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エルフの里へ

 カーテンの陰からよろりと出てきたエルフの少女は嗚咽を上げながら泣きだした。

 千夏が近寄っていっても彼女は逃げなかったので、千夏は彼女の背中をゆっくりとさする。

 

 「な、なんで泣いてるんだ?」

 涙に対応できないアルフォンスがおろおろしながら千夏に尋ねる。

 「大丈夫、怖くて泣いてないから。そうそうなんか食べ物もらえるかな?」

 「なんで食べ物を?いくらなんでもこの状況でそれはないのではないですか……」

 千夏の食いしん坊ぶりを知ってるエドが呆れて答える。


 「違うよー。私が食べるんじゃなくてこの子の。こんな痩せてるだからしっかり食べないとだめでしょ」

 自分が食べたいと言っていると勘違いされた千夏はちょっとむくれて答える。

 「では消化のよいものをもってまいりましょう」

 納得したエドがすぐに部屋を出ていく。


 「ちーちゃん、この人痛い痛いのでしゅか?」

 ちょこちょことタマが近寄ってきて、泣いているエルフの少女の背中を一緒に撫でながら尋ねる。

 「そうだね。痛くて辛いんだろうね。タマ、治療してあげて」

 「はいでしゅ」


 タマはこくんと頷くと光魔法で少女をいやす。

 一度他の治療師が彼女を治療していたが、その治療師が消せなかった手首のアザもきれいに消えていく。

 「で、結局どういうことなんだ?」

 触れられることを極端に嫌がっていたエルフの少女が素直に千夏の手を避けずにいることにバーナム辺境伯は訝し気に尋ねる。

 

 「あー、私の知り合いの知り合いだったの。ずっと怯えていたから安心したみたい」

 千夏はそう答えた。

 同じ転生者であることを説明するのが面倒くさかっただけだ。

 実際千夏が転生者であることを知っているのは同じ転生者の一部かセラくらいしかいない。

 アルフォンス達に言っても別に問題ないのだが、説明するのがただひたすら面倒だった。

 

 「とりあえず、彼女が落ち着いたらうちの村で引き取ります」

 フルール村には転生者が何人かいる。エルフの少女もそのほうが気持ち的に楽になれるはずだ。

 「いいのか?最終的にエルフの里まで送ってくれるのだろうか?」

 バーナム辺境伯は少しほっとしたように千夏を見る。

 どうやら厄介事が片付いたと思っているようだ。


 「エルフの里に行くかは彼女と相談して決めます。行きたいというなら送りますけど……。メルロウ、場所わかるよね?」

 「ふん。何百年と帰っていないが覚えとる。だがわしはいかんからな。コリン達の面倒をみなければならんし。地図くらいなら書いてやる」

 「……まぁ地図見ていけるならそれでもいいよ。彼女が落ち着かないとね」

 


しばらくするとエルフの少女は泣き止んだので、千夏はペンと紙を彼女に渡す。

 エルフ語で通訳してもらってもいいのだが、込み入った話なら筆談のほうがいいかと思ったからだ。

 しばらく情報交換をしていたらエドが粥を作って持ってきてくれたので、少女に食べるようにすすめる。


 少女――ユキは素直にスプーンを手にとり粥を口に運ぶ。

 その姿をみたバーナム辺境伯は軽く頷いてから部屋を出ていった。

 メルロウもさっさと帰りたいというのでエドに連れて帰ってもらった。

 残ったのはアルフォンスと千夏とタマとコムギだけになった。


 コムギとタマは千夏の横の椅子に腰かけて少女に向かって自分の名前をひたすら言ってる。

 さっき人の言葉でチナツとユキという言葉を何度も千夏がユキに教えていたからだ。

 自分達も名前を呼んでもらいたいらしい。


 「タマ、コムギ」

 ユキは粥を食べ終えると二匹をそれぞれ指さしながら名前を呼ぶ。

 「はいでしゅ」

 「あい」

 名前を呼ばれた二匹は嬉しそうに笑う。

 心に余裕ができたのかユキも二匹につられて笑顔を見せる。

 それをじっと見ていたアルフォンスが今度はしきりに自分の名前を連呼しはじめた。


 千夏はペンをとると一行書き込む。

 『あの人はしつこいから名前を呼ばないと一晩中言い続ける。嫌な奴ではない。ただの馬鹿』

 ユキはじっとアルフォンスを見て嫌そうな顔をしながら「アルフォンス」と呟いた。

 もちろんアルフォンスは大喜びだった。


 その日は千夏の現在の状況を説明しバーナム辺境伯の屋敷に一泊した。

 ユキは魔法についてかなりの興味を持ったので、ついでに簡単な魔法もユキに転写する。


 ユキはひどい頭痛にしばらく頭をかかえていたが、試しに覚えた魔法を使うとユキ本来の中二病が発動し、笑いが止まらなくなる。

 『まじやばーい。異世界きたこれ!』

 知らない場所で同じ日本人に会えたという安心感からユキはその日の夜はぐっすりと眠れたようだ。


 次の日の朝。

 朝食をいただいた後に、フルール村に転移する。

 一応きちんと説明しておいたが、ユキはのしのしと歩く竜達をみてなにやら叫んでいる。千夏は怖がらないかなと様子見してたがどちらかといえば興奮しているようだった。


 竜達が巨大な前足をちょこっとユキの目の前に差し出し、フォローするように千夏が書いた紙に「よろしくだって」と記されているのをみて、ユキは最初は怖々と竜達が大人しいので次第に大胆に竜に触っていく。

