試練の森 (2)
遅くなりました。
説明回で書くのが遅く、かつセーブせず消えたりとか……
過去に千夏は状態異常にかかったことがある。
そのときは自分の意識が遠のき、単なる操り人形となってしまった。
状態異常に強い竜であるタマとレオンがいなければ、その状態を脱出することができなかった。
なにせS級冒険者ですらその状態異常の耐性がなかったために、同じ状態に陥ったのだから。
しかし今回はタマもレオンも同じ状態異常にかかってしまっている。
救いなのは自分の意識がはっきりしており、自由に体を動かすことが出来るということだ。
またユキの説明ではこの試練の森自体のエリア特殊状態異常であり、この森を抜ければ元のレベルに戻れるはずだ。
念のために転移でこの森を脱出することができるかを確認するが、駄目だった。
少なくとも不発の原因はエッセルバッハではないところにあるか、千夏の知っている南国諸島の街の近くにないか、それともミジクのときと同様に魔法結界が敷かれているかのどれかにあたるのだろう。
千夏は転移をあきらめて久々に自分のステータスを千夏は確認する。
「ステータスオープン」
佐藤千夏
Lv 10
生命力 180 (10,335,240)
魔力 140 (9,245,000)
気力 30 (12,000)
持久力 25 (35,580)
Str 12 (12,156)
Vit(DEF) 12 (+防具10)
Dex 12
Int 14
Agi 12
Luk 11
状態異常:エリア限定でレベル制限(10日間)
どうやらユニークスキルのほうはLv依存でないため、そのままのようだった。
魔力も気力も十分に貯めこまれており、生命力も十分にある。
ステータスは軒並みさがっているため、魔法の威力はかなり落ち込むはずだがそれ以外は特に問題はなさそうだった。
「なんか状態異常に10日間って書いてあるけど、これなに?」
「そうそう、そうなんだよね。再鑑定してみたらどうやらこのエリアに最大10日間しかいられないみたい。それまでにエルフの里に辿りつかないと元の場所に飛ばされちゃうみたいなの」
千夏の問いにユキがすぐさま答える。
鑑定のスキルは便利だなと思うと同時に期限付きの探索に千夏はうんざりする。
食料は大食いの千夏のためにルナが大量に作ってくれたので、余裕で一カ月は過ごすことができる。
だが、試練の森の地図はない。
ユキの勘がエルフの里を指し示していると仮定して、それ通りに進んだとして期限内に辿りつけるのかが未知数だ。
「なんだか面倒になってきた……。10日間ここでだらだら過ごしてフルール村に戻るというのは?」
「ええ!エルフの里に連れて行ってくれるのじゃないの?佐藤さんって本当にやる気がないのね……」
千夏の提案にユキは唖然とする。
だがそんな千夏に慣れているエドの一言で千夏はやる気を取り戻す。
「この森は魔法で外界から切り離されているのであれば、探索次第では珍しい食べ物が手に入るかもしれませんね」
「―――頑張ります」
「では話を進めましょう。Lvダウンが本当であればゆゆしき問題です。
いままで通りの戦闘ができないと考えてください。
物理的には回避がほとんどできない上、攻撃力や防御力が下がるのでEランクの魔物相手に苦労することになります。
また魔法自体もステータスが下がっているため、威力が出ない上にすぐに魔力枯渇に陥るということになります」
エドの説明を聞き、ブンブンと剣を数回素振りしたアルフォンスが顔をしかめる。
「本当だ。確かに、動きがかなり鈍くなっている。こりゃあ、動きづらい」
「ということは……ヒール2回かけたらたぶん魔力枯渇するかも……。補助魔法に魔力を回す余力がない……」
リルは見習い治療師時代を思い出しながら不安気に呟いた。
なにせ見習い時代は王都の治療院で限界ギリギリまでヒールを使って、魔力枯渇して気絶。魔力が回復したらヒールの繰り返し。全くいい思い出がない。
(なぁに修行だと思えば問題ないやろ。
最近、お前ら緊張感がなかったからいい訓練なる。
初心に戻るんじゃなくて初心者に戻るってのが笑えるけどな!)
セレナの剣からにゅっと現れたシルフィンがニヤニヤと笑いながら、弟子たちを上空から見下ろす。
(レベルが下がってステータスも低くなったかもしれんが、スキルは別もんや。レベルが下がった分、接戦になるんやったらスキル上げに向いてるしな。普段の修行を生かして、避けて避けて避けまくるんや!お前らならやれるはずやで!)
