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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
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修行の始まり

 お昼を食べ終えたあと、エドはシャロンとハイマンを侯爵家まで送っていった。

 残った3人はエドが置いていった天幕を、カンドックの庵の近くに組み立てている。


 タマは竜に戻って、ご飯を食べに出かけていない。竜に戻ったタマを見てもカンドックは驚きはしなかった。膨大なタマの気でわかっていたのかもしれない。


「修行って何をするのよ……」

 千夏はぶつぶつと文句を言いながら、打ち込まれた杭に天幕のロープを巻く。

(さぁな。この森は体鍛えんのに向いておるしな。これ作り終わったらセレナとアルフォンスは森で走り込みな)

 二人の師匠気取りのシルフィンが楽しそうに言う。


「走り込みなら、東のほうがいいだろう」

 話を聞いていたカンドックが右の方を指さす。東側にしばらく進んだところに小川が流れていて、休憩するのに適しているとカンドックは言う。


「また森に入ったら、迷子になるんじゃないの?」

(おいらが一緒にいくから、大丈夫や。ほな、いくで)

「行ってくるの」

「また後でな」

 二人は東の森の中に走り去って行った。まったく物好きな……と千夏は去っていく二人の背中を見送った。


「さて、こっちもはじめるか。チナツ、そこに座れ」

 カンドックから言われて千夏は渋々言われた場所に座る。

「ちと痛いから気を付けろよ」

「痛いっていったい……」


 千夏が文句を言い切る前にカンドックは素早く体の気を手のひら大に貯め、千夏に打ち込む。ドンと音がして千夏の中にカンドックが打ち込んだ気が入り込む。


 気が入り込んだ瞬間、あまりの痛みに千夏は声を詰まらせ、前のめりに倒れこむ。

 体中がびりびりと痺れたようにこわばる。


「すぐに痛みはとれる。どうだ?」

「……っなにするのよ!」

 がばりと体を起こし千夏は目の前のカンドックを見上げが、すぐに体の異常に気がつく。


「なんか、視界がおかしい……」

 千夏は目をこすりながら茫然とする。目の前に10メートルくらいの青白い大きな炎のような渦まいた塊が見える。先程までカンドックがいたはずなのに、どこにも姿が見えない。

 青白い大きな炎は凄まじい圧迫感を発していた。思わず千夏は後ずさる。


「俺の気をいれて、チナツの気を活性化させた。俺の気が見えるだろう?」

 目の前のにある炎からカンドックの声が聞こえる。

「青白い炎がみえるだろう?それが気だ。右のほうを向いてみろ」

 千夏は言われた通りに、こわごわと右のほうを視線を向ける。小さな30cmくらいの気が2つと1メートルくらいの気が1つ見える。


「小さいのがセレナとアルフォンスだ。ちょっと大きいのがあの剣だな」

「……セレナとアルフォンス……シルフィン……」

 千夏は遠ざかっていく3つの青い炎を見て呟いた。

 3人は森の中に居るはずである。しかし、千夏の視界は青い炎が見えるだけで、他は真っ暗だ。景色が何も見えないことに千夏は怖くなる。


「今度は後ろを見てみろ」

 落ち着いたカンドックの声がまた聞こえる。

 千夏は後ろを振り返る。そこには、最初に見た青白い炎と同じくらいの大きな渦巻く炎が見える。


「あれはお前の仲間の竜の気だ」

「あれが、タマ?……大きい」

「まだ幼竜だからあんなもんだ。成竜になったら倍はでかくなる」

 淡々としたカンドックの声を聞いていた千夏は突然くらりとめまいを起こす。目の前の気にあたったのだ。


 倒れこみそうになった千夏の体をすぐさまカンドックが掴んで支える。千夏には気しか見えないので、カンドックに支えられていることに気が付かない。


「最初は慣れ親しんだ者の気か、大きな気しか見えないだろう。しばらくすればその感覚に慣れて、普段どおりに目が見えるようになる」

 そう言うとカンドックは千夏を抱き上げた。


「なっ何?!」

 千夏には突然自分の体が宙に浮き、運ばれていることしかわからない。見えないという事がこんなに恐ろしいことなのかと初めて千夏は知った。


「今日はその視界に慣れるまでゆっくりしていろ。今、天幕に連れて行ってるところだ」

 天幕の中に着くと、カンドックは千夏をゆっくり下ろした。千夏は横になりながら、手を動かす。手に毛皮の感触が伝わってくる。先程自分で敷いた敷物の毛皮であること、今天幕の中で横たわっているということを千夏は理解する。