 

 ある程度落ち着いたところで、ユキを村にある冒険者ギルドに連れて行った。

 どうやら身分証を持っていないのでこれからを考えると作った方がよいとおもったからだ。

 ついでにものは試しとパーティにも登録した。


 (え?聞こえるの?私の言ってることが!!)

 どうやらパーティ内に異種族(エルフ・妖精・竜・人)が揃いまくったので、パーティ内のタマやレオンを通しての念話は共通語に変換されていたらしい。


 「知らなかった……」

 (あのなーチナツ。ハマールでの訓練で一般兵とおいらがしゃべてたの知ってるやろ。あいつら妖精の加護もっとらんのにしゃべれるのが不思議じゃなかったんか?)

 「そうだったねぇ……。まぁこれでしばらくメモなしでも大丈夫ってことか。楽でいいわー」

 筆談が面倒になってきた千夏にはありがたい機能だった。



 十分に体を元の体重に戻し、この世界の一般知識を覚えるまではフルール村で養生することになる。

 もちろんずっとユキがとんこつショウユのパーティに入っているわけにもいかないので、本人の希望もあり落ちついたらエルフの里に一回行ってみることになっている。

 エルフの里が暮らしやすそうだったらそのままそこにユキは居つく予定だ。


 ユキがフルール村にきてから三ヶ月が経過した。

 しっかり体重が増え、片言だが村人に挨拶できるようになった。

 そろそろエルフの里に移動しても問題なさそうだった。 


 里への地図をメルロウに書いてもらい、(地図代として金貨10枚とられた)それによると里自体は南国諸島にあるバルモアという島にあるそうだが、エルフがいれば各地においてある転送魔法陣が使えるそうだ。

 一番近い魔法陣はバーナム辺境伯が治める未開発の森にあるという。


 「結構楽に行けそうだね」

 千夏の横から地図をじっと覗きこんでいたリルが言った。

 「ユキさんがいれば転送魔法陣は動くらしいのですが、エルフ以外のものがその魔法陣にのると試練の森という場所に転移させられるそうなんです」

 メルロウから話を聞いていたエドが眼鏡をくいっと押し上げながら難しそうな顔で答えた。


 (試練の森ねー。どんな試練があるんや?)

  リルの頭の上に乗っかったシルフィンが尋ねる。

 「メルロウさんはそもそもその魔法陣を使ってエルフの里に帰ったことがないそうなので、詳しくしらないそうなんです」

 「まぁ彼女一人で行けといっても難しそうだよねー。はぁー試練か……。なんか面倒そう……」

 ぐでっとテーブルにつっぷして千夏はだらけはじめた。

 そもそも働くのですら面倒なのに、試練なんてありえない。 


 「じゃあ直接、バルモア島にでもいく?」

 「そちらからいってもエルフの領域に入ったら試練の森に飛ばされるそうなので移動距離がかかるだけ余計に面倒ですね。第一、バルモア島に特定航路はないらしいので船を借りる必要があります。

  船旅にあの面子が耐えられると思いますか?」

 ちらりとユキを中心に盛り上がっているセレナとアルフォンスを振り返りエドが答える。


 「……楽なほうで行こう」

 千夏は投げやりにそう決めた。

 「それとメルロウさんはあまり竜は連れて行かない方がいいといってました。エルフが警戒するからと」

 「タマは行くでしゅ!」

 「僕も行くぞ!」

 タマとレオンが身を乗り出して叫ぶ。


 二匹を置いていくわけにはいかない。

 「……ということなんで那留は留守番でお願いするわー。竜の長老はまずいっしょ?」

 「俺も行きたかったなぁぁ……」

 悔しそうに那留はがしがしと頭髪をかき混ぜる。


 本当は千夏としては竜さん達を全員連れていきたいと思っていたくらいだった。

 試練の森なんてなんてうさんくさい場所には。


 「どのくらい食事が必要になるかわからないから、いろんな種類を多めに作って欲しいんだけど」

 千夏は背後に執事のように立っていたルナにそう告げる。

 「分かりました。ご主人様のために今から大量に料理を作りましょう!その代り出かける前に是非マッサージ券を1枚は使ってくださいね!!」

 「――――考えておく……」 

 


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