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SS 竜騎士もいろいろ

リハビリ中のため、昔書きかけていたSSを先に更新しました。

……また竜好きの話です

―――――目指すはハマールで一番の竜騎士。

 オルランドは子供のころからその夢を叶えるべく、必死に努力し続けてきた。

 竜の気持ちを掴むため、竜舎で寝起きすることすでに4年。相棒とも呼べるワイバーンのシルスとはもはやツーカーの仲だ。


「兄さんの夢は判るけど……。もういい年なんだから竜のお尻ばっかり追いかけていないで、お嫁さんをもらって母さんを安心させてあげたら?」

 たまに着替えを届けにくる妹が毎度の小言を言われ、オルランドはむぅと唸る。 


 竜騎士はハマールでは女性に人気がある職業だ。次々に可愛いお嫁さんをもらい、幸せそうに笑っている同僚がちょっぴりうらやましくもある。特に一人で夕暮れ時に竜舎の近くの井戸でパンツを洗っているときはとてもせつない。だけどまずは夢を叶えてからだとオルランドは無理やり自分を納得させ、今日も黙々と人気のいない竜舎の前で剣を振る。


 そのかいあってかオルランドは竜騎士団の中では副長に続いてNo.3まで上り詰めた。若手騎士の出世頭だ。しかし無情にもオルランドの竜騎士としてのプライドを滅多打ちにした事件が起きる。相棒でもあるシルスが彼のいうことを聞いてくれない出来事が起きたのだ。


 隣国エッセルバッハから騎士団がやってきた日。ワイバーン達は自分を含めた竜騎士の言葉に目もくれず、その騎士団相手に威嚇の雄叫びを上げ取り囲むように上空をぐるぐる回り始めたのだ。


「ええい!竜達をなんとかしろっ!」

 すぐ近くで竜騎士団長の怒鳴り声が聞こえて来る。オルランドは必死に相棒であるシルスに声をかけるが、彼の声が届いていないのか……シルスを含めたワイバーン達はなかなかいうこと聞かない。


 竜騎士がなんとか竜達をとりおさえ、隣国の騎士団から離れた場所に移動させることに成功したのはそれから数十分もの時間が経った後だった。


 更に追い打ちをかけるかのように魔族が西の砦に現れ、次々と竜騎士を片手で捻りつぶしていく。

 竜騎士団が食い止めなければ、他に魔族を食い止められる軍隊はハマールにはない。オルランドは風の魔法の刃に傷だらけになりながらも、必死に翼を動かすシルスを励ましつづけた。


 絶望感に包まれながらもオルランドがその後に見たものは、白と水色の2匹の竜の姿であった。




 

 千夏が西の砦に大きなクレーターを作ってから数日が経っていた。

自治領がどうだとかいろいろハマールとエッセルバッハ両国の思惑が絡み合い、千夏達一行はしばらくの間ハマール王都で留まることになってしまった。


 領主になるのだとかわけのわからないことを突き付けられた千夏はやけ食いに走り、タマはジークを連れて皇太子宮の庭にある池の近くで泥んこ遊びに熱中していた。


「コムギでしゅ」

 タマは泥で作り上げた塊をぽんぽんと叩き嬉しそうに笑う。

 ジークは何かの塊にしか見えないそれを見て返事に少し困り笑った。


「タマ、ここをこうしたほうがもっとコムギっぽくなるよ」

 ジークはたぶんコムギの頭と思われる箇所に土を盛り、特徴的な耳と口元を整える。

「ほんとでしゅ。ジーク凄いでしゅ」

 タマはキラキラと目を輝かせながら自分より背の高いジークを尊敬のまなざしで見上げる。


「……そうかな。あとしっぽをこうしたほうがいいかも」

 タマの視線を受けて、ジークは少し照れながらもコムギの像に手を入れていく。

 そんな二人を少し離れた木からじっと見つめる男が一人。竜騎士オルランドだった。


「むぅ……」

 彼は低く唸る。やはりどこからどうみてもタマは竜に見えない。

 あの日魔族を撃退した竜が、皇太子宮で人の姿になり過ごしていることはすでに王宮では有名な話だった。成竜であるハーフドラゴンはどれが竜だか判らなかったが、小さなルビードラゴンは幼児の姿であることをオルランドは突きとめていた。


 とりあえず彼はひらいた手帳に『芸術センスなし』とタマの作り上げた像を見てメモを書き込む。

 彼の手帳にはここ数日タマを観察した結果のメモが無数に書き込まれている。

 どこからどう見ても立派なストーキングである。


 魔族との戦いで彼の相棒であるシルスは傷つき現在療養中だった。彼は今まで溜まりに溜まっていた休暇を使い、ワイバーンの上位である竜を観察することにしたのだ。竜を間近で見られること滅多にない。こんなチャンスを逃してなるものか。


