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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
34/247

合流

 青みがかかった短い銀髪。背筋はピンと真っ直ぐ伸び、老人とは思えないほどしなやかな体つきをしている。少しすりきれた黒の道着を着ており、その背には仕留めたばかりの老人よりも大きな猪が担がれている。


 長い年月を生きてきた証拠のしわだらけの顔には、少したれ下がった穏やかな緑の瞳があり、興味深そうに千夏をみている。

 カンドックと呼ばれる老人はそんな外見をもつ人間であった。


 あの後、穴から地上まで転移を使い、千夏とセレナは脱出していた。

 戻った地上周辺は何か大きな魔物が暴れまわたような無数の切り株や倒木が点在しており、視界を遮るものはなかった。乱暴に作られた空地は半径40メートルくらいで、その周りを先程までの密林が囲っている。


「なんでこんな不便なところに住んでいるのよ!おかげで大変だったじゃない」

 向かい合った3人の最初の会話は千夏の苦情から始まった。

「そうかい?食い物はいっぱいあるし、修行にはもってこいの島だ。不便は感じたことはないな」

 ほらと、カンドックは背にしょっていた猪を千夏の目の前にドンに置く。

「島に入った複数の気を感じたんで、昼飯に猪鍋でも作ろうかと思って獲って来た」

 鍋?とすぐに千夏の興味は猪に釘付けになる。


「セレナなの。カンドックさんのおうちに案内してほしいの」

 セレナは名乗り、ぺこりと挨拶がわりに軽く礼をする。

「せかして悪いの。でも、まだ他の人が森で待っているの」

「ハイマンたちか」

「わかるの?」


「ハイマンは一度会ったことがある。一度会えば気紋でわかるさ」

 カンドックはカカカと笑い、猪を背負いなおす。

「こっちについてきな。何もないところだけどよ」

 そう言ってカンドックは歩きだす。


 カンドックが進む方向は小さな道が出来ている。そこだけは、木や草が排除されていた。きっとカンドックが作った道なのだろう。

 落とし穴のあった空地から5分ほど歩くと、小さな木で出来た庵が見えてくる。庵の半径30メートル程は、樹木が排除された空間となっている。こちらには切り株すらもない。


 庵に入ってすぐ土間があり、水桶や薪が置かれていた。土間からすぐに上がった処には4人くらいが囲める、小さな囲炉裏がある。あとは奥に小さな部屋があり、そこはカンドックの寝床だ。


 カンドックは猪を土間に下ろし、水瓶から柄杓で水をすくいセレナに向き直った。

「ほれ、怪我しただろう。一応洗っておけ」

 セレナは素直にすり傷だらけの左手を差し出す。カンドックに傷口を洗ってもらい、ポーチからヒール草で作られた治療薬を傷の上に振りかける。ゆっくりとセレナの傷が癒えていく。


 千夏も水をもらい少し擦りむいたおでこと顔を洗う。少しさっぱりした千夏は、早速待っている仲間を迎えに転移した。


「人数が多いから、ここには入れんな。鍋は外で作るか。セレナ、外で薪火を作っておいてくれ」

「わかったの」

 セレナは薪をできるだけ持って庵を出る。少し庵から離れた場所に薪を置き、ポーチから火打ち石を取り出し、火をつける。


(せやけど、あないなトコから落ちて殆ど怪我しておらん千夏はやっぱし化けもんや。普通やったら死んでるぞ。)

「化け物とか言わないの。チナツはチナツなの」

 訝しそうに言うシルフィンにセレナは怒って言い返す。


 セレナにも、千夏は普通とは違うことはなんとなく判っていた。普通の魔法使いが魔力切れを起こすような状況でも平然と魔法を操ったり、鍛えていないのに密林を疲れを見せずに歩いていたりしているのだ。それに、一度に食べられる量も半端ない。

 セレナは千夏がもし魔族だとしても構わない。自分とは違うものというだけだ。

 面倒くさがりで食い意地が張っている、一緒に旅をする仲間なのだ。


「確かにあの子は普通とはだいぶ違うな。でも気は澱んではおらんよ」

 いつのまにやら鍋を片手にもったカンドックがすぐ傍に立っていた。

(いつのまに!)