「そうだな。これも修行だ」
「頑張るの」
アルフォンスとセレナはそれで納得したようだ。
「スキルって何?ユニークスキルとは別のもの?」
修行馬鹿師弟の会話で千夏がよく知らない単語がでてきた。ユニークスキルならここに来たときにもらったものなので分かるのだが、どうやらそのことではないようだ。
「そう。ユニークスキルは生まれ持って取得していたスキルのことで、普通のスキルは行動結果で取得できるもののことよ。ステータス画面の下のほうにスキルって矢印ついてない?それを押すと見れるわよ」
鑑定を使いこなしているユキの説明を聞いて千夏は再度ステータス画面を広げる。
確かに一番下に「▷スキル」という表示がある。
ぽちっと押してみるとスキルが表示された。
礼儀作法 Lv1、馬術Lv1
火魔法 Lv8、水魔法 Lv8、風魔法Lv6、空間魔法Lv4
鋼鉄の胃袋 Lv7、気力操作 Lv6、妖精感知Lv2、妖精召喚 Lv4
気絶耐性 Lv2、毒耐性 Lv1
ユニーク:貯める
いつ取得したのか全く分からないものがあるが、確かにスキルはレベルダウンという状態異常に影響されていないようだ。
セレナの剛腕の腕輪も問題なく使えているようなので、マジックアイテムにも制限はないようである。
(といっても怪我をされても困る。安全だけは確保しないと駄目かも)
千夏はこっそりとリルに話しかけた。
セラに千夏のユニークスキルである「貯める」の能力のことは基本他言無用と言われている。
リルやパーティトンコツショユのメンバーにユニークスキルについて教えても問題はないが、単に千夏は説明が面倒だったから端折ることにした。
「リル、魔力を譲渡できる指輪持ってきてる?」
「あ、うん。あるよ。でも……」
Lv10前後の魔力を譲渡しても焼け石に水だとリルは思ったがその言葉をぐっと飲み込む。
「大丈夫。問題ないから。私を信じて。みんなが危なくなったらお願いね」
千夏はリルが取り出した青い指輪を指に嵌めて、にっこりと笑う。
リルは至近距離の千夏の笑顔に顔を赤くすると、「うん。分かった」と素直に答え赤い指輪をはめた。
(ほな作戦会議を始めるで!)
シルフィンはパンパンと手を叩き注目を集めた。
(まず前衛はタマとレオンや。Lvが下がったといっても竜の防御力なら多少の敵なら問題ないやろ)
「はいでしゅ!頑張るでしゅ!」
「分かった」
元気に答えるタマと普段のパーティ戦では見学組のレオンが素直に頷く。
(それからタマは魔剣は使ったらあかんで。すぐに魔力切れで倒れるからな)
「はいでしゅ。ちーちゃん、他の剣が欲しいでしゅ」
タマのおねだりに千夏はアイテムボックスから以前タマが使っていた壊れにくいだけが取り柄である大剣を取り出した。
レオンも素手では心もとないので、エドが自分のアイテムボックスから大盾と剣を取り出して渡す。
「すぐに壊れそうだな……」
「大物とやらなければ大丈夫ですよ」
(遊撃はアルフォンスとセレナとコムギや。最初は様子見で一撃いれたらすぐに離れるんやで。ええな)
アルフォンスとセレナは生真面目に頷くが、シルフィンの言葉にコムギは不満そうに「クゥ……」と鳴く。
(まぁ行けそうやったら行ってもええ。判断は任す。ただしあんまり回復魔法に期待せんことが前提条件や。分かったな?
エドはチナツ達の護衛で後ろで守ってや。後衛のリルとチナツは魔力枯渇に気を付けるんやで。
おいらからは以上や)
(あの……、私は?)
すっかり忘れられていたユキが居心地悪そうにおずおずと手を上げる。
(ユキは後衛。前衛はたくさんおるからな)
(後衛って……。魔力枯渇したばっかりなのに?)
みなが状態異常で軒並みLvダウン中、彼女だけはその対象外でLvも21と一番高かった。
一番ダメージを与えられるのは自分じゃないの?とシルフィンに向かって抗議する。
(安静にしとらんと魔力はなかなか回復せんやろ?バランス的に後衛できる人間が増えた方が楽なのは分かるやろ?)
そう言われてしまえば、これ以上駄々をこねるわけにいかなくなる。
ユキは渋々と頷いた。
さすがにこの森でどんな魔物が出るのか不明なため、フォローを入れる余裕があるのかさえ分からない。
シルフィンとしては初心者のユキに乱入されて連携が取れなくなることを心配しての配慮だった。
「んじゃ珍しい食べ物を探しに出発!」
全員の準備が完了したので千夏が意気揚々とそう声をかける。
「どんな魔物がでるかワクワクするでしゅ」
「ん、楽しみなの」
タマとセレナは期待に胸を膨らませ、互いに顔を見合わせにこりと笑う。
「だからエルフの里探しでしょうに……」
すっかり主旨が変わってしまっていることにユキだけがぼそりとそう呟いた。
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千夏のスキルはあんまり思いつかなかったり……