 ジーク殿下と幼竜は自分達が作った像に満足したのか、パンパンと手をはらって皇太子宮に戻っていた。たぶん汚れた体を洗うのだろう。さすがに皇太子宮の中までオルランドは踏み込めない。


 オルランドはそのまま木にもたれかかり、どっしりと座り込むと肩から下げていたカバンからお弁当を取り出した。もちろん彼のお手製弁当だ。

 堅めのパンには大きめにスライスしたチーズをのせる。おかずは甘辛く味付けした鳥と根菜の煮物だ。

このおかずはオルランドの田舎でよく採れる少し酸っぱい香辛料をふんだんに使った王都では食べられない味だった。


「――――?」

 おかずの蓋を開けたときにごそごそと近くの茂みから何かが這い出て来る。

「ん?ん?いい匂い」

 這い出てきたのは千夏だった。ついさきほどまで木陰で居眠りをしていたのだが、強烈な香辛料の匂いで

起きてきたのだ。 


 オルランドは千夏のことは知らない。興味は竜だけだったからだ。

 千夏が着込んでいる古着はこの宮の女官服とは全く異なる。女性の服について詳しくないオルランドでもすぐに気が付いた。


「ん?その服は竜騎士団?」

 何者だっ!そう問いただそうとオルランドが問いただす前に千夏が先に口を開いた。

 実は竜騎士団は現在皇太子宮への出入りは禁じられていた。事情はよくわからないが、騎士団の上層部が

勇者ともめ事を起したせいらしい。

 なのでオルランドはこっそりと見つからないようにずっとタマのストーキングを続けていたのだ。


「ああっ、服を着替えてくればよかったっ!って俺はこれ以外もってないし……」

 ずっと竜舎で毎日暮らしていたオルランドは私服を持っていなかった。小姑のように口うるさい妹にもっとおしゃれな服を買えとよく言われていたが……買っておけばよかったと後悔する。


「出来ればここで見たことを黙っていてくれないか……」

「なにしてたの?仕返しでも考えてた?」

「仕返し?何のことだ?」

 オルランドは不思議そうに千夏を見つめる。どちらかというと砦を守ってくれた勇者達に彼は感謝していたのだから。


「んじゃ、何してたの?」

「むぅ……実は竜の観察を……」

 オルランドは素直にタマを観察していたことを千夏に告げた。ついでにここ数日つけていた手帳も千夏に見せる。


 千夏は手帳をじっと眺めるとぷっと吹きだして笑い出した。

 ついさきほど書き込んだ『芸術センスなし』や、千夏作詞作曲でタマがたまに口ずさむ『おなかがすいた』の全歌詞や、事細かな仕草などいろいろ手帳に書きこまれていたからだ。


 きっとオルランドはアルフォンスと話が合うに違いない。馬鹿正直さと竜好きが二人の共通点なのだから。でも今はアルフォンスは訓練で忙しい。


「そうねー。そのお弁当を分けてくれたら黙っててあげる」

 千夏はにんまりと笑ってそうオルランドに告げた。





 それから千夏達一行がフルール村に出立するまで、オルランドは千夏公認でタマのストーキングを続けた。もちろん千夏にばれた後は新しく服を買ってきて着替えた。

 今日も朝早くから起きた彼は千夏への賄賂であるお弁当をせっせと作り、木陰からタマを観察し続ける。 

 タマには気が読めるので誰か見ていることは気が付いていたが、千夏に黙っていてあげてと言われていたので、気が付かないふりすることにしていた。


 千夏は賄賂であるオルランドのお弁当をつつきながら、当たり障りないタマのエピソードをオルランドに話してあげたりもした。


 

「なぁ、シルス。お前もしゃべれたらなぁ……」

 オルランドは今日も一人寂しく洗ったパンツを干すと、竜舎の中でうとうとしているシルスの横に寝転びながらそう呟いた。

 シルスはじっとオルランドを見て一声「グワァァ」と鳴く。

 オルランドはよしよしとシルスを撫でたあと、いつの間にかすっかり覚えてしまった『おなかがすいた』のタマバージョンを口ずさむ。

 


 それからしばらくして、朝の竜舎から音が外れたワイバーンの歌声がよく聞こえるようになった。




前半はかなり前に書いたものです。

1000文字くらい書き散らしたSSがいくつもあって、本編をちょこちょこと書きながらこっちを先にあげました。

ハマール編でいぢめっこ(騎士団)しか出てこなかったので、竜騎士団なんだから竜好きもいるよということで書いたものですが、結局変な人ですね。


あと感想欄とコメント欄に多くのおかえりなさいメッセージありがとうございました。全部に返信したかったのですが、語彙が乏しくて「ただいま」しか書けないのであえてコメント返ししませんでした。

本当にすみません。

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