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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
王都に出かけよう
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パワン海

「わぁ、すごいの」

 セレナは港にずらりと浮かぶ大小様々な形をした船を見回す。キツい潮風が興奮で少し赤くなった彼女の頬を撫でていく。

 一行はこれから船に乗ってシシールから少し離れた小島に向かうのだ。トムの師匠であるカンドックに会うためである。


 本当は千夏一人で行くつもりだったが、伝説の気功術の使い手にアルフォンスが興味を持ったのだ。あとは芋づる式に人が増えていく。


 更にタマが行くならと、シャロンもついて行きたいと言い出した。普段はわがままを言わない息子のお願いに、侯爵は返事を一旦保留にした。


 もともと千夏の道案に、カンドックの住処に行ったことがある近衛隊長をつけることになっていた。侯爵は近衛隊長と相談し、特に問題がないということでシャロンの同行も決定した。


 近衛隊長はハイマンという名の、がっしりした体格の虎の獣人で大きな槍を使う。

 朗らかな人柄のようで、タマと手を繋いで船の簡単な説明をしているシャロンを愉しげに見守っている。


 総勢6名と1匹、1本(?)は侯爵家の避暑用小型船に乗り込んだ。動力は風力で白い帆が海風でバタバタとたなびいている。

 桟橋につないでいたロープがほどかれ船が出航する。


 思っていたよりも波が穏やかで、千夏はホッとする。船とは相性が悪いらしく、元の世界ではよく酔ったのだ。船は風を捕らえ軽快に進んでいく。


 セレナは生まれて初めて船に乗ったので、船首で飽きることなく流れていく景色を楽しんでいる。シルフィンも船にまとわりついている風妖精と何やら愉しげに会話しているようだ。


 千夏もじぃっと海を覗き込む。日本近海の汚れて淀んだ海とは全然違う。青緑に澄んだ海は、海の中で泳いでいる色とりどりの魚達がハッキリと見える。

 セレナほどはしゃいでいないが、千夏も素晴らしい景色に感動して固まっていた。


 いつもなら一番にはしゃぐアルフォンスは、パワン海にいる魔物についてハイマンに質問していた。

「さすがにクラーケンはここいらには出てこないよ」

 ハイマンは笑いながら答える。


「じゃあ、イビルシャークかオオカマウオくらいか」

「どちらかというとオオカマウオのが注意が必要ですぜ。いきなり飛び出してきて鋭い背びれでばっさりでさぁ」

 ハイマンはそう言いながら、船縁にあまり近寄らないように大声で注意をする。タマとセレナがそれぞれ船縁にひっついていたからだ。


 1時間くらい経つと、カンドックが一人住む小さな島が見えてくる。ハイマンが簡単な島の説明をする。

「あの島はカンドックさんしか人はおらん。魔物はそれなりにいるが強いやつは、カンドックさんが倒しているからよっぽど油断しなけりゃあ大丈夫だ。シャロン坊ちゃんはひとりで動かないでくだせぇ」


「はーい。タマも一人で歩いたらダメだよ。危険だからね」

 元気よくシャロンは返事をしながらタマにも注意する。タマも「はーいでしゅ」と元気に答える。

 見た目は可愛らしい子供だが……


「ねぇ、いつまでタマが竜だってこと黙っているの?」

 千夏はアルフォンスをじぃっと見る。

「あそこまで仲がいいと言いづらい……」

 シャロンにとって初めて出来た友達なのだ。


 キミノオトモダチハ、ニンゲンジャナイヨ。


 確かに言いづらい。かといって騙しているのも微妙である。

「とりあえず、その件はアルフォンスに任せたから」

 千夏は責任の所在だけハッキリさせておき、この件はバレたらバレたでもうしょうがないと割り切った。


「今話しても後で話してもどちらにせよ、シャロン様に嫌われますね。まぁ早いほうが良いかと。嫌われ具合が少し軽いでしょう」

 エドが軽くため息をつき、煮え切らない主に助言する。


「どちらにしろ嫌われるのであれば、自然に任せよう」

 アルフォンスがそう宣言したことにより、パーティーの方針が決定された。


 船員達が慌ただしく船の中を走り始めた。

 もう上陸なのだ。帆を巻き上げた小型船が島の浅瀬手前で止まる。船員が小さなボートを二隻海へと下ろす。

 ここからはボートで島に渡るのだ。


「気をつけて、万が一落ちたとしても浅瀬です」

 千夏は先にボートに降りているエドが差し出した手を掴む。

「確かにそうだけど、縁起悪いこと言わないで欲しい」

 千夏は不満げに言いながら無事にボートに降りる。


 全員がボートに移ると逞しい船員さんとハイマンがオールでボートを漕ぎ出した。

 ぐんぐんと白い砂浜へとボートは辿り着く。


「よし、全員降りたな。ここまで連れて来てくれてありがとう。またな」

 アルフォンスが船員達に礼を言う。気をつけてくださいねと返事をして、船員達はボートで船に戻っていく。


「帰って行っちゃったけど、帰りはどうすんの?」

 千夏は港に戻っていく小型船を見ながらアルフォンスに聞く。

「いつ戻ってくるかわからないので、帰りはエドか千夏の転移で戻る」

「なるほど。長居をするつもりはないから、さっさと行ってとっとと帰ろう」


 千夏は島の中に向かって歩き出したが、さらさらの砂にズブズブと足が沈んでいく。砂に埋もれた足を無理やり引き抜くが、重心の移動で逆の足が埋もれた。

「す……進まない」

 他の人は?と千夏は周りを見渡す。


 セレナは勢いをつけて軽く飛び跳ながら砂浜を脱出。シャロンとタマはハイマンに担がれており、ハイマンは脚力にものをいわせて強引に突き進んでいく。

 ハイマンには劣るが毎日の走り込みで鍛えたアルフォンスもザクザクと砂浜を横断していく。

 残るは千夏とエドである。


 少なくとも千夏は自力で砂浜を脱出出来ない。

 不安げに千夏が自分を見ていることに気がついたエドは、かちゃりとメガネを押し上げ千夏に聞いた。

「抱き抱えていきます?」


「……冗談だよね?」

 千夏は引きつったように答える。

「冗談はさておいて、さっさと行きましょう」

 エドは千夏の肩に手を置き、魔法を発動する。


 目の前にそびえる森林地帯の入り口に超短距離転移する。

(ああ、思いつかなかったわ。本当、魔法って便利なのね。)

 千夏は少しだけ賢くなった。



 何はともあれ、彼女達はこの島に辿り着いた。

 千夏は後で、ここで転移して帰っておけば良かったとすごく後悔するのである。

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