村に嫁いだ娘が初孫を連れてサルーア村に戻って来るので、ゼンの街へ普段食べないようなちょっと豪華な食糧を求めに馬車を走らせてきたらしい。

 

 目的のゼンの街はこの森を抜けて2キロほど東にいったところにある。ヨザックは大の字に道に転がっている千夏を見つけ、今はゼンの街へ連れて行ってくれる気のいい男であった。


「ちょっと豪華な食事か……どんな食べ物なの?」

 千夏はまだ見ぬ食べ物に興味津々だった。


「そうだな、まずは肉だな。ホロホロ鳥の丸焼きにしようと思ってる」

「丸焼き!」

 ホロホロ鳥がどんな生物なのかはわからないが鳥といってるのだから鳥肉だろう。千夏は思わずよだれが出そうになる。


「おうよ、身がしまっていてなかなかうまいぞ。その分値が張るけどな」

「お金か……いくらくらいするの?」

「そうだなぁ、今の時期だとだいたい銀貨5枚くらだろうな」


 千夏のアイテムボックスに入っているお金は金貨10枚。普通銀貨より金貨のが高いはずなので十分買える額ではあるが、千夏には貨幣の価値が判らない。

「銀貨1枚で黒パンは何個買えるの?」

「ん?何言ってるんだ。黒パンは銅貨1枚だから……10個だな」


(銅貨が1枚100円くらいか。それで銅貨10枚で銀貨1枚ってことよね)

 とりあえず持っている貨幣が金貨のみなので、ホロホロ鳥を買っておつりから金貨の価値を計算すればいいや千夏はと軽く考えた。


(5000円の鳥肉かぁ)

 問題は鳥を買って調理をどうするかだった。オーブンとかあるのだろうか、この世界に。正直自分で調理するのは面倒くさいし、調理器具や調味料がわからない。


(でも食べたい……うーんどうするかなぁ)

 一瞬ヨザックの家にちゃっかり紛れ込むことを考えたが、さすがに空気を読まなさすぎだと千夏は思い止まった。


「鳥を買った後に調理してくれるとこあるのかな?」

「嬢ちゃんはゼンの街に住んでない……よな?」

 何言ってるんだコイツという顔をしてヨザックが千夏に尋ねる。


「そうだよ、この辺来るのは初めてだし。(世界自体初めてだけど)宿をとるつもり。あ、もしかして宿で調理してくれる?」

「まぁそうだな。金と材料を出せばどこの宿でもやってくれるけどよ、1人じゃそもそも食いきれねぇだろ。ホロホロ鳥一羽で10人分あるしよ。食いきれない分は宿に買い取ってもらえばいいだろう」

(10人分か……食べ応えありそう。いままでがんばって3人分くらいしか食べれなかったしね)


「お、ゼンの街が見えてきたぜ」

 ヨザックがやや身を乗り出して右手を指し示す。示された方向に視線を移すと、石作りの城壁にぐるりと周りを囲まれた町並みが見えてきた。


 広さとしては東京ドーム3つ分くらいだろうか。手前側には色とりどりの布の屋根が見える。たぶん露天商だろう。

 奥に行くにしたがって木で作られた家から石造りの強固な家になっていき、一番奥にかなり広そうな屋敷が一軒建っている。


(領主さんのおうちかな。いいなぁ領主。寝ていても税金で食べるの困らなさそう……)

 もちろん領主はそんな簡単な仕事ではない。


 しばらくすると城壁の入口といえる大きな門の前に馬車は辿り着く。数人の門を守る兵士が門の右側にある小さな詰所の前に集まっている。どうやら街に入るための検査を行っているのだろう。


(さて、どうするかな……)

 もちろん千夏は身分証明書など持っていない。

「ゼンの街へようこそ。身分証の提示をしてくれ」

 ヨザックの馬車が詰所前で停止する。ヨザックは首からヒモでぶらさげていた身分証を提示する。


「お嬢さんは?」

 兵士がちらりと千夏をみる。

「えっと……私身分証もってないんです。これから冒険者ギルドで作ろうかとおもっていて……」

 千夏は仕方なく正直に答える。


「そうか……身分証がないのであれば、ちょっと時間がかかるな。こっちに来てくれ」

 少し面倒そうな顔をして兵士が詰所のほうへと指をさす。とりあえずすぐには御用になるわけではないらしい。転生先にこの世界が選ばれた理由が簡単に身分証が発行できる点である。千夏は面接官が大丈夫だと言っていたことを思い出す。


 千夏は馬車の御者台から降りると心配そうなヨザックにぺこりと頭を下げる。

「ここまで連れてきてありがとう。とても助かりました」

「いいってことよ。まぁ気をつけてな、嬢ちゃん」

 ヨザックはそう言い残すと馬車を走らせ門の中に去って行った。ヨザックを見送ってから千夏は兵士の後について詰所へ歩いていく。


「一応決まりなんで、犯罪歴があるかどうかだけ検査させてもらう。特に問題がなければ街の通行税として銀貨1枚払ってもらえれば中に入れる」

 詰所はこじんまりとした部屋がふたつだけあり、奥のほうの部屋へと千夏は案内された。

 兵士の数が3人に増える。念のため千夏が犯罪者だった場合を考えての対応だろう。


 入った部屋の中にあるテーブルに拳大の水晶玉が置いてあった。それに触るように兵士は千夏に促す。水晶玉が赤く光れば犯罪歴があるそうだ。

(赤く光るってどうやって管理してるんだろう……)

 疑問に感じながらも千夏は素直に水晶に触る。もちろん赤く光るわけがない。


「よし、問題なしだ。通行税は銀貨1枚だ。身分証が出来たら払わなくて済む」

 千夏はアイテムボックスから金貨を取りだし兵士に渡す。

「ほう、空間魔法が使えるのか。珍しいな」

 兵士が驚いたように千夏を見る。どうやらアイテムボックスはあまり一般的なものではないようだ。


「ほら、おつりの銀貨9枚だ。冒険者ギルドの場所は判るか?」

「いいえ。教えてもらえるとありがたいです」

 こっちだといいながら一人の兵士が門の中に入っていく。千夏はその後をついて行く。門の中に入った後兵士は真っ直ぐな一本道を指さした。


「この道をしばらくいって、左側にある大きな建物が冒険者ギルドだ。看板も出ているしすぐに判るだろう」

 千夏はお礼をいって道を歩く。道の両側に並んでいる露天商をちらちらと見ながら。

(あー、ホロホロ鳥が売ってるところを聞きそびれた……)


誤記、脱字を修正しました

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