「どのくらいで視界が戻るの?」

「人によって違うからなんとも言えんな。早ければ今日中に回復するし、遅ければ3日ほどかかる」

「眠ったら、視界が戻るのが遅れる?」

「いや、別に問題はない」

 千夏は目を閉じる。しかし、カンドックの凄まじい気は目を閉じてもはっきりと見える。


「とりあえず、ここで横になってるよ。それから、次から何かやるときは説明してからやって」

 千夏はカンドックらしき気を睨み付ける。最初から説明してくれていれば、こんなに不安になる事はなかったのだ。


「痛いというと嫌がるかと思ってな。分かった。次からはそうする」

 千夏に叱られ、カンドックは素直に謝る。千夏からの返事はなかった。目を閉じたまま動かない。


 カンドックはそのまま天幕を出て、森に向かった。自分が近くにいると、今の千夏にはキツイことを理解していたのである。

 千夏は遠ざかっていく気を感じ、少しほっとする。起きていても目が見えないと動き回ることは出来ない。千夏はそのままふて寝する事にした。



「チナツ、晩御飯が出来たけど食べれるの?」

 セレナの声で千夏は目を覚ました。目を開けるとぼんやりだが、セレナと天幕が見える。セレナの気はセレナの心臓あたりに小さな球状となって浮かんで見える。

 千夏はゆっくりと体を起こし、不快なめまいが起きていないことを確認する。


「ちーちゃん、大丈夫でしゅか?」

 大きな気に包まれたタマが天幕に入ってくる。シャロンがいないので竜のままだ。

 寝る前に感じた凄まじい圧迫感は消えていた。


「ん。大丈夫そう」

 千夏はそう答えると、ゆっくり立ち上がり天幕を出る。すでに日は暮れており、夜空には青白い月が輝いていた。ぼんやりと見えているのは単純に暗いからであり、煌々と燃え上がるたき火の近くにいくとすでに食事を始めているアルフォンスとエドの顔がはっきりと見えた。

 普段通りの視界に千夏はほっとする。


「お、チナツ起きたのか。大丈夫か?」

 アルフォンスが食べるのを止め、近寄ってきた千夏に声をかける。どうやらカンドックはいないようだ。森のほうにカンドックの気を感じる。


「大丈夫。でも、まいったよ。いきなり気をぶつけられて痛かったし、そしたら視界に気しか見えなくなるんだもん」

 千夏は空いている椅子に座りながら愚痴る。


「どの師匠も厳しいの」

 セレナも千夏の隣の椅子に座り、今日の走り込みを思い出し疲れたように溜息をつく。密林の中を道を切り開きながら走り続けたのだ。足場が悪く、草に足を取られる。走るために強引に足で草を引き千切ったのだ。足腰がかなりだるい。


(なんや、なんか文句があるんか?)

「別に。厳しいといっただけなの」

「まぁ、厳しいけど持久力はついたな。だいぶ動けるようになった」

 アルフォンスは焼き魚を齧りながら答える。出会ったときは色白であったアルフォンスは、今や日に焼け少し逞しくなっている。


(そやろ。せやけど、まだまだ半人前や)

「頑張るの」

 セレナもたき火から焼けた魚を取り上げると、黙々と食べ始めた。食べておかないと体力がもたないのである。


「ところで不思議な気ってのは、何か見えるのか?」

 千夏が焼き魚を取り上げたところで、アルフォンスが尋ねてくる。

「んん………」

 千夏は地面をじっと見つめる。よく見ると微量ではあるが、地面から青紫色の気が立ち上っている。

「なんとなく見えるかな」

 これが不思議な気なのか千夏には判断がつかなかった。気が見えるようになってから他の土地を見た事がないからだ。


「問題はどのくらいここにいれば、少し強くなれるかなの」

「そうだな。最大滞在日として、あと20日か」

 アルフォンスは指を折りながら、社界デビューまでの残りの日にちを数える。


「それではギリギリになってしまいます。ここから王都に転移するとしても、最大であと二週間と考えてください」

 エドはスープを千夏とセレナに渡しながら、アルフォンスに注意をする。王都に着いてから夜会用のタキシードを作りなおさなければならない。今のアルフォンスの肌の色だと事前に作っていた服が若干合わないのだ。


「もともとシシールに後5日滞在する予定でした。そこで一旦判断してみるという方針で、よいのではないでしょうか?」

「そうだな。そうするか」

 エドの提案にあっさりとアルフォンスは頷いた。


「あのでしゅね、シャロンがまた遊びたいと言ってたでしゅ」

 人に変化して一緒に焼き魚を食べていたタマが思い出したように言う。先程森で食事を済ませていたが、タマはみんなとご飯を食べることが楽しいのだ。


「明日は食料や日用品を買いにシシールに行きますから、そのときに予定でも聞いておきましょう」

「ありがとうでしゅ!」

 タマはエドにお礼を言うと眠くなったのか、ふぁと欠伸をする。


「チナツ。お風呂を出して欲しいの」

 今日は穴に落ちたり、走ったりでセレナも疲れていた。お風呂に入ってさっさと眠りたかった。

「いいよ。私も入りたかったし」

 千夏は立ち上がるとお風呂の準備をはじめる。


 思いもよらなかった島生活の初日がやっと終わるのであった。

脱字を修正しました。

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