妖精剣
「セルレーン王国ですか?聞いたことがない国ですね」
タマ以外が全員が揃った夕食の席で、セレナはセルレーン王国を知らないかとエドに聞いてみた。
エドが知らないとなるとお手上げだ。
(あかん、こいつ使えへんなー。もっと物知りはおらへんのか?)
シルフィンはぶつくさと文句をいう。
その罵倒にぴくりとエドが反応し、じっとセレナを見つめる。
「なにやら紛れ込んでいるようですね」
ちょっと怒っているようなエドに見つめられ、セレナはひやりとする。
シルフィンの声は村長以外の全員聞こえているようであった。
(お前と同じパーティーやったら、おいらの声が聞こえるように魔法を使ったんや。お前を通して喋っているから、お前が近くにいないと聞こえへん)
結局、セレナはおどおどとしながら、今日のあった出来事について説明をした。
「妖精が宿った剣だと!見せてくれー!」
話を聞き終わったアルフォンスはすぐさま席を立ち上がった。が、隣の席についていたエドにすぐさま引き戻される。
「お食事中です。食後になさい。なるほど。事情は判りました。恐らくすでに滅んだ国なのでしょう、そのセルレーンという国は」
(なんやってー!)
シルフィンが驚いてキンキンと響く高い声をあげる。
「う、うるさいのが一人増えた……」
千夏は耳を押さえながら呻く。
「300年も経っているのです。国の興亡があってもおかしくはありません。判りました。後で調べてみましょう」
エドはナプキンで口元を拭う。
そして食後、早速アルフォンスはセレナから剣を受け取った。
「確かに鞘の意匠は素晴らしいな。ん?……ん?なんだ、剣が抜けないぞ!」
なかなか剣が抜けないアルフォンスは鞘を両足の間に挟み、柄を握って引っ張り始めた。
(アホかい。持ち主やなきゃ抜けへん)
小馬鹿にしたようにシルフィンが笑う。それを見たエドがひょいっとアルフォンスから剣を奪うと、屋敷の窓から剣を外に投げ捨てる。
(なにすんねん!)
窓の外からシルフィンのどなり声が聞こえてくる。
「捨てられたくなかったら、言葉を慎みなさい」
エドは眼鏡を押し上げながら外に向かって言い放つ。
セレナは慌てて剣を拾いに外へと飛び出していった。普段の言動と一致しないエドの態度をみて千夏は小首を傾げたが、次のエドの一言で納得した。
「馬鹿に馬鹿といっていいのは私だけです」
とりあえずセレナはシルフィンにエドを怒らせると、最悪空間魔法でどこかに飛ばされる恐れがあることを説明した。
「あの人は恐ろしいの。逆らっちゃダメなの」
(………わかった……せやけどアホと馬鹿はちゃうんやで……)
渋々とシルフィンは頷く。
妖精剣を腰に差して戻ってきたセレナをアルフォンスは剣の稽古に誘う。
それをしり目に、千夏はタマを出迎えに村の入口へと向かった。竜笛を吹くとタマから(すぐ戻るでしゅ)と念話が届く。
タマからの返事を聞き、そういえばある程度の距離ならば、従魔と意志の疎通がとれると従魔屋が言っていたことを思い出す。今度から入口に行く前に念話して、戻ってきたのを確認した後に迎えに行くことにする。
しばらくするとタマが戻ってきた。
「ちーちゃん、ただいまでしゅ」
そういうとタマはいつものように千夏の頭に止まる。
「ん。おかえり。このあたりの魔物はどう?」
「ゴブリンが多いでしゅ。あとサーベールタイガーがいたでしゅ」
一人と一匹は人通りが少なくなったメイン通りを会話しながら村長の屋敷に向かう。
「サーベルタイガーって強いの?」
「ゴブリンに比べると数段つよいでしゅ。素早いうえに力も強いでしゅ」
(はて、いったいタマは今どのくらい強いのかなぁ……)
と千夏はふと気になった。いくら竜といっても生後二週間くらいの幼竜だ。
「危なくなったらすぐ逃げるんだよ」
「はいでしゅ」
タマはこくんと頷く。
(あぁ、うちのタマは素直でいい子だな。あの妖精とは大違いだね。セレナは苦労しそうだなぁ……)
その頃セレナは文字通り、剣に振り回されていた。引き抜いた剣が勝手に動き回る。剣に振り回されながら必死に体を動かす。シルフィンの剣の稽古は一方的であった。
「な、ちょ……!」
アルフォンスは次々と隙なく打ち込まれ、どんどんと後ろに下がっていった。
(甘い、甘い!蜂蜜よりも甘いわぁ!)