 シルフィンとセレナは驚きながら目の前のカンドックを凝視する。


「ついさっきだ。一人暮らしが長いんでな、気配を消すのが癖になっとる。立ち聞きしたようで、すまなかったな」

 ぽりぽりと頭をかきながらカンドックは素直に謝る。


(おいらの声が聞こえとるのか?)

「ああ。小さくて聞きづらいが、聞こえてるな。剣から気が漏れておる」

 カンドックは鍋をたき火にかけ、薪を火に放り込む。


「どうやら来たようだ」

 カンドックがそう言った瞬間に、庵の近くに千夏たちが現れる。

「ただいまー。あ、鍋だぁ」

 千夏はすぐにたき火の近くに寄って来て、鍋の中を覗き込む。


「カンドックさん、お久しぶり」

 ハイマンがカンドックに挨拶をする。それに続いて、各自が名乗り挨拶をする。そこで千夏は自分が名乗っていなかったことにようやく気が付く。

「千夏です。あ、これトムからの紹介状」

 アイテムボックスからトムの紹介状を取り出し、カンドックに渡す。


 カンドックは手紙を受け取ると懐に仕舞い込み、軽く鍋をかき混ぜる。

「とりあえず、飯にしようや。まだ猪肉はあっちにある。鍋や食器があるなら出してくれ」

 エドはさっそく薪や大きな鍋を取り出し、食事の支度を始める。


「元気でたの?」

 セレナは顔色が良くなったシャロンに話しかける。

「ご心配おかけしました。大丈夫です」

 シャロンは元気よく答える。


「タマも元気でしゅよ」

「うん。元気が一番なの」

 セレナはタマの頭を撫でながら笑う。


 シャロンは森で待っていた間に見た鳥や兎の話をセレナに楽しそうに話しだす。

 話を聞いている間に「食事ができました」とエドに呼ばれ、3人はみんなが待つたき火に向かった。


「しかし、この森にはまいったよ。前に来た時とでは全然違っているし」

 ハイマンが猪肉を食べながら、カンドックに愚痴る。

「この島は、不思議な気が満ちておる。そのせいで植物の成長が凄まじい。冬になると枯れて、夏になると一斉に成長する」


「シシールの近くにこのような島があるとは思ってもいませんでした。他の島も同じなのでしょうか?」

 カンドックの話に興味を持ったシャロンが話に加わる。

「いいや、この島だけだな。なんでかは俺にはわからないが」

「不思議な気とはどういうものなのだ?」

 不思議が大好きなアルフォンスも会話に参加する。


「よくわからん。だが、この島に長くいると植物だけじゃなくて、人や魔物も島から出ている不思議な気を取り込んで強くなる」

「強くなれるのか!」

 アルフォンスが目を輝かせた。セレナも興味津々だ。


「気力は生まれもった力で、成長はしない。厳しい鍛錬を積めば、少しだけ上がる。だが、この島は住むだけで気力を底上げしてくれる。

 ここに住んで30年程だが、俺の気力は住む前と比べて何倍にも膨れ上がった」

「しばらく、ここに住むぞ!」

 カンドックの話を聞いたとたん、アルフォンスがそう宣言する。


 はぁ……と千夏は溜息をつく。

 セレナもアルフォンスの意見に賛同しているし、エドはアルフォンスがここに住むなら一緒に残ることになる。千夏だけ侯爵家に戻るわけにはいかない。

(なにが楽しくてサバイバル生活をするのよ……)

 千夏は唯一の味方のはずのエドを見たが、エドは軽く肩をすくめただけだ。


「俺の土地じゃない。好きにしろ」

 カンドックがそう答えると、アルフォンスとセレナは喜んだ。千夏はがっくりと肩を落とす。そして、カンドックは千夏の不幸に後押しをするように言った。


「ただし、チナツは修行をしてもらう」

 気を読めるんだったら空気も読んでよ!と千夏は心の中で叫んだ。


誤記と脱字を修正しました。


書き溜めがなくなりました。

ここから1日1話になります。

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