ゼンにて
お久しぶりです。
久しぶりに更新(修正)しました。
詳細は活動報告に書こうと思います。魔王編をとりあえずやめました。
すみません。
「いいか、合図があるまで動くなよ」
ティドは小声でそう言われ、素直に頷く。
彼の冒険者ランクはD。コツコツとクエストをクリアして昇格したばかりだ。
本来ならこのような大がかりな緊急クエストに組み込まれるランクではない。だが今回の緊急クエストは領主である辺境伯バーナム卿の意を組んで、可及的速やかに片づけることになっている。
ティドのようなまだ駆け出しの冒険者でも数合わせでもこの緊急クエストに参加している状況だった。
ゼンの街からかなり離れた山奥。数十年前に他の村と併呑された廃墟となった村。
ここにそれなりの規模の盗賊団がアジトに使っているらしい。
すでに大勢の冒険者達が廃墟となった村の瓦礫に身を潜め、かつての村長の屋敷として使われていた廃屋の周りに展開している。
ここまでの道中で捕えた数十人の盗賊達の話によると、今ここにいる盗賊の人数はおよそ20名前後。
(大丈夫かな……)
ティドはモンスター以外の相手と戦闘したこともなければ、こんなに足場の悪い場所での戦闘経験はない。
(ああ、こういうときにセレナがいればなぁ……)
ティドは領主の子息の護衛に出たきりの幼馴染の少女を思い出す。
「合図だ!行くぞ!」
ティドに軽く目を走らせ、すぐ横にいた熟練の冒険者が槍を構えたまま走り出す。同じタイミングで物陰に隠れていた多くの冒険者達が一斉に走り出した。
(やってやる!)
ティドも剣を抜きがむしゃらにその後ろについて走った。
領主による緊急クエストは無事成功した。多くの盗賊達とその盗賊に誘拐された人々が救出された。
「苦労であった」
バーナム辺境伯はゼンに戻ってきた冒険者や囚われ人を出迎え、厳かに声をかけた。
しかし冒険者達を率いて戻ってきたゼン支部のギルド長は、困ったようにぽりぽりと少し伸びたヒゲが目立つ顎をかく。
「なにか問題でもあったのかね?」
「いやー、ちょっと人質の中にあの子がいたもんで……」
辺境伯の訝し気な声を受け流しながら、ギルド長は解放された囚われ人達を乗せた後ろの馬車を振り返る。
大型の馬車からは薄汚れた服を纏った女子供の集団がよろよろと降りて来る。
何が問題なのかと首を傾げながら辺境伯はその集団を眺めた。
その中で一番がりがりに痩せた小さな子供を見つけ、辺境伯はむぅと声を鳴らす。
ボロボロの衣服に不釣り合いなほど美しい顔と長く伸びた耳。
「……問題というからには、あれはハーフエルフではないのか?」
「そうかもしれないし、違うかもしれないです。ただ、人間の共通語はまるっきり通じない。エルフ語が話せるやつなんて王都にいる学者でも何人いるか……。あんな古語を誰が話せるんですかねぇ。全く……。当分ここで預かるにしろ、故郷に帰してやらなきゃいかんのですがなにせ言葉がわからんのですわ」
人間とエルフの血を持つハーフエルフはまれではあるが、大陸中に散らばっており人間の共通語を彼らは操ることができる。
だが、生粋のエルフは人間嫌いで滅多に人前には現れない。彼らの目撃談は遥か昔の魔王との戦いで人間とは別の集団となって戦った記録が残っているくらいだ。
辺境伯は軽く溜息をつくと彼の傍に寄りそうようにたたずんでいる執事に声をかける。
「マイズリー、あれを呼んでくれ。片言なら話せるだろう」
「かしこまりました」
執事は辺境伯に一礼してその場を離れていく。
「おや、知り合いの学者でもいるんですかい?」
ギルド長の質問に辺境伯は苦笑した。
「いや、珍しいもの好きな愚息だ」