最後はアルフォンスの喉元ギリギリに妖精剣がピタリと止まる。
「……まいった」
息を切らしながらアルフォンスがそう言うと、意志をもった剣は普通の剣へと戻る。セレナも息を大きく乱し荒い呼吸を繰り返していた。
(二人とも動きが遅いし、体力がなさすぎや。アカンあかん。明日から走り込をやるんや)
「「はい」」
ぐったり項垂れながら二人は返事をする。どうやらシルフィンはスパルタ教師タイプであったようだ。
様子を窺っていたエドはこれなら問題ないだろうと中庭を後にする。
エドとすれ違うように千夏とタマが中庭にやってくる。
「稽古終わったの?」
(まぁ今日は終わりやな。二人ともばてて動かへんやろ)
返事がない二人に代わってシルフィンが答える。
「ふぅん。あ、そこの木の陰にお風呂置くから、アルフォンスは一回部屋に戻って」
千夏はそう言いながら木の陰に向かう。
「わかった……後で入らせてくれ……」
アルフォンスはよろよろと部屋に戻る。
アイテムボックスから木風呂を取り出し、リフレッシュの魔法をかける。
「セレナはこのまま一緒に入っていくよね?」
「うん、入るの」
「じゃあ、シルフィンはお風呂から離して置いてね」
(なんでやねんや!おいらも風呂に入いるぞ)
風呂に入りたがる剣……錆びないのだろうか。
「後で、アルフォンスと入ればいいじゃない」
(別にセレナと一緒でええがな。剣は主人と一心同体や。あ、もしかしておいらを男だと思って警戒しとるのか?妖精に性別はないのが常識やぞ)
それならば特に異存はない。
千夏は自分の体とセレナの体、そしてタマや剣にリフレッシュをかける。そして、服をアイテムボックスに収納し、適温になったお風呂にはいる。セレナは近くの木に服をかけると、妖精剣をもって湯船に入ってきた。
(あかん、極楽極楽。風呂入るんは、ほんま久しぶりや)
ぶくぶくと剣は湯船に沈み、お湯の中から声が聞こえてくる。セレナは疲れた体を伸ばし、湯船に沈むように浸かる。しばらくするとお湯の中から歌声が聞こえてくる。
「タマも入るでしゅ」
どぼんとタマが飛び込みお湯があふれる。タマは仰向けになった状態で湯船ぷかりと浮かぶ。二人用のお風呂なので結構いっぱいだ。特にシルフィンがうるさい。
次からは別々に入ろうと心に誓う千夏であった。
(おう、走れ、走れー!)
楽しそうなシルフィンの声が聞こえる。
今馬車と並走するように、アルフォンスとセレナが必死に走っている。
「ありえないわ……」
千夏は馬車の中から必死に走っている二人を見つめる。
なにが楽しくて人は走るのだろう……
もちろん、アルフォンスもセレナも走るのが好きなわけではない。ひとえに強くなりたい!それだけだ。
「まだ余裕そうですね。もう少し速度をあげましょうか?」
御者台に座った鬼が軽く馬にムチを与える。
「まじ、やめろー!」
走りながらアルフォンスが叫ぶ。少しずつ馬車と二人の差が開いていく。
彼らはかれこれ2時間ほど走り続けていた。さすがに剣や防具など走るには余分な装備は馬車につんでいる。それなりに差が開いたところでエドは馬車を止める。
(半日は走り続けられへんとあかんな。鍛えれば鍛えただけ強くなれる。きちんと修行を積んでおいたほうがええやろ)
「それって何基準なの?」
(普通の冒険者の基準やぞ)
しれっとシルフィンは答える。
(それって一緒にいた勇者基準じゃないのだろうか……私は走れといわれても走らないけどね)
千夏は少し遠くから、こちらに向かって必死に走ってくる二人を見る。
まぁ本人たちが好きでやってるのだから別に問題はない。
二人が追いつくまで少々時間がかかりそうだ。千夏は馬車から降りてうーんと大きく伸びをする。
(せやけど、チナツはわけがわからんな。ルビードラゴンを連れとるだけやなく、そのおっきー気力はなんなんや?)
シルフィンは千夏に向かって訝しげに尋ねる。
「そう?自分ではよくわからないんだけど……タマは運良く選んだ従魔の卵に入ってただけだしなぁ……」
(卵から孵せるだけでも普通ではおまへんやろ?)
といわれても千夏には全くわからない。
千夏の表情を見て、こりゃあかんわ……とシルフィンは呟く。
そうこうしている間に二人が馬車に追いついてきた。馬車に辿り着くと、二人は屈みこみ、ぜぃぜぃと繰り返す荒い呼吸を整えようと必死だ。
エドはアイテムボックスから水を取り出し、二人に渡す。二人は水をがぶ飲みししたあと、ばたんと大の字に地面に倒れこんだ。
(1時間、馬車で休憩やな)
そうシルフィンがいうとエドは二人を馬車の中に運びこんだ。お姫様抱っこでなく、肩に担がれ荷物扱いだった。
千夏が汗だくの二人にリフレッシュの魔法をかけておく。
まだ先は長いのだ。再び馬車が走り始める。
誤記を修正しました